第三十九話 欲しいもの
ムサシとバーバラが“ボディ・マジック”でマホテインを選んでいた頃
アリシアとクリスは、そこから少し離れた通りの一角にあるアクセサリーショップ"ティファ&クリーフ"へ足を踏み入れていた。
店内には陽光が差し込み、壁際の棚には、色とりどりの宝石やガラス細工がきらめいている。
どれもこれも、丁寧に仕上げられた手作りの逸品ばかりだった。
「素敵……! これ全部、手作りなんですか!?」
アリシアは目を輝かせ、ショーケースの前に駆け寄った。
「はい。当店の商品はすべてハンドメイドでございます」
品のある口調で応じたのは、笑顔の優しい店員だった。
「すごいですね! え〜、可愛いのがたくさんあって困っちゃう!」
「ごゆっくりご覧くださいませ。何かございましたら、お気軽にお声がけください」
「は〜い! ありがとうございます!」
そんなやり取りを交わすアリシアを見つめながら、クリスは頬を少し赤らめ、穏やかに微笑んでいた。
(……なんて無邪気な……かわいいなぁ……)
「ねぇクリス! これどうかな!?」
振り返ったアリシアは、片耳にイヤリングをつけ、嬉しそうに見せてくる。
「ええ、とてもお似合いですよ、アリシア様」
「ほんと!? じゃあこれは? こっちは?」
次々に試しては振り返るアリシアの姿は、まるで年相応の普通の少女そのものだった。
(勇者という肩書きを取れば、アリシア様は本当に普通の女の子だ。
しかし……だからこそ尊い。世界の未来を背負いながらも、こうして無邪気に笑えること──それこそが、彼女の“強さ”なのだ)
「ねぇ、クリスはどれがいいと思う?」
「そうですね……僕は、これなんて素敵だなと思います」
クリスが指差したのは、四葉のクローバーの形をした白のペンダントだった。
「これは……うん、確かに素敵!」
「では、これは僕からプレゼントさせてください」
「え!? そんなの悪いよ!」
「いいえ。ここまでの旅路のご褒美としては、安いものです」
「本当に……いいの?」
「もちろんです」
クリスは店員に購入を伝え、レジへと向かった。
「では、お受け取りください、アリシア様」
差し出された小さな箱を受け取ったアリシアは、涙ぐみそうになりながら、店内のどの宝石よりも眩しい笑顔で言った。
「ありがとう、クリス! 一生大切にするね!」
(……そう。僕は、この笑顔を……ずっと見ていたいんだ)
「ねぇ、クリスは何か欲しい物ないの? 私も何かプレゼントしたい!」
クリスはふわりと微笑み、静かに答えた。
「もう、いただきましたよ、アリシア様」
「え? どういうこと?」
「内緒です」
「え〜! 気になるよ〜!」
そんなやり取りを交わしながら、ふたりは肩を並べて店を出た。
「では、盾を探しに行きますか? アリシア様」
「うん! クリスも一緒に来てくれる?」
「もちろんです。お供させてください。アリシア様」
アリシアはにっこりと嬉しそうに笑い、
「ありがとう!」
と言った。
クリスは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな笑みで応じた。
「……僕のほうこそ、ありがとうございます」
*
──同じ頃。
街の一角、年季の入った木製の看板が軋むように揺れる「魔道古書店タナック・ブック」。
扉を開けると、古い本の香りと、紙をめくる柔らかな音が満ちていた。
棚には無数の魔道書が並び、店の奥では恰幅の良い中年の店主が腰を下ろして帳簿を見ていた。
「パパ〜! ミーナ、次は何をすればいー?」
背後から元気な声が響く。
振り返ると、そこにはふんわりとした金髪を揺らす小さな娘の姿が。
「そうだなぁ、じゃあこの本を、あそこの棚に戻してくれるか、ミーナ」
「はーいっ!」
両腕で分厚い本を抱え、ミーナはテクテクと棚へ向かって歩き出す。
ちょうどその時──
カラン、と控えめにベルが鳴り、一人の来客が現れた。
やけに色白で、細長い体躯の男。上品な服に身を包み、どこか無機質な笑みを浮かべている。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ〜!」
「おやおや、お手伝いですか。良い子だねぇ、お嬢ちゃん」
「うん!」
ミーナはにこっと笑いながら頷いた。
男は興味深そうに棚を見渡し、ふと、ある一冊の前で足を止める。
「ふむふむ……なかなか珍しい魔道書がありますねぇ……」
そう呟いたその声が、次の瞬間、異様な冷たさを帯びた。
「──ですが、人間は、こんな本……読んじゃいけませんねぇ」
ぼそりと呟くと同時に、男の手が禍々しい紅の炎をまとい、目の前の棚へと放たれた。
ボワッ!!
「なっ、何を──!?」
「パパぁぁぁ!!」
炎の中、男はその姿を崩しながら、ぞっとするほど異形の魔物へと変貌していった──




