第四十七話 盾は近い
朝の光が差し込む、シルドーニャの宿屋。
今日は──ピンクの可愛い下着。
そして昨日、クリスからもらったネックレスを胸元につける。
(うん、やっぱり素敵。ありがとう、クリス……)
鏡に映る自分に微笑みながら、アリシアはそっと頬を染めた。
クリスは、ベッド脇の机で朝の祈りを捧げていた。
(主よ、今日も我々にお導きを──)
ムサシはというと、黙々と筋トレ中。
「……ふぅ、よし。」
バーバラはキッチンにて、昨日ムサシから託されたマホテイン──爆速斬撃型・攻速特化ブレンド『ファルコン・ブレード・EX』を手にしていた。
「裏ラベル確認よし、水分量よし……」
シャカシャカとシェイカーを振りながら、うっとりとした顔で妄想が膨らむ。
(……夫婦の朝って、こんな感じなのかしら……いやん!)
脳筋旦那に奉仕する未来を夢見る魔法少女は、もはや誰にも止められなかった。
そこにムサシ登場。
バーバラは得意げに差し出す。
「ムサシさん、マホテインどうぞっ」
(はい、あ・な・た……きゃ〜!)
「おう。悪いな。」
ムサシはごくごくと飲み干すと、
「案外、不味くねぇな」
「それはね、ムサシさん。私のあま〜い愛情がた〜っぷり入ってるからですよ〜? うふふふん!」
……とは口には出さず、心の中で勝手に盛り上がっていた。
そのとき、アリシアが着替えを終えて登場。
「バーバラー、自分で作らせればいいのよー?まあ、多分作れないだろうけどね。難しくて、彼には。」
「あぁ!?てめ──」
言いかけたムサシのセリフを、クリスがさわやかに遮る。
「はいはい、朝から喧嘩しないでくださいねー。皆さん、支度は済みましたか? 忘れ物はありませんか?」
バーバラは思わず吹き出す。
(ぷっ……クリスくんて、私ツボかも……)
「ないでーす! クリスせんせ〜!」
アリシアも元気よく手を挙げ、さりげなくネックレスをアピールしながらウィンク。
(あ、あれは……僕がプレゼントしたネックレス!アリシア様……なんて可愛さだ……!
おぉ主よ……朝一番から、なんという幸福を……!)
クリスは天を仰いで感謝の祈りを捧げた。
こうして四人の旅は、改めて賑やかに始まった。
*
空は少し曇りがち。
「シルドーニャともお別れかー。なんだか寂しいわね」
とアリシア。
「色々ありましたからね。でも、また絶対来ましょう。タナックさんとも約束しましたし!」
「うんうん、また来よう! ミーナちゃんも私に会いたいだろうし!」
「そうね!!」
そして、アリシアが一歩踏み出そうとした、その時──
「ちょっと待ってくれ〜!!」
背後から声が響いた。
振り返ると、昨日の防具屋の店主が、全力疾走でこちらに向かってくる。
「……はぁ……はぁ……はぁ……!」
「なんだ、昨日の売り切れオヤジじゃねぇか。どした?」とムサシ。
バーバラは吹き出しそうになりながら横を向く。
「……はぁ……はぁ……おぇ〜っ!……はぁ……」
(やめて……お腹よじれる……!)
バーバラは震える。
そんな中、アリシアは純粋な目で駆け寄る。
「店主さん!どうかしたんですか!?大丈夫ですか!?」
「………はぁ………はぁ……実はな………」
「まさか……急遽、盾が入荷したとか!?」
と希望を込めるクリス。
「…………してない……」
(ギブギブギブ……!)
バーバラは耐えきれず、しゃがみ込む。
店主は、荒い息のままアリシアを見つめて言った。
「……あんた……勇者様なんだってな……?」
「ええ……すみません。昨日は言ってませんでしたね」
「いや、いいんだ。実はな……うちみてぇな店じゃ、勇者様に相応しい盾は作れねぇし、他所からも入荷はしねぇ。だが……ここからも見える、あの北東の山奥に、伝説の盾職人がいるって噂を思い出してな。それを伝えに来たんだ…」
「伝説の……盾職人……?」
「ああ。きっとそいつなら……あんたに相応しい盾を作れるはずだ。じゃあな、達者で!」
そう言って、店主は何度もずっこけそうになりながら走り去っていった。
「大丈夫かあのオヤジ……店に着く頃には死んでそうだが……」
バーバラは肩を震わせて笑いが止まらない。
ふざけた二人と違ってクリスは心から感謝し、目を輝かせた。
「アリシア様……!今度こそ、盾が手に入りますね!
しかも、北東ならアヴァロットと同じ方角です!」
「うん!ありがとう、クリス!!
よーし、伝説の盾職人──見つけるぞ〜!!」
こうして四人は、再び旅路へと足を踏み出す。
目指すは北東。
その先に、希望と、伝説と、次なる試練が待っている──。




