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黒の僧侶  作者: ヨシダール


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第五十五話 隠蔽

クリスの覚醒により、絶体絶命の危機を乗り越えた勇者一行。


一瞬、場には和やかな空気が戻った。

だが、それでも──彼の“あの姿”を完全に飲み込めた者は、ひとりとしていなかった。


言いようのない緊張と、深い沈黙。


もはやそのまま登山などできるはずもなく、

四人はその場に腰を下ろし──

自然と会議が始まった。


「……あの発言と、その後の行動からして……」

ムサシが腕を組み、重く口を開く。


「どうやらお前は、覚醒すると“アリシアの敵”って認識した奴らを、片っ端から皆殺しにするマシーンになるみたいだな」


「……そうなのですね……」


クリスは深くうなだれた。

しかし、すぐに気になる点を口にする。


「ですが……そうなると以前、ダンジョンでムサシさんを狙ったことは、いったい……?」


「……あの時は、俺が敵に見えたってことじゃねぇのか。何でかは知らんが」

ムサシは肩をすくめて言った。


「実際、それ以外では俺に攻撃したことはない」


──実は、あのときの黒クリスの視界では、

ムサシは、アリシアを人喰い宝箱ごと真っ二つにしようとしているように写っていたのだ。

もちろん、本人はそのことを覚えていない。


「……なるほど……」


その時、ぽつりとバーバラが呟いた。


「……でも、単なる殺戮マシーンってわけじゃないと思うよ」


「え?」


「だって、ちゃんと“盾職人の場所”を吐かせてから殺したじゃん。あれ、もはや悪の組織のボスにしか見えなかったけど……」


「……そんなでしたか……」


クリスが苦笑気味に言うと、

アリシアは隣で、誰にも気づかれぬように考えていた。


(……クリスは、私のパンツを見ると覚醒して、私を守って、私の敵を殺して、私の目的まで代行する……)


──バーバラの言うとおり、もはや悪のラスボスにしか見えないが、

その力がすべて“自分のため”に発動するという事実。


アリシアは勇者である以前に──

ひとりの乙女として、どうしようもない優越感と興奮を覚えていた。

しかも、それがクリスという、それなしでも魅力的に感じつつあった男であるならば、尚更であった。


(そして今や、私の意志で“覚醒させられる”ことまでわかっちゃった……)


もはや、抱かれたい男ランキング宇宙一。

そのクリスに、パンツを見せることなど──


……が、当然その覚醒条件を、ムサシとバーバラに明かすつもりは毛頭ない。


第一に、恥ずかしい。


そして第二に──

「二人だけの秘密」でいたいから。


しかしそこで、ムサシが狙ったように爆弾を投げる。


「しかしよ、覚醒の条件ってのは……まだ謎のままだよな?」


(うわ出た!)

アリシアは瞬時に、考え込むような顔を作り、答える。


「そうねぇ……思い返してみると、やっぱりいつも私がピンチの時だった気がするわ。もちろん、クリスの目から見てね?」


「……確かに、そうだった気もするな」


しかし──この話を黙って流してくれるほど、バーバラは甘くない。


「あの……昨日の大猿の時も?

 あの時、もうムサシさんが両腕斬ってたし、ピンチって感じじゃなかったような……?」


「う、うーん、そうねぇ……」

アリシアは頭をかきながら、苦し紛れに言う。


「でも私、あの時思いっきり転んじゃって……それでピンチに見えたのかも!」


「あぁ、確かに転んでたねアリシアちゃん」

(しかも、パンツ丸見えで)


しかし、流石のバーバラでも、

アリシアのパンツ=クリスの覚醒

という方程式までには至らなかった。


「まぁ、これ以上考えてもわかんなそうだね〜」


(ふぅ〜〜っ!!)

アリシアは内心で全力のガッツポーズを決めた。


「そうね。 でも──これだけは言えるわ。

クリスは、覚醒しても、私たちの脅威じゃない。むしろ──最高に頼もしい、私たちの仲間よ!だから──もう覚醒しても悩まないで、クリス!」


その笑顔と言葉は、クリスの心にずっと残っていた恐怖と罪悪感を、そっと溶かしてくれた。


──誰かを傷つけるかもしれない力。

──自分が自分でなくなるかもしれない恐怖。


そのすべてが、アリシアの言葉によって、救われた。


「……アリシア様……ありがとうございます……」


ぽろり、と。

クリスの目に、涙がひと粒だけ落ちた。


(主よ……この力を、アリシア様を守るために授けてくださったこと……感謝いたします)


「んじゃ、とりあえず解決だな。そろそろ登るか!」


「はいっ!行きましょうっ!」

(早くムサシさんの隣で歩きた〜い!)


「ええ、行きましょう!!」


こうして──

盾を得る前に、黒の僧侶という"最強の矛"を得た勇者アリシアであった。

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