第三十五話 夜空の下で
酒場を出た四人は、宿屋の方向へ歩きながら、開いているカフェを探していた。
前を歩くアリシアとクリスは真剣に店を探していたが、少し後ろを歩くムサシとバーバラの間には、全く別の空気が流れていた。
バーバラにとって、カフェでの団欒などはどうでもよかった。
むしろ彼女の関心は──
(この時間よ、止まってください!)
隣に並ぶムサシの存在感。
長身、筋肉、無骨な顔立ち、切れ長の瞳、黒髪の揺れるシルエット。
(やばいって……やばいやばいやばい……話したいのに、何話せばいいかわかんない……!)
そんな胸の鼓動が高鳴る中、不意にムサシが口を開いた。
「お前、この街の人間じゃないのか?」
「ひぃっ!? えっ、何ですか!?」
「この街に住んでるんじゃねぇのか、って聞いたんだ」
(……いきなり住所!? え、どゆこと……これって、まさかのアレ!? いや、でもそれって流石に……早くない!?)
「あ……いえ、この街の人間ではないです」
「そうか。ならいいが」
(……やっぱり違った。うん、そんな軽い人じゃないよね……でもちょっとだけ残念……って、何考えてんのよ!)
「どうしてですか?」
「いや、急に旅立つことになって、親に挨拶とかしなくていいのかと思ってよ」
その言葉に、バーバラの中でまたしても何かが弾けた。
(……何この人……顔は強面、口数少ないのに……しっかりしてるっていうか……誠実っていうか……もうむり……好き……)
「そういうことだったんですね。お気遣い頂いて、ありがとうございます……」
「いや、いらん心配して悪かったな」
(いらんくない、いらんくない! むしろ、もっとください!)
「いえ、嬉しかったです」
(……でも、もしママがこの街にいたとしても、挨拶なんて……するもんか……)
その頃、前方の二人は──
「うーん、どこも閉まっちゃってるねー」
「はい……僕が場所を変えようなどと言ったばかりに……」
「クリスのせいじゃないわよ! 私もその方がいいって思ったし!」
「アリシア様……そう言って頂けて、救われます……」
「うん!」
アリシアの笑顔は、夜空の星々よりもまぶしかった。
そしてクリスは思いつく。
「宿屋のロビーなどはいかがでしょうか?」
「それ、いいかも! 四人で座れる場所、あるかも!」
振り返って、アリシアは後ろのふたりに声をかけた。
「宿屋のロビーにしよう!」
「おう、それでいいぜ」
「はーい!」
(……ちっ)
こうして四人は宿屋に入り、ロビーのテーブル席へ。
「それじゃ、バーバラ。改めて、仲間になってくれてありがとう!
私はアリシア。アリエヘン王国の城下町で生まれ育った、勇者です!」
「僕はクリス。同じくアリエヘン出身の僧侶です。よろしくお願いします」
「今は、大魔王を倒すための旅の途中で、次の目的地は魔法王国アヴァロット。そこは──20年前の勇者パーティで魔法使いを務めていたモルガンという大魔法使いが治めてる国なの」
──その瞬間、バーバラの表情がこわばった。
(……は? 勇者? アヴァロット? ……ありえないんですけど……!)




