第六十二話 勇者、暴走する
山を降り、再び平原を進む勇者一行。
「は〜、早くヒノキチを使って戦いたいな〜!」
「……ヒノキチ?」
クリスが首を傾げる。
「うん!この子の名前!素敵でしょ!」
アリシアが背中の盾を親指で指しながら言った。
「……ヒノキチ……」
バーバラは吹き出しそうになりかけて、こっそり呟いた。
(ヒノキチって……!アリシアちゃん、ネーミングセンス草)
「……良い名前じゃねぇか」
ムサシがポツリと呟いた。
(えっ、ムサシさん……?)
バーバラの脳内に衝撃が走る。
「俺が考えてた“灼熱刀”に引けを取らねぇな」
(灼熱刀……!もはや盾の概念すらぶっ飛ばしてるけど、ムサシさんだから許すしかない)
「確かに、僕が考えていた“ザ・ゴッドブレス・シールド〜勇者アリシアに祝福あれ〜”よりも素敵です、アリシア様」
(ちょっと待って、クリスくん?副題つき!? これ……大喜利大会始まってるの!?え、次、私のターン!?)
「二人とも、そんなに素敵な名前を考えてくれてたのね……嬉しい!」
アリシアは目を潤ませながら、
「でも、やっぱりこの子は──ヒノキチで決まりよっ!」
ムサシとクリスは、神妙な顔で深く頷いた。
(皆さん……気は確かですか〜……? え、もしかしておかしいの私だけ?)
そのとき──
前方から、魔物の群れが現れた!
「うっし来たァ! 行くぜッ!!」
ムサシが叫び、一直線に駆け出す。
「あっ、待って〜!ムサシさ〜ん!!」
バーバラが追いかける。
「待ちなさい! 私が先よ!! ……クリス!私だけ速くしてっ!」
「は、はい!ハヨ・ナーレ!!」
アリシアは加速し、バーバラとムサシを一気に抜き去る!
「おい待ちやがれ!! バーバラ、斬撃飛ばすぞ!」
「はーい! ツヨ・ナーレ!!」
「サンキュー! おらよッ!!」
ズババババーーーン!!!
ムサシの斬撃が地を抉り、魔物の群れの右側を一掃する。
「ちょっと! 私が守るまで待ちなさいってば、この脳筋!!」
「はっ! お前は後ろでクリスとしりとりでもしてやがれッ!! おらぁッ!!」
ズババババーーーン!!!
ムサシの二撃目が左の群れを吹き飛ばす!
残った魔物たちは、悲鳴を上げて散り散りに逃げていく。
「そうよ、逃げて!みんな脳筋に殺されちゃうわ!」
──その時。
少し離れた位置で、横一列に並ぶ一つ目ピエロの魔物たちが、
不気味な笑みを浮かべながら一斉に攻撃魔法を放ってきた!
「待ってたわ〜!ヒノキチ!!」
アリシアはヒノキチを前に突き出す。
魔法弾が次々と盾に吸収されていく。
「……あれ、まだ光らない。もっと打って〜〜!!」
「させるかよッ!!」
ムサシの斬撃が横から襲いかかる!
「させないわよッ!!」
アリシアがヒノキチを構えてムサシの斬撃を防ぐ!
「てめぇコラァ!!」
ムサシが叫ぶ!
──その隙を突くように、ピエロたちが魔法を連射!!
「キタキタキタッ!!」
アリシアが盾を構え直す!
魔法が全てヒノキチに吸収されたその瞬間──
キラキラキラ……!!
ヒノキチが光った!
「いくわよ……ヒノキチ!!」
アリシアはピエロたちが横一列に並ぶ位置まで全力で駆け出し、
盾のボタンを──カチッ!
「くらいなさいッ!! フェニックスビーーーム!!」
バキューーーーーン!!!
──大地を焼き尽くす灼熱のビームが一直線にピエロたちを貫き、跡形もなく吹き飛ばした。
「やったぁーーッ!! 凄いっ!! 楽しい!! ……ねぇ、もっといないの!?」
「くそっ……アリシアめ……やるじゃねぇか……!!」
──その一部始終を後方で見ていた僧侶と魔法使い。
(アリシア様が……ムサシさんのようになってしまっている……)
クリスの目に、うっすらと涙。
(技の名前は、カッコいい系に寄せたんだ。アリシアちゃんの感性、わかりません……)
──そして、
(てか……いったい私は何を見せられていたのかしら?)
至極真っ当な疑問を抱いたバーバラであった。




