第七十六話 四魔王エルギーノ
ガキィン!
バコッ!
アリシアとムサシ、そしてサイラスは、混乱状態に陥った兵士たちを次々と峰打ちで制圧していく。
「お前たち!目を覚ませ!!」
サイラスの叫びが、戦場に響いた。
一方、モルガンは兵士たちに背を向け、静かに呟いた。
「……ここは任せたぞ」
浮遊魔法で宙へと舞い、空中に浮かぶエルギーノのもとへと向かっていく。
「ババアが来たな」
エルギーノが口の端をつり上げた。
魔物達は、アリシアとムサシが自分たちへの攻撃を中断したのを見ると、攻勢に転じた。
──前衛の魔物達が、一斉に突撃してくる。
(……くっ……!やっぱり、一人じゃ抑えきれない……っ!!)
魔法を連射するバーバラの表情が、苦しくなっていく。
そこへ──黒の僧侶が並び立った。
「クリスくん!!」
「……群れは我が一掃しよう。貴様はあのガキから目を離すな」
クリスの静かな声が響き、バーバラはピクッと肩を跳ねさせる。
「え!? あ、はいっ!」
戸惑いながらも、バーバラは標的を空のエルギーノに切り替え、魔法を放つ。
「モエ・テローガ!!」
続けて、上空に浮かぶモルガンも魔法を発動する。
「モエ・テローガ!!」
二つの豪火球がエルギーノに向かって飛んでいく。
だが、エルギーノはヒョイヒョイと避けてみせた。
「2対1かよ〜。ずるいわ〜」
バーバラは浮遊し、モルガンの隣へと上昇する。
二人の魔法使いが、四魔王と真正面から対峙した。
──エルギーノは、下の戦場へと視線を落とす。
「ギョエ〜〜〜〜!!」
そこでは、黒き僧侶が両手から漆黒の閃光を放ち、魔物たちを次々と消し飛ばしていた。
「うわぁ。ゴミ達がゴミのように吹っ飛んでる〜……って、あれ全部倒したら、僕に向かってくるのかな?」
エルギーノは肩をすくめ、バーバラとモルガンの魔法をかわす。
「……そしたらもう無理ゲーだね。わっと!」
ヒラリと魔法をかわし、再び距離を取る。
「せめて、あの二人のどっちかだけでも殺しとかないと……うーん……あ?」
エルギーノの視線が、地上の乱戦場の一角に留まる。
そこには、一人だけ剣を振るわず、上空へ手を向ける男の姿があった。
「なーるほど。僕の命令を無視するとは……だいぶ拗れてるね。ふふっ」
バーバラは苦しげな表情で集中を保とうとしていた。
(もうすぐ……クリスくんが魔物を片付けて、こっちに来る……それまで……絶対に──!)
「モエ・テロ─」
バコン!!
その瞬間、爆破魔法がバーバラの背中に命中した。
「かはっ……!!」
そのまま、空から落下していく。
「バーバラ!!」
モルガンが叫んだ。
「──隙あり。
ライトニング・デス!!」
エルギーノの手から放たれた電撃が、モルガンを直撃する。
「ぐあああっ!!」
続け様に──
「まずはババアからだ。死ね」
禍々しき黒紫のエネルギー弾が、宙に漂うモルガンへと放たれた。
だが──
バシュン!!
その魔法は、下からの一閃によって霧散する。
エルギーノが顔をしかめた。
「ちっ。もうゴミ掃除終わっちゃったのかよ。早いっての」
空中に現れたのは、魔物たちを殲滅し終えた黒の僧侶。
クリスは目を力ませ、エルギーノを金縛りにしようとする。
だが──効かない。
(……この男、これまでの敵とは……格が違う……)
空中で、両者が対峙する。
「ケシ・トーベ」
「ライトニング・デス」
黒き閃光と黒き稲妻が衝突し、辺りの空間が炸裂する。
壮絶な魔法戦が、空中で始まった。
終わりなき、破壊と再生の応酬。
瞬間再生持ち同士による、地獄の幕開けだった。
──地上。
「……うっ……」
ふらつきながら、バーバラが何とか立ち上がろうとする。
だが、その前に──剣を抜き、殺気に満ちた目で近づく男がいた。
「……テリオス……? あんた……何してんのよ……?」
バーバラが目を見開く。
「……お前が……憎い……!」
感情のままに、テリオスは剣を突き出す。
ドシュッ!!
「…………え?」
バーバラの目に映ったのは、自分を庇い、剣に貫かれるモルガンの背中だった。




