第六十八話 喫茶店の温もり
「ママさん、いただきまーす!」
「美味しそ〜!いただきまーす!」
「頂きます」
「(パチン!)いただくぜ」
喫茶店のテーブルに、ナポリタンの湯気が立ちのぼる。
四人の冒険者たちは、一斉にフォークを手に取った。
「ん〜、これこれ!」
「美味し〜!!」
「……チーズが惜しみなくかけられているのが、最高です」
「むしゃむしゃ……もぐもぐ……うめぇ!!」
バーバラは三人の幸せそうな表情を見て、胸がぽかぽかと温かくなった。
「これは、バーバラが食べに通っちゃう気持ちもわかるわ!」
「週四くらいは食いてぇな」
「確かに……」
「いや、別にナポリタン食べに通ってたって話じゃないからね!?あっはは!」
バーバラが照れ笑いを浮かべると、ママさんがカウンターから穏やかに微笑む。
「バーバラちゃん、素敵な方々と出会えたみたいね。家出して大正解よ。ふふふ」
「うん……本当に、家出して良かった!」
にっこりと笑うバーバラ。
その表情に、三人も思わず照れくさそうに笑みを返した。
「ところで、皆さんはどういう──?」
「あっ、失礼しました!」
アリシアがぴんと姿勢を正す。
「私、アリシアと申します!」
そう言って、これまでの旅やバーバラとの出会いを簡単に語った。
「勇者様だなんて……びっくり!」
ママさんは驚きながらも目を細める。
「こんな店ですが、どうかごゆっくりしていってくださいね」
「そんな、とても素敵なお店です!故郷のアリエヘンにも出店してほしいくらい!」
「確かに、それは名案です!」
「いや、うちの村がもらう」
(え、ムサシさんの村にママさんのお店……それ最高じゃない!? ムサシさんの家に嫁いでからも──って、何考えてるの私っ!?きゃ〜!!)
バーバラは顔を真っ赤にして水をごくごくと飲み干す。
「あらあら、皆さんお上手ねぇ〜、うっふふ」
(……あら、バーバラちゃん、ムサシさんのこと好きなのね。んふふ)
「それにしても、バーバラちゃん、勇者様に仲間にしてもらえるなんて、あなた、やっぱり凄い魔法使いなのね」
「いや、そんなこ──」
「はい! バーバラはすっごい魔法使いです!」
アリシアが食い気味に言った。
「むしろ私の方が、バーバラと釣り合う勇者にならなきゃって焦ってたくらいです!」
「え、そうだったの!?」
「うん!」
アリシアは清々しいほどまっすぐな笑顔を返す。
クリスは思わず、クスッと笑った。
「あっはっは!バーバラちゃん、アリシア様には調子狂っちゃうんじゃない?」
「ホントに、そうなのよママさん……」
バーバラはそう言いながらも、嬉しそうに笑っていた。
ムサシは、そんな二人のやり取りを優しい眼差しで見守っていた。
「皆さん」
ふと、ママさんが改まった声で言った。
「私が言うのも、おかしなことかもしれませんが……これからも、バーバラちゃんのこと、よろしくお願いします」
その姿に、アリシアは思わず──
自分の故郷で旅立ちを見送ってくれた、義母テレサの姿を重ねていた。
「ママさん……はい! 私たちを、信じていてください!!」
「今日は、ご馳走様でした。本当に美味しかったです」
クリスが静かに頭を下げる。
「ママさんのお人柄にも、心が温まりました」
「美味かった。また寄らせてくれ」
三人の言葉に、ママさんの目には涙がにじむ。
そして──
彼女はそっとバーバラを抱きしめた。
「バーバラちゃん……本当に、良かったわね。私も嬉しいわ……」
「……うん……ありがとう、ママさん」
バーバラの目からも、静かに涙が溢れた。
三人は、その様子を黙って見守っていた。
*
「じゃあ、そろそろ行くね、ママさん!また来るねー!」
「はいはい、いつでもおいでー!皆さん、ありがとうございました!」
手を振って見送るママさん。
バーバラは振り返り、何度も何度も手を振り返した。
こうして一行は、バーバラの案内で近くの宿屋へと向かっていった。
──街はすっかり暗くなっていた。




