表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の僧侶  作者: ヨシダール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/90

第四十二話 書店主の家にて

一同が書店主の家の前に辿り着くと──


不意にバーバラが、


「……あれ? ごめんなさい、ちょっと落とし物しちゃったかも。先行ってて!」


そう言って、ひらりと踵を返し、来た道を駆け戻っていった。


「バーバラ!……行っちゃった」

アリシアが声をかけるも、バーバラは手を振ってそのまま去っていく。


「すぐに来んだろ。先に上がらせてもらおうぜ。小便してぇんだ」


「……あぁ、そう。はい。では」


ムサシの言葉にアリシアが微妙な顔をしつつも、書店主の男──タナックは眠っているミーナをそっと抱えながら、優しく微笑んだ。


「どうぞ、お入りください」


「お邪魔しまーす!」

「お邪魔致します」

「邪魔するぜ。便所貸してくれるか?」


「ええ、どうぞこちらです。」


ムサシは一目散にトイレへ向かっていった。


「……かなり我慢していたようですね」


(クリス…拾わなくて良いから…)



家の中は、ごく普通の民家。

木の温もりが感じられる床、年季の入ったソファ、家族の写真が飾られた棚。

テーブルの上には、折り紙で作られた謎の生き物たちが並んでいる。


「素敵なお家ですね!」

アリシアが心からの笑顔でそう言うと、


「ありがとうございます。狭い家ですが……どうぞ、そちらにおかけください」


タナックはそう言って、リビングのテーブルを指差した。


「ありがとうございます! 失礼しまーす!」

「失礼致します」


二人が腰を下ろすと、タナックは台所へ紅茶の準備に向かった。


その間、アリシアとクリスは室内を見回す。

壁には家族で写った写真、ミーナの描いたと思しき絵が色とりどりに貼られている。


「仲の良い家族みたいねぇ」


「ええ」


アリシアとクリスが微笑み合うころ、タナックが湯気の立つティーカップを運んできた。


「どうぞ、召し上がりください」


「ありがとうございます! いただきます!」

「いただきます」


タナックも向かいに腰を下ろし、深く頭を下げた。


「改めまして、この度は本当にありがとうございました。私はタナックと申します。あとのお二方が来られましたら、また改めてお礼を申し上げますが、まずはお二人に……」


「とんでもないです! 当然のことをしただけです。顔を上げてください、タナックさん」


恭しく顔を上げると、タナックはゆっくり尋ねた。


「皆様は……どういった方々なのですか?」


アリシアは、自分が“勇者”であること、大魔王を討つ旅の途中であることを説明した。


「なんと……勇者様でしたか……! あのタイミングで来てくださるなど、神様のおかげとしか……」


目を潤ませ、タナックは感謝の表情を浮かべた。


「タナックさんの祈りが届いたのでしょう」


クリスが静かに微笑んで言う。


そのとき──


トイレからムサシが戻ってきた。


「随分長かったわね」


「ほっとけ!」


(アリシア様……そこは、ほっときましょう……)


タナックは思わず吹き出しそうになりながら言った。


「皆さん、本当に仲が宜しいのですね」


タナックが紅茶を入れようと席を立とうとした時、ムサシがふと口を開く。


「おい、あっちの部屋に盾があったぞ、アリシア」


「………ねぇ………」


(……主よ………)


紅茶「………」


──RPGのお約束、“他人の家の宝箱は調べてOK理論”は、この世界では通用しないようだった。


しかし、タナックは嫌な顔一つせず、むしろ肩を揺らしながら微笑んだ。


「気にしないでください。ふふっ、面白い方だ。むしろ……おかげで、何だか気持ちが少し楽になってきましたよ」


「そんな…! タナックさん、良い人すぎますよ! 本当に躾がなってなくてごめんなさい!」


「……あぁ? お前が盾探してるって言うから教えてやっただけだろうが!」


「はい、そこまで。場所をわきまえてください。ミーナちゃんが起きてしまいます」

クリスが静かに嗜める。


「……そうだな、すまん」


「はっはっは。大丈夫ですよ、剣士さん。

 この家にあるもので、役に立つものがあれば何でも持っていって頂きたいのですが……あの盾だけは、お渡しすることができないのです。申し訳ありません」


「そうか。わかった」


(わかったじゃねーわ!)

「ありがとうございます、タナックさん! そのお気持ちだけで救われます!」


クリスは、タナックの言葉の端に何か特別な想いを感じ取り、静かに尋ねた。


「……すみません。もちろん頂く気はないのですが、その……何か特別な盾なのですか?」


タナックは、ほんの少し遠くを見るような目で、ゆっくりと頷いた。


「はい。実は……妻の形見なのです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ