第七十一話 玉座での告白
玉座の間に、重たい沈黙が流れていた。
その場に残ったアリシアとクリスが、女王モルガンと向き合っている。
モルガンは、二人をしばし見つめ──そして口を開いた。
「そなたたち、すまなかったな。客人に、見苦しい親子喧嘩を見せてしまった」
「い、いえ……」
アリシアがかすれた声で返す。
クリスは、口を結んだままモルガンを見つめていた。
「そなた達……デイビッドの娘と、モーゼフの息子だな?」
「……え!? なぜそれを──」
「見ればわかるさ。ふふ……二人とも本当によく似ている」
先ほどまでの威圧感は消え、柔らかな笑みを浮かべたモルガン。
その変化に、アリシアとクリスは思わず視線を交わす。
「……ん?まさか先ほどの剣士は、コジーロの息子ではあるまいな?」
「いえ、コジーロ様のご子息です。血の繋がりはないようですが」
「……そうか。なるほど、なるほどな……」
モルガンは小さく頷き、どこか遠くを見るように呟いた。
「つまり、二十年前の勇者一行の子供たちが……また一堂に会したというわけか。ふふ……まるで奇跡のような話だな」
「はい。神のお導きに他なりません」
クリスの言葉に、モルガンは思わず笑う。
「ふはは!まったく、モーゼフと同じことを言うのだな。
すまん、そなたたちの名を教えてくれるか?」
「クリスと申します」
「アリシアです」
「……良い名だな。
して、勇者アリシアよ──バーバラはどうだ?
戦力として、役に立っているか?」
アリシアは、即座に首を振った。
「役に立っているなんてものじゃありません。
バーバラがいなければ、大魔王を倒すことは不可能です。絶対に」
モルガンはゆっくりと目を細め、微笑を浮かべた。
「……そうか。ならばこれからも、我が娘をよろしく頼む」
その言葉に、アリシアとクリスは少し戸惑いを覚えた。
バーバラから聞いていた“冷酷な母”のイメージとは、あまりにかけ離れていたのだ。
「……あの、モルガン様。バーバラは、なぜ家出を?」
アリシアの問いに、モルガンはふっと目を伏せた。
「……私の育て方が、悪かったのだ」
「……え?……」
「──あの子には、私を超える魔法使いになってほしかった。
そのために、幼い頃から、朝から晩まで魔法漬けの日々を送らせた。
才能があったからこそ、妥協は許さなかった。
……だから、褒めることすらしなかった。
こんなところで満足されては困ると、ただ、そればかりで……」
語るモルガンの声には、悔いと寂しさがにじんでいた。
それは、冷徹な君主のものではなく──明らかに、“母”の声だった。
「……しかし、それもすべては──
次なる勇者と共に、大魔王を倒してほしいとの願いからだった」
そして──アリシアとクリスをまっすぐに見つめる。
「私の失敗も、報われたようだ。
まさか失踪中に、勇者と出会うとは……。ふふ、流石の私も想像できなかったよ」
「あの……モルガン様、そのことを──バーバラに、直接話してはいただけませんか!?きっと、それが伝われば……!」
アリシアの懇願に──
「無理だ」
モルガンは即答した。
「どうして……?」
「今さら、引くに引けん」
ドヤ顔でそう言い放つ女王に、
側近たちが堪えきれず、くすくすと笑い出す。
「……は?」
アリシアが絶句する。
「ゴッホン。……良いのだ。
ここまで来たら、私への怒りや意地を力に変え、魔王共にぶつけてくれれば良い。
それに……私との不仲があったからこそ、あの子は大切な仲間を得られた。
それが今という結果につながったのだ。だから、このままで良いのだ」
「しかし……」
「こら、聖職者の坊主め。親子の問題に首を突っ込みすぎるでないぞ」
モルガンは、懐かしむような目でクリスを見つめた。
その口調に、かつてのモーゼフとの関係が滲んでいる気がした。
──だが、ふと表情が変わる。
「……ところで、クリスよ。そなた、母親は?」
「……僕を産んだ時に亡くなったと、父からは聞いています」
「……そうか」
モルガンの声がわずかに沈む。
その様子に、クリスは違和感を覚える。
「モルガン様……母のことで、何かご存じなのでは?」
モルガンの目が、わずかに揺れた。
(……確証はない。しかし、おそらく……
だが、これは今言うべきことではない)
「いや。何も知らぬ。……すまんな」
「……そう、ですか」
(……コジーロ様と同じだ。僕の母について、何かを……)
──重い空気を断ち切るように、アリシアが口を開いた。
「あの、モルガン様のご主人は……今、どこに?」
その問いに、モルガンは少しだけ黙り込んだ。
「……ふむ。バーバラと……あのコジーロの息子がいない今ならば、伝えておいても良いか」
そう呟くと、周囲の側近たちに命じる。
「そなたたち、少し席を外してくれ」
「はっ!」
扉が静かに閉まり、玉座の間にはモルガン、アリシア、クリスの三人だけが残された。
モルガンは、二人を見つめながら静かに問いかける。
「……これから話すことを、バーバラと、コジーロの息子には秘密にすると誓えるか?」
「……え?」
「……はい。誓います」
アリシアとクリスは、緊張の面持ちで頷いた。
「……良い。では、話そう。
私に夫はいない。だが──」
モルガンは、一瞬、視線を床に落とし──
再び、真っ直ぐに二人を見つめた。
「──バーバラの父は、コジーロだ」




