第五十七話 盾職人
カンカンカンカン──。
いかにも「職人やってます」な音が、分厚い鉄の扉の向こうから響いていた。
「ごめんくださーい!」
アリシアが扉をノックしながら、元気よく呼びかける。
……しかし、返事はない。
「聞こえないのですかね」
クリスが心配そうに言うと──
「入っちまおうぜ」
と、ムサシが当然のように扉を押し開けた。
(ムサシさん、ワイルド〜……!)
バーバラがときめき混じりの目でぽそっと呟く。
「ちょっと!」
口ではツッコむアリシアも、体は素直に脳筋の突破力に従い、すんなり工房内へ。
中は、まさに“匠の空間”だった。
壁には大小様々な金属の盾がかかっており、奥では炎の灯る炉が唸っている。工具や素材が整然と並び、中央には分厚い作業台。職人魂が滲み出るような空気が満ちていた。
その奥で、一人の男が背を向け、無言で盾を打ち続けている。
見るからに無骨な職人かと思いきや、意外と細身だ。
「……あの方のようですね」
クリスがそっと囁く。
「いよいよ、伝説の盾職人とご対面ね……」
アリシアはごくりと喉を鳴らし、声を張った。
「すみませーん!」
──無反応。
「なんだ、つんぼか?まあ盾職人なら仕方ねぇか」
ムサシが、偏見にもほどがあることをぼそりと呟く。
「ぷっ……!」
バーバラが吹き出す。
アリシアはさらに詰め寄り──
「すーみーまーせーーーん!!!」
全力で叫んだ。
その瞬間──
「ちっ、うるせぇな、まだできてねぇよ、見りゃわかんだろうが。目でも無くしたのかてめぇは?」
荒っぽい口調で、色白で髭面の男がこちらを振り向いた。
「……あ?プーゾじゃねぇのか……」
男の目が、徐々に焦点を結び──
「……ん?プーゾじゃねぇ?……プーゾはどうした?」
一同、困惑の表情。
「さっき殺したぞ。こいつが」
ムサシが何の躊躇もなく、クリスを親指で指す。
「えっ、ちょっ……ムサシさん!」
クリスが慌てるが──
「………マジか……………っしゃ〜〜〜〜〜!!!」
男は突然、ガッツポーズで叫んだ。
「ぷっ、何この人!?」
バーバラが腹を抱える。
(なんなの、この人……)
アリシアが真顔で思う。
「おい、どうした、おっさん?」
ムサシが訊ねると、男はクリスの手をがっしり握った。
「君、ありがとよ!!」
「い、いえ、とんでもない……」
「えっと、プーゾとどういう関係が……?」
アリシアが恐る恐る訊くと──
「あぁ、すまん。アイツにな、半年くらい前から盾を作らされててな」
「……は!?」
アリシアが絶句する。
「ってことは……さっきの竜人の魔物たちが持ってた盾って……」
バーバラが続けると──
「そうそう、全部俺が作ったやつだ」
「魔物に盾を配ってたってこと!?」
アリシアが声を荒げる。
「しょうがねぇだろ。でないと殺すって脅されてたんだから。死にたくねぇし、普通に」
「……そういうことなら、仕方ないわね……」
納得しかけるアリシア。
「……どうりで硬かったわけだ」
ムサシが、思い出したようにぼそりと呟いた。
「だが、ようやくこの“硬いだけのクソつまらん盾作り”から解放されたってわけだ……マジ超嬉しい!!サンキューな、白髪くん!!」
勢いのまま、横の棚をバシッと指差す。
「お礼と言っちゃなんだが、そこにある盾、好きなの持ってけ!」
その棚には、大小様々な盾がズラリと並ぶ。
獣の顔を模したもの、
風や水をイメージしたもの、
星空のように輝くもの、
──どれも一点ものの芸術品のようだった。
「本当ですか!?」
クリスが瞳を輝かせ、アリシアの方を向く。
「アリシア様!!」
アリシアは、ふっと微笑み──
嬉しそうにクリスへと頷いた。
「……あの、申し遅れました。私は勇者アリシア。この仲間たちと共に、大魔王を倒す旅をしています。そして、皆を守るために強い盾を探していて、こちらを訪ねたんです」
「……勇者様ときたか!こりゃすげぇ!そりゃプーゾなんかにゃ敵うわけねぇな、かっかっか!」
男は豪快に笑い、名乗った。
「おっと失礼、俺の名はジャックだ。なんでも好きなの持ってけ!」
(なんか……イメージしてた感じと全然違うけど……ま、いっか!)
「それじゃ、いちばん強いやつ下さい!」
「おいおい勇者様よ、よく見ろ。あいつら、全部違う顔してんだろ?盾は芸術なんだ。ピンと来たやつを選べよ」
「確かに、どれもこれも一点ものの芸術って感じするね」
バーバラが頷く。
「わかってくれるねぇ、嬢ちゃん。あの魔物共は、その“想い”がわからねぇんだよなぁ」
「確かに、どれもこれも素敵な盾ですね!」
アリシアは、目を輝かせながら言った。
「……だけど、やっぱり私は、みんなを守るために盾を持つんだから──実用性を重視したいんです。全部、持ってみてもいいですか?」
その真剣な目に、ジャックはぐっと心を打たれたようだった。
「もちろんだ。好きなだけ触ってけ……ちなみに、だが」
「はい?」
「実用性って意味では、圧倒的な性能を持つ盾を、俺は作ることができる」
「えっ!? そうなんですか!?」
「おうよ。材料もほぼ揃ってる。──ただ、一つだけ足りねぇ」
「それは、どこに?」
「……それがわかりゃ苦労しねぇんだわ」
「そう、ですか……ちなみに、どんな素材なんですか?」
「鳥の頭の形をしたパーツだ。サイズは小さい。世界のどこかにあるはずなんだがな……」
「……鳥の頭……?……え、もしかして……」
アリシアは魔法の鞄に向かって声をかける。
「鳥の頭、出なさい!」
──ぽんっ。
ダンジョンの宝箱から拾った、あの鳥の模型の“頭”が姿を現した。
アリシアが手に取り、ジャックに差し出す。
「ジャックさん。これ……ではないですよね?」
ジャックは目を見開き──
「……え、これだが」




