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黒の僧侶  作者: ヨシダール


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第七十三話 奇襲

時は少し遡り──


城を飛び出し、石畳の街道を駆け抜けるバーバラ。

その背に、ひときわ大きな足音が追いついた。


「バーバラ!」


その声に、彼女は立ち止まる。


「……はぁ……はぁ……ムサシ、さん……」


母に完膚なきまでに論破された悔しさ。自分の未熟さと無力さに押し潰されそうな今、彼女を追いかけてきたのが愛するムサシだったことは、紛れもなく嬉しかった。


だが、それ以上に、そんな姿を見られたことが恥ずかしくて、不甲斐なくて──


「……ごめんなさい……私……」


すると、ムサシは一歩、彼女に近づいて言った。


「お前は間違ってねぇ」


「………え?」


「見てるもんが違うだけだろ。お前はお前で、間違ったことは言ってねぇ。だから、そんな顔すんな」


その言葉に、バーバラはこらえきれず、しゃくりあげながらムサシの胸に飛び込んだ。


「……ぐすっ………ぐすっ……」


ムサシは無言で彼女の背中に腕を回し、そっと支える。


「……そうだ。泣きたいときは、泣いとけ」


「……うっ……うぅっ……うわああああん!!……」


バーバラが泣き止むまで、ムサシは一言も発さず、ただ抱きしめていた。



「……ありがとうございます、ムサシさん……」


「もう、大丈夫か?」


「はい……」

(むしろ、幸せ感じちゃってました……。実は、ちょっと延長してました……)」


「んじゃ、あいつらのとこに戻るぞ」


そう言って、二人が城へ引き返そうとしたその時──


「うわぁーー!!」


街のあちこちから、悲鳴が響く。


石畳を踏みしめる無数の足音。

鉄の軋む音。


「……何!?」


「機械が……暴走してやがる!!」


市街地の広場では、魔法ロボット達が制御不能になり、人々に襲いかかっていた。

建物の壁は次々に粉砕され、空飛ぶドローンも錯乱状態だった。



──アヴァロット城、王宮のテラス。


「何が起きてるんですか!?」

アリシアが叫ぶ。


「……魔法ロボットが暴走している」

モルガンは苦々しい声で答える。


「え!?」


「これまでに、こんなことは一度もない……ロボットを製作する者には、必ず私に報告書を提出させているし、私自身も現場に出向いて細心のチェックを行っている。こんなことは、まず……」


──その時だった。


「アリシア様!ヒノキチを!!」


一同が街の様子に気を取られている中、ただ一人、全方位への警戒を怠らなかったクリスが、上空の異変に気づいた。


「えっ──」


バシューーーン!!


空気が歪み、恐るべき攻撃魔法がアリシアに迫る。


「っ……!」


とっさにアリシアが不死鳥のヒノキチを構えると、魔法は盾に吸収された。


「……あらー。失敗」


その声に、皆が顔を上げた。


そこに浮かんでいたのは──

少年のような輪郭に、不気味な笑みを浮かべた魔物だった。


青みがかった髪は風もないのに揺らぎ、真紅の眼差しが全てを嘲笑うかのように輝いていた。

黒ずくめのコートに包まれた細身の身体はまるで人間のようだが、その気配は明らかに人間ではなかった。


「せっかく街中のロボットをハッキングして、意識を下に向けさせたのになぁ。やるねぇ、君」


「……貴様は……!?」

モルガンが低く唸る。


「僕?エルギーノって言います。四魔王とかいうのやらされます。この国を壊すようにジャダムさんから言われてましてね。で、どうせなら勇者を殺すっていう面倒な仕事も一緒に片付けたいなーと思って、やってみたんだけど、ミスったので──出直しまーす」


そう言って、エルギーノはひらりと身を翻し、飛び去ろうとする。


だが──


「帰すわけなかろうが!!」


モルガンの杖が紅蓮に輝き、放たれたのは超高熱の豪火球。


「うわっ、怖っ」


エルギーノも即座に振り返り、先ほどと同じ巨大なエネルギー弾を放つ。


魔法同士が空中で激突。

轟音とともに爆風が巻き起こり、辺りの木々をざわめかせる。


「そんなん喰らったら、核ごと焼けちゃうっての……。腐っても、元・勇者パーティの魔法使いってわけね。じゃ、逃げろーっと」


エルギーノは軽い口調のまま、アヴァロットの城下町を高速度で突っ切り、街壁の向こうへと飛び去っていった。


「待ちなさい!!」


アリシアが叫び、その姿を目で追う。


だが──


その先に見えたのは、城下町の向こうの平原の彼方から押し寄せてくる、黒い波のような影。


「……魔物の群れ……!?」


──アヴァロットに、かつてない脅威が迫っていた。

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