第四十話 黒き守護者
「火事だ〜っ!!」
「魔物だ〜っ!!」
突如響いた叫び声に、アリシアはハッと顔を上げた。
「……っ! クリス! 行きましょう!」
「はい!」
ふたりは街の通りを駆け抜け、煙が上がる方向へと急ぐ。通りの先、左側に面した建物から黒煙が立ち上り、その前に、禍々しい気配を放つ魔物の姿があった。
「パパ〜!! 怖いよ〜!!」
叫んでいるのは、小さな少女だった。金髪のツインテールを揺らし、恐怖に顔を歪めながら、父親の背にすがっている。
「大丈夫だミーナ……パパがいるから……大丈夫だ……!」
父親は震える声でそう呟き、娘を庇うように両腕を広げ、魔物に背を向けて立ちはだかっていた。その瞳には、絶望と祈りが宿っていた。
「……神様……どうか……どうかミーナだけは……!」
魔物は不気味に笑いながら、右手に紅の炎を灯す。
「お父さんには、別段恨みはありませんがねぇ……万が一またこんな店を開かれても困るので。死んでいただきましょうか。可愛いお嬢ちゃんと一緒に」
少女は大泣きし、父は覚悟を決め、炎が放たれる刹那──
ズドンッ!!
魔物の右腕に、魔法が直撃した。
「ぐっ……なんだ?」
魔物が顔を向けると、そこにはアリシアとクリスが、こちらへ向かって駆けてくる姿があった。
「……許さない……!!」
アリシアの瞳に怒りが宿り、彼女は立て続けに攻撃魔法を放つ。
「モエ・テーロ!」
しかし、魔物もすぐさま反応し、自らの魔法でその魔法弾を相殺する。
「部外者は引っ込んでくださいねぇ!」
魔物がそう叫ぶと同時に、爆破魔法をアリシアに向かって放った。
アリシアは素早く後方に飛んでかわすが、魔法は足元に落ち、爆風が彼女のスカートを舞い上げる。
その後方にいたクリスの目に、白地にハート柄のそれが映った。
「躱しましたか。では、これでいかがですか!」
魔物が爆破魔法を連射する。
アリシアも魔法で迎撃しようとした──その時。
「えっ……!?」
彼女の目の前に、黒髪となったクリスが飛び出していた。両腕を広げ、彼女を庇うように立ちはだかると、全ての爆破魔法をその身で受けた。
「クリス!!」
アリシアの叫びが響く。
しかし、クリスの身体に刻まれた傷は、みるみるうちに再生していく。
「……なんですか、それは……?」
魔物が目を細める。
「髪の色が変わって、しかも回復してる? どうなってるんです、あなた……!」
一歩、後ずさる魔物。
だが、次の瞬間、クリスが無言で手を伸ばした。
ゾクリとする気配に、魔物が慌てて魔法を構え直した、その瞬間。
「モエ・テローガ!!」
轟音と共に、街路の奥から凄まじい火球が魔物に命中した。
「ぎゃああああああっ!!」
魔物は叫ぶ間もなく、丸焦げになって崩れ落ちた。
「な、なに!?」
アリシアが目を見開いた次の瞬間。
「ヌレ・テローガ!」
今度は巨大な水の魔法が放たれ、燃えていた書店の炎を一気に鎮めた。
「……!」
驚愕と混乱の中で、クリスの髪が白に戻り、彼は静かに振り返った。
「アリシア様! お怪我は!?」
アリシアは、あまりにも唐突に目の前で起きた異変に、言葉を失いかけていたが、やがてぽつりと呟いた。
「大丈夫よ……ありがとう、クリス……」
すると、魔法が放たれてきた通りの向こうから、ひときわ目立つふたりの姿が現れた。
ひとりは、浅黒く大柄な剣士。もうひとりは、杖に乗って宙を飛ぶ、ポニーテールの少女だった。
「間に合った!!」
バーバラの声が、空に響いた。




