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黒の僧侶  作者: ヨシダール


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第六十話 夢の盾

翌朝。


カン!カン!カン!──。


ジャックは夜明けとともに動き出していた。


一晩、特製の液体に漬け込んだ盾の素材を取り出し、乾燥させ、そして静かに──だが力強く──ハンマーを振り下ろしていく。


その作業が始まってから、およそ三時間後。


ようやく、勇者一行の朝が始まった。



アリシアは着替え部屋に入り、静かに“儀式”を始めていた。


(今日は、これ一択よ。情熱の赤。ジャックさんの盾への情熱を私が受け取る日。そして、仲間を守りたいという私の想いが形になる日。これしかないわ。ちょっとエッチだけど……クリスは、これ……って、違う違う!今日はそういうのじゃないから!いや、今日"も"!)


クリスは寝室の隅に膝をつき、朝の祈りを捧げていた。


(主よ……どうか、アリシア様の新たなる一歩を見守りください)


ムサシは言うまでもなく筋トレをしていた。


バーバラも言うまでもなくマホテインを作り、ムサシに飲ませていた。


アリシアが着替えを終えて戻ってくると、クリスが振り返って言った。


「では皆さん、布団をきちんと畳んで、しっかりと片付けましょう。忘れ物もないように!」


「はーい、せんせー!」

バーバラが笑いながら返事をする。


布団を片付け終えると、アリシアが声を上げた。


「よし、それじゃあジャックさんのところへ行きましょう!」



工房に入ると、ジャックは最後の工程──鳥の頭の溶接──に取りかかっていた。


その背中からは、全神経を一点に注ぐ、職人の気迫が伝わってくる。

アリシアたちは、溶接が終わるまで、一言も発さずに待ち続けた。


──そして。


「……できた」


その言葉と共に、静寂が破られた。


「おはようございます! ジャックさん!」


振り返るジャックは、どこか晴れやかな表情で言った。


「……できたぜ。勇者ちゃん、こっちに来な」


アリシアは、緊張の面持ちで歩み寄る。


ジャックが脇へ退くと、アリシアの眼前に、

それが現れた。


「……これが……私の……」



それは、美しくも重厚な盾だった。


中央には、あの鳥の頭──赤い火の鳥の頭が彫刻されており、その顔はまるで生きているかのように凛々しく、鋭い眼差しで前方を睨んでいた。


ボディは白を基調とし、両翼をかたどった左右の縁は流れるような曲線を描き、全体のフォルムは力強さと優雅さを併せ持っている。


装飾には赤を基調とした紋様と、古代文字のような刻印が随所にあしらわれており、見る者に圧倒的な存在感と神秘性を与えていた。



「そうだ。これが、お前さんの相棒──《不死鳥の盾》だ!」


「……不死鳥の……盾……」


「どうだ? かっこいいだろ?」


「めちゃめちゃかっこいいです!!」


「アリシアちゃん、素敵な盾だね!」

「これは……まさに不死鳥ですね……」

「この頭はこうやって使うのか……」


「はっはっは! やっぱり見た目は大事だよな! 盾は芸術さ。だがな──こいつの戦闘における“実用性”は、その芸術性を遥かに凌ぐぜ」


「……この盾は、どういう盾なんですか?」


「口で説明するより、体感してもらったほうが早い。ついてきてくれ」



工房の裏には、岩壁と奇妙な装置が設置されていた。


「…これは?」


「俺が作った、“魔物の魔法発射マシーン”だ」


「魔物の魔法発射マシーン!?」


「そうさ。スイッチを押すと──」


バキューン!!

火の玉が装置から発射され、岩壁に命中した。


「魔法を盾で防ぐ練習場ってわけだ。そしてこの魔法には、実際の魔物が放つのと同じ邪のエネルギーが入ってる」


「……こんなの作れるなんて……ジャックさん、やっぱり凄い魔法使いだったんですね……」

バーバラが驚き混じりに言う。


「ま、そこそこにな。──勇者ちゃん、構えてくれ」


「は、はい!」


バキューン!!


火の玉がアリシアの盾めがけて飛んできた。


その瞬間──


「え!?」


火の玉は弾かれることなく、盾に吸い込まれていった。


「……今、魔法が……盾に吸収されていったような……」


「よし! いいぞ! 次だ!」


ジャックは立ち位置を変えるよう指示し、なぜかクリスを直線上に立たせた。


「え!? ま、まさか打たないよね!?」

慌てるアリシア。


「大丈夫!信じてろ!」


バキューン!!


「うわああ〜!!」


クリスの絶叫が山中にこだました、その瞬間──火の玉は軌道を変え、アリシアの盾へと吸い込まれていった。


「……なに今の!? 曲がった!?」


「っしゃ〜〜〜〜〜!!」


ガッツポーズを決めるジャック。


「どういうことですか!?」


「まとめて説明してやる! 勇者ちゃん、そのまま構えててくれ!」


ジャックが連打したスイッチから放たれる火の玉は、全てが盾の方向へと引き寄せられ、吸収されていった。


──そのとき。


ピカァッ!


「……何!?光ったわよ!」


盾が、ほんのりと光を放ち始めた。


「勇者ちゃん!そのマシーンの横に来てくれ!」


「は、はい!」


「そしたらその盾を、岩壁に向けて──取っ手の端のボタンを押してみな」


カチッ。


すると、鳥の口が開き、次の瞬間──


バキューーーーン!!


灼熱のビームが岩壁をえぐり飛ばした。


「……すごい……すごいっ!!」


「どうなってんの〜!?」

「あの鳥……火を吹きやがった……!」


ジャックは膝をつき、その場で男泣きした。


「……おお……おお……うおぉぉぉ〜!!」


「ジャックさん……」


「……すまねぇ、つい……嬉しくてな……。──っと、まだ大事なテストが残ってた」


「えっ?」


「そいつを地面に置いてくれ」


アリシアが戸惑いながら盾を地面に置くと、ジャックはムサシに金槌を手渡した。


「剣士さんよ、これで思いっきりぶっ叩いてくれ」


「お、おう……」


(……ちょっと、大丈夫なの!?)


ガンッ!!


「……え?」

「……あ」

「……主よ……」


「おい、かけちまったぞ」


「ねえ!何してんのよあんた!どうしてくれんの!?この脳筋!ゴリラ!ハゲ!」


(アリシアちゃん……さすがにそれは……いや、今回は仕方なし!)


「ハゲてねぇし!」


「まぁまぁ、よく見てみろ」


盾を見れば──欠けた部分は、完全に元通りになっていた。


「……え!? 直ってる!!」


「ホントだ!!」


「これは……一体……」


ジャックは静かに空を見上げ、心の中で呟いた。


(……夢、叶っちまったぜ……)

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