第四十六話 初めての味
「……売り切れ~~~!?」
防具屋の店主の一言に、アリシアは盛大に肩を落とした。
「うう……そんなぁ……」
「アリシア様、どうかお気を落とさらず。また旅の途中で、きっと見つかります」
クリスの優しい言葉に、アリシアは小さく頷く。
「……ありがとう、クリス」
空気が良い感じになりかけたところで、
「しっかし、この前のダンジョンと言い今回の防具屋と言い、お前つくづく盾と縁がねぇよな。盾がお前から逃げているようだ」
と、ムサシが安定の無神経なことを言った。
「黙りなさい! そこ!」
バーバラは思わず
「ぷっ……!」
と吹き出した。
「……えっ、バーバラ、いま笑った?」
アリシアがぴくりと振り返ると、バーバラは即座に言い訳を展開。
「い、いやいや! ほんっと楽しいパーティだなーって! あはは……! でもごめんねアリシアちゃん。アヴァロットの城に行けば盾なんて腐るほど余ってるのに、私、一個も持ってこなかったのよ〜」
「えっ、そうだったの!?そんな、気にしなくて大丈夫だからね!? ありがとう……!」
「ううん……」
(セーフ!)
一瞬で“いい子ポジション”に着地する魔法少女であった。
「しかし……アマンダさんが残したのは、仲間だけではなかったということですね」
クリスの言葉に、アリシアも静かに頷く。
「ええ。……彼女の生き様が、この街の人々を変えたのよ」
──この街で、防具屋の盾が軒並み売り切れていたのには理由がある。
タナックの妻、女戦士アマンダ。
彼女は最後の瞬間、自らの命を賭して、仲間三人の命を守り抜いた。
その姿は、恐怖以上に、憧れを生んだ。
使命、大義、誇り──戦士としての“意味”を求める者たちの心を、静かに震わせたのだ。
とりわけムサシのような火力特化型の戦士の中には、守れないことへの無力感に苦しむ者も多い。
アマンダの死は、彼らに新たな選択肢を与えた。
──“守る力”もまた、戦士の誇りなのだと。
結果、盾は飛ぶように売れ、職人の手も足りなくなったというわけである。
「俺にはわからんがな」
ムサシがぽつりと漏らす。
(でしょうね……)
アリシアとクリスは同時に同じことを心で呟いた。
(早くムサシさんの戦う姿見たい〜!)
バーバラは一人で興奮する。
「さてと、いつまでもしょげてるわけにはいかないわよね!」
アリシアがパッと顔を上げる。
「ねえみんな、この街は明日出発ってことで、今日は昨日できなかったバーバラの歓迎会やりましょうよ! せっかく四人になったんだし!」
「賛成!」
「いいぜ!」
「わーい!ありがとう!」
そうして一行は、昨日とは別の酒場へと向かう。
*
円卓に運ばれたのは、ビールとご馳走。
(なお、クリスはノンアルコールビール)
「では、改めまして──」
アリシアが笑顔でジョッキを掲げる。
「バーバラ! 仲間になってくれて、本当にありがとう!! かんぱーい!」
「かんぱーい!!」
「乾杯」
「うっし!」
ジョッキの音が重なり、バーバラはごくごくとビールを飲み干した。
その一杯は、彼女の人生で最も美味しい一杯だった。
振り返ると、今日という一日は──
ムサシをマホテイン・ショップに連れて行き、
"ありがとう"と言われ、
魔物から親子を救い、
書店を再建し、
多くの人から賞賛を受け、
少女からの“憧れの存在”とまでなった。
思えば──
こんなにも自分の心が自分自身に向けられなかった日も、
こんなにも魔法を使えて良かったと思えた日も、
バーバラにとっては初めてだった。
そんな一日を過ごしたあとに、仲間と囲むこの酒席。
退屈を埋めるためにカウンターで一人飲んでいた日々と、同じ味がするはずがなかった。
自分にこんな日が来るなど、望んだことはなかった。
しかし、これまで望んだことのある全ての事よりも、これは自分にとって、望ましい現実な気がしてならなかった。
ただし、自分が今日、魔法を思いのままに使えたのは──
ビールの泡と共に、母へのわだかまりさえ、少しずつ溶けていく気がしていた。




