第六十三話 説教
その後も、剣バカと盾バカによる謎の競い合いが続いていくかと思われたが、それを見事に止めた男がいた。
──そう、我らが聖職者クリスである。
魔物が駆逐され、辺りがようやく落ち着いた頃合いを見て、彼はふと立ち止まり、やや低めの声で言った。
「アリシア様。少し宜しいですか?」
いつもの優しい声色とは少し違う、やらかした問題児を職員室に呼び出す先生のような口調だった。
その空気を敏感に察したアリシアは、はっとして自分の行動を振り返る。
……完全に、暴走していた。
「……はい……」
怯えたように返事をするアリシアに、クリスはすぐに笑みを浮かべ、いつもの優しい口調に戻る。
「アリシア様、ヒノキチを使いたいお気持ち、お察しします。見ているだけでも痛快ですし。使っているご本人なら、なおさら楽しいことでしょう。それに、盾役として前に出ようという意志も、決して間違ってはおりません」
「……クリス……」
「ただ、です。アリシア様──“魔力をチャージしてビームを撃ちたい”という気持ちの方が、少し先行していませんか?」
「ギクッ!」
「そのお気持ちも、よくわかります。あのビームはまさにロマン砲。一度味わったら、病みつきになってしまうのも無理はありません。ですが、あれはあくまでも“おまけ”の機能として捉えるべきではないかと、僕は思うのです」
「……そう、よね……」
クリスは優しく微笑む。
「アリシア様が盾役になろうと決意されたきっかけを、思い出してください。ムサシさんの斬撃だけで、物理火力はだいたい事足りる──そうおっしゃっていたはずです。そして今や、バーバラさんという超火力の魔法使いまで加わっています」
「……うん。本当に、そうだわ」
「ですから──我々は、こうした移動中の通常戦闘においては、基本的に出番がないのだと、改めて割り切ってしまいませんか?」
「……」
「盾を手にしたから前線に出る。その意志は正しい。ですが──もう、どう考えても、このパーティの通常戦闘に盾は必要ないのです。これは、事実です。……ほら、ご覧ください」
二人が前方に目をやると、鬼コンビによるいつもの駆逐ショーが始まっており、愉快な笑い声が響いていた。
「……うん……絶対いらないわ。知ってたけど」
「アリシア様は、いわば強敵との戦いでのみ出陣する“真打”です」
「……真打……」
「一番カッコいいポジションですよ、アリシア様」
そう言って、クリスはそっとウィンクをした。
「……確かに……かっこいいわね、それ」
「そうです。それに──いつどこで魔王の手下が偵察しているかもわかりません。そうした意味でも、勇者の真の力はなるべく伏せておくべきかと」
「……勇者の、真の力……」
「ええ。雑魚に使うのはもったいない、尊い力です」
「……そうよね!その通りだわ!ありがとう、クリス!」
クリスの思惑通り、自分の想い人であるアリシアが、無駄に危険な前線へ出る習慣を身につける前に、事態は無事収束した。
──かに見えた、その時。
「それに……」
アリシアが、クリスの耳元へ顔を寄せる。
「いざって時には、本当の真打さんに、私のパンツ見せれば助けてくれるしね」
「ア、アリシア様……なんということを……!」
「ふふっ、真っ赤っかよ。エッチな僧侶さんね」
「〜〜っ!」
こうして、真っ赤な顔の僧侶と、真っ赤な下着の勇者は、着実に男女の距離を縮めながら、再び“お散歩組”として歩いていくのであった。




