第三十話 盾の代わりに得たもの
ダンジョンの最深部で、鳥の模型の“頭部”という謎の宝箱の中身に打ちのめされたアリシアは、しばらくその場から立ち上がることができなかった。
結局、クリスとムサシ、二人の男に両肩を支えられ、なんとかダンジョンを脱出することに成功した。
ダンジョンの外は、いつも通りの青空が広がっていた。
クリスは、そんな空の下で元気のないアリシアを何とか励まそうと、前向きな声を張る。
「アリシア様! ご覧ください、この青空を! お聞きください、この鳥たちの囀りを! ……なんという、冒険日和でしょう!」
「……ほんとね。いい天気……鳥も元気そう……ありがと、クリス」
アリシアがぽつりと呟く。
「おいおい、いつまで落ち込んでんだよ。元気出せって。そのうち、胴体も見つかんだろ」
もはや違和感のないムサシのズレ切ったフォローであったが、不思議と、心は少し軽くなった。
(……この人なりに、励ましてくれてるのね)
微笑みがこぼれる。
ようやく、アリシアの顔にいつもの光が戻ってきた。
「そうよね。いつまでも落ち込んでちゃ、ダメよね。それに……あんな巨人が守ってた宝物だもの。きっと、超絶レアな鳥の頭に違いないわ!」
「その通りです! いつかきっと、この鳥の頭に救われる日が来るはずです!」
「らしくなってきたじゃねぇか。ったくよ、こっちまで調子狂うから勘弁してくれよな」
盾は手に入らなかったが、このダンジョンを通して確かに得たものがあった──
仲間との絆、そして小さな成長の手ごたえ。
それを胸に、アリシアは太陽のような笑顔で、二人に向かって言った。
「クリス、ムサシ、ありがとね!!」
こうして三人は、魔法王国アヴァロットの方向へと、再び平原を歩き出した。
*
──その道中。
戦闘は、もはや戦闘ではなかった。
ダンジョンのボスと延々スパーリングを重ねたムサシは、見事に覚醒していた。
どんな魔物が現れようと、ムサシの斬撃は容赦なく振り下ろされ、戦闘は基本“秒”で終了。
平原だろうが森だろうが湿地だろうが、
「雑魚狩りは全部ムサシで良くね?」
という空気が一行に流れ始めていた。
そんなわけで──
アリシアとクリスは、まるで世界に魔物など存在しないかのように、のんびりと世間話を楽しんでいた。
「そういえば、アリエヘンのクリーニング屋のお兄さんって、無事に金物屋の娘さんと結婚できたのかな?」
「懐かしいですねぇ。あの潰れてしまったレストランの跡地、次は何が入るんでしょうか」
「ナゴミさんが働いてた花屋さんって、リンドバーグのどこにあったのかしら……」
そんな他愛のない会話が続く中、突然ムサシの声が割り込んだ。
「おい、街が見えてきたぞ」
盛り上がっていたアリシアは、会話の流れのまま反射的に答える。
「……あ、ほんと?」
一方、誠実な男・クリスは即座に我に返り、ムサシがずっと一人で戦っていたことに気づいてしまう。
(あっ……まずい……ムサシさん、怒ってるかも……!?)
「ほ、本当だ! 街です! ムサシさん、ありがとうございます!!」
「おう。街着くまでに、もうちっと狩りてぇところだがな」
──誰がどう見ても、クリスの取り越し苦労だった。
こうして勇者一行は、次なる街「シルドーニャ」へと、足を踏み入れた。




