第五十八話 粋な男
「……え、これだが」
アリシアは目を丸くする。
「……えっ、本当に……?」
「──ああ、間違いねぇ……」
単なる鳥の模型の頭にしか見えない“それ”を両手で抱え、ジャックはぶるぶると震え始めた。
「……マジか……」
横で見ていたムサシも、さすがに目を見張った。
「……おいおい、マジかよ」
アリシアは興奮を抑えきれずに声を上げる。
「すごい!!こんなことってある!?」
クリスも喜びを噛みしめるように、両手を組んで言った。
「アリシア様……やはりこの鳥の頭も、神のお導きだったのですね!」
しかしその中でも、もっとも激しく反応したのは、他でもないジャックだった。
「……マジかよ……おい……マジかよ……っ!! ついに……ついに作れんのか!? あれを……! 嘘だろ……マジかよ…………うわああああああああ〜〜〜〜おっ!!!!!」
職人、絶叫。
そのあまりのテンションに、バーバラは吹き出しそうになりながら目を逸らす。
(この人さっきから情緒不安定すぎない……?)
「……よかったね、アリシアちゃん!」
「うん! では、ジャックさん──」
アリシアは満面の笑みで胸を張る。
「最高の盾、お願いします!」
ジャックは丁重に鳥の頭を作業台に置き、胸ポケットからタバコを取り出す。
そして火をつけ、煙を吐いた。
「……ふぅ〜〜……おう、任せとけ勇者ちゃん。最高傑作を作ってやる。仕上がるのは、明日の朝だ」
「明日……!」
「今日はここに泊まってけ。工房の裏に小屋がある。布団は四人分、余裕であるはずだ」
「え、いいんですか?」
「当たり前だろ。あんたらがいなけりゃ俺は一生プーゾの奴隷だったかもしれん。こいつと出会うこともなかっただろうしな。それくらいさせろ」
と、鳥の頭をさすりながら言った。
「それでな、悪いが一つ頼みがある。今晩は山菜鍋にしようと思っててな。あんたら、山菜取ってきてくれねぇか?」
アリシアは瞳を輝かせる。
「山菜鍋! 美味しそう!!」
「楽しそ〜! さんせ〜〜!」
「うっし、たらふく食うぞ!」
「ありがとうございます、ジャックさん!」
*
四人は、籠いっぱいの山菜を収穫して、夕方頃に戻ってきた。
「ただいま戻りました〜!」
「おう、ご苦労さん」
ジャックは、作業場の奥にある長方形の深い桶へと向かい、静かに盾を浸した。桶の中には、何やら怪しげな銀色の液体が波打っている。
「それ……液体に漬けるんですか?」
バーバラが興味津々に尋ねる。
「ああ、そうだ。このスペシャルな液体に一晩漬けるのが肝なのさ」
ジャックは、一行が持ってきた籠を見て、目を丸くした。
「……おいおい、どんだけ取ってきたんだよ。これじゃ山が丸裸だぜ。食い切れねぇだろ」
アリシアは笑ってムサシを指差す。
「大丈夫です。この剣士が、ぺろっといきますんで」
「ああ、食うぞ」
(私はムサシさん専属の鍋奉行やりま〜す!)
「では、皆さん、早速支度を始めましょうか」
クリスが先生口調で言い出すが──
「いや、いい。俺がやるから、あんたらはゆっくりしててくれ。盾の方は明日の朝までやることねぇしな。んじゃ、小屋に案内するぜ」
「ありがとうございます、ジャックさん!」
*
ジャックの家は工房の裏手にひっそりと建っていた。木の香りがする清潔な小屋で、キッチン、リビング、寝室と、必要なものは全て揃っている。
「ほら、山菜はこのテーブルに置いといてくれ」
四人は素直に従い、キッチン横の大きなテーブルへ籠を並べた。
「リビングはこっちだ。くつろいでくれ」
ジャックが案内した先には、大きなテーブルと椅子が四脚。壁際にも何脚かの椅子が並べられていた。
「よく、こうしてお客さん泊めてたんですか?」
「……ああ。プーゾが来るまではな。よく依頼人と鍋を囲んでたもんよ」
「なるほど……」
「さて、今酒とつまみ出す。飲めないやつはいるか?」
「……あ、はい。すみません、僕は」
「じゃあ白髪くんは水だな。だが、この山の水は美味いぞ」
「ぜひ、水を頂きたいです!」
数分後、ジャックは酒とつまみの入った盆を持ってリビングに戻ってきた。
「よし、じゃあ乾杯しようぜ。俺も一杯だけな。仕事には支障出さねぇから、安心しな」
アリシアは笑顔で応える。
「もちろん! 本当に、至れり尽くせりでありがとうございます、ジャックさん!」
「へっ……言ったろ。もう二度と、こんな日は来ねぇと思ってたんだよ。……感謝してもしきれねぇさ。だからこそ、必ず最高の盾を作ってみせる。あとは、せめて今夜は楽しく飲もうぜ」
ジャックはぐいっと盃を持ち上げる。
「乾杯だ!!」
「「「「カンパイ!!!」」」」
──夜は、まだ始まったばかりだった




