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黒の僧侶  作者: ヨシダール


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第六十九話 激怒

——翌朝。


アヴァロット城下町の宿屋にて。


いつも通り、

勇者は下着を選び、

僧侶は祈り、

剣士は鍛え、

魔法使いは剣士に奉仕した。


精算ロボに代金を支払い、一行は宿を後にする。


「本当に……表で人が働いてないのね〜」

アリシアが、眼前に広がるロボットだらけの街並みに目を丸くする。


「はい。にわかに信じがたい光景です」

クリスも困惑したように呟いた。


「私も家出して他の国を見て、やっと分かったの。

最初にこれ見たとき、びっくりする人の気持ちが」


バーバラが言う傍らで──

ムサシは胸筋をポンポンと叩いてニヤリと笑っていた。

(確かに、毎朝あれを飲むようになってから……筋肉のつき方が変わった気がするぜ)

彼の関心は、魔法都市でもAIでもなく、“マホテインの成果”であった。


「そしたらバーバラ、モルガン様に謁見しようと思うけど、いい?」


「うん!行こう!」


バーバラが清々しい笑顔で答えた──その時。


すれ違った若者二人が、何気ない声で話す。


「……あそこの喫茶店、立ち退きくらってるらしいよ」


「え?マジで?……まあでも、あんなとこいらねーよな」


「……え?」

バーバラが立ち止まり、顔を上げる。


「ねぇバーバラ、今のって……まさか、ママさんのところじゃないわよね!?」

アリシアが息をのむ。


バーバラは答えず、そのまま駆け出した。


「バーバラ!」

「行きましょう!」

「おう!」


三人もすぐに彼女の後を追う。



喫茶店の前に着いたとき──

そこでは数人の男たちが、食器や調理器具を淡々と運び出していた。


「やめてください!どうか……どうか!!」

泣き叫ぶママさんが、男の一人にすがりつく。


「やめなさいよあんたたち!!」

バーバラが怒声と共に飛び込む。


「……あ?誰だ…………バ、バーバラ様!?戻られてたのですか!?」


「んなことどうでもいいから、今すぐやめなさい!!何なのこれは!?」


「バーバラちゃん……!」

ママさんが涙ながらに叫ぶ。


「モルガン様のご意向により、この店は立ち退き対象になりました。現在、その執行作業を──」


バゴッ!!


男の胸元をバーバラが思い切りど突く。


「ふざけんなよ!!『立ち退き対象になりました』?人の人生をなんだと思ってんのよ!!」


「し、しかし……」


「おい」

ムサシが前に出る。

その目には静かな怒気と殺気が宿っていた。


「今すぐやめろ。ぶっ飛ばされてぇのか?」


「ひ、ひぃっ……!」


「……これ、本当にモルガン様の指示なんでしょうか」

アリシアが震える声で問いかける。


「……あるまじき暴挙です」

クリスの声も、怒りにかすれていた。


その時──

一人の青年が、悠然とその場に現れた。


灰色の髪に整った目鼻立ち、

高貴な装いに身を包んだ長身、

明らかな"上流"の空気を纏っていた。


「これは──公務執行妨害ですよ、皆さん」


「テリオス!」

バーバラがその顔を見て叫ぶ。


「……バーバラ!?なぜここに──。

……そうか。反省して戻ってきたんだね。お母様も、きっと喜ぶよ。ところで、君からもこの者たちに──」


バチン!!


乾いた音が響いた。

テリオスの頬に、バーバラの平手打ちが炸裂する。


「……なんのマネだ?」

青年が冷たく睨む。


「こっちのセリフよ!!今すぐやめさせなさい!!

あんた、いつまであの母親の坊ちゃんやってんのよ!!」


「……反省どころか、悪化しているとは。つくづく救いようのない姉だ。構うな、続けろ。お前たち」


「ふざけないで……!」

バーバラの右手に、紅蓮の魔力が宿る。


「やめさせないなら……やめさせるまでよ!!!」


だが──


「ダメよ! バーバラちゃん!!」


ママさんが、バーバラを後ろから強く抱きしめた。


「ママさん!?離して!こいつら、人間じゃないわ!!」


「もういいの!お店ならまた始められる!でもね──

バーバラちゃん、あなたの人生は、一つしかないのよ!!

こんなところで棒に振らないでちょうだい!!」


「……そんな……」

バーバラは膝をつき、項垂れる。


「なんだ。店主の方がよほど道理をわきまえているようだな」

テリオスは冷笑しながら言い捨てた。

「全く、情けない。……進めろ」


作業員たちが、無慈悲に店を解体し続ける。


アリシアの目が怒りに濡れる。

クリスは、黙って拳を握り締めた。

ムサシは、唸るように一言だけ吐いた。


「……クソがっ……!!」


──その瞬間。


バーバラの中で、何かが音を立てて切れた。


「……モルガン…………モルガン……ッ!!」


殺気に満ちた顔で、彼女は走り出した。


「バーバラちゃん!!」

ママさんが叫ぶ。


「俺たちも行くぞ!!」

ムサシが叫ぶ。


「はい!!」


「ママさん!ちょっと待っててね お店、必ず何とかしましょう!!」


こうして、一行は──

諸悪の根源が座する、アヴァロット城へと向かった。

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