表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十 黒の僧侶 ▽  作者: 吉田何某


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/91

第七十一話 玉座での告白

玉座の間に、重たい沈黙が流れていた。


その場に残ったアリシアとクリスが、女王モルガンと向き合っている。


モルガンは、二人をしばし見つめ──そして口を開いた。


「そなたたち、すまなかったな。客人に、見苦しい親子喧嘩を見せてしまった」


「い、いえ……」

アリシアがかすれた声で返す。


クリスは、口を結んだままモルガンを見つめていた。


「そなた達……デイビッドの娘と、モーゼフの息子だな?」


「……え!? なぜそれを──」


「見ればわかるさ。ふふ……二人とも本当によく似ている」


先ほどまでの威圧感は消え、柔らかな笑みを浮かべたモルガン。

その変化に、アリシアとクリスは思わず視線を交わす。


「……ん?まさか先ほどの剣士は、コジーロの息子ではあるまいな?」


「いえ、コジーロ様のご子息です。血の繋がりはないようですが」


「……そうか。なるほど、なるほどな……」


モルガンは小さく頷き、どこか遠くを見るように呟いた。


「つまり、二十年前の勇者一行の子供たちが……また一堂に会したというわけか。ふふ……まるで奇跡のような話だな」


「はい。神のお導きに他なりません」


クリスの言葉に、モルガンは思わず笑う。


「ふはは!まったく、モーゼフと同じことを言うのだな。

すまん、そなたたちの名を教えてくれるか?」


「クリスと申します」


「アリシアです」


「……良い名だな。

して、勇者アリシアよ──バーバラはどうだ?

戦力として、役に立っているか?」


アリシアは、即座に首を振った。


「役に立っているなんてものじゃありません。

バーバラがいなければ、大魔王を倒すことは不可能です。絶対に」


モルガンはゆっくりと目を細め、微笑を浮かべた。


「……そうか。ならばこれからも、我が娘をよろしく頼む」


その言葉に、アリシアとクリスは少し戸惑いを覚えた。

バーバラから聞いていた“冷酷な母”のイメージとは、あまりにかけ離れていたのだ。


「……あの、モルガン様。バーバラは、なぜ家出を?」


アリシアの問いに、モルガンはふっと目を伏せた。


「……私の育て方が、悪かったのだ」


「……え?……」


「──あの子には、私を超える魔法使いになってほしかった。

そのために、幼い頃から、朝から晩まで魔法漬けの日々を送らせた。

才能があったからこそ、妥協は許さなかった。

……だから、褒めることすらしなかった。

こんなところで満足されては困ると、ただ、そればかりで……」


語るモルガンの声には、悔いと寂しさがにじんでいた。

それは、冷徹な君主のものではなく──明らかに、“母”の声だった。


「……しかし、それもすべては──

次なる勇者と共に、大魔王を倒してほしいとの願いからだった」


そして──アリシアとクリスをまっすぐに見つめる。


「私の失敗も、報われたようだ。

まさか失踪中に、勇者と出会うとは……。ふふ、流石の私も想像できなかったよ」


「あの……モルガン様、そのことを──バーバラに、直接話してはいただけませんか!?きっと、それが伝われば……!」


アリシアの懇願に──


「無理だ」

モルガンは即答した。


「どうして……?」


「今さら、引くに引けん」


ドヤ顔でそう言い放つ女王に、

側近たちが堪えきれず、くすくすと笑い出す。


「……は?」

アリシアが絶句する。


「ゴッホン。……良いのだ。

ここまで来たら、私への怒りや意地を力に変え、魔王共にぶつけてくれれば良い。

それに……私との不仲があったからこそ、あの子は大切な仲間を得られた。

それが今という結果につながったのだ。だから、このままで良いのだ」


「しかし……」


「こら、聖職者の坊主め。親子の問題に首を突っ込みすぎるでないぞ」


モルガンは、懐かしむような目でクリスを見つめた。

その口調に、かつてのモーゼフとの関係が滲んでいる気がした。


──だが、ふと表情が変わる。


「……ところで、クリスよ。そなた、母親は?」


「……僕を産んだ時に亡くなったと、父からは聞いています」


「……そうか」


モルガンの声がわずかに沈む。

その様子に、クリスは違和感を覚える。


「モルガン様……母のことで、何かご存じなのでは?」


モルガンの目が、わずかに揺れた。

(……確証はない。しかし、おそらく……

だが、これは今言うべきことではない)


「いや。何も知らぬ。……すまんな」


「……そう、ですか」

(……コジーロ様と同じだ。僕の母について、何かを……)


──重い空気を断ち切るように、アリシアが口を開いた。


「あの、モルガン様のご主人は……今、どこに?」


その問いに、モルガンは少しだけ黙り込んだ。


「……ふむ。バーバラと……あのコジーロの息子がいない今ならば、伝えておいても良いか」


そう呟くと、周囲の側近たちに命じる。


「そなたたち、少し席を外してくれ」


「はっ!」


扉が静かに閉まり、玉座の間にはモルガン、アリシア、クリスの三人だけが残された。


モルガンは、二人を見つめながら静かに問いかける。


「……これから話すことを、バーバラと、コジーロの息子には秘密にすると誓えるか?」


「……え?」


「……はい。誓います」


アリシアとクリスは、緊張の面持ちで頷いた。


「……良い。では、話そう。

私に夫はいない。だが──」


モルガンは、一瞬、視線を床に落とし──

再び、真っ直ぐに二人を見つめた。


「──バーバラの父は、コジーロだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ