第二十七話 ダンジョンボス
──仰々しい扉の向こうに待ち受けていたのは、天井の高い、広々とした円形の空間だった。
その奥に構えられた祭壇の上には、煌びやかな黄金の宝箱が一つ。これまでの階層で見かけた宝箱とは、明らかに格が違う。
「見て!あの黄金の宝箱!きっと伝説の盾が入ってるんだわ!」
アリシアが目を輝かせて叫ぶ。
「なんだ、敵はいねぇのか?拍子抜けだなおい」
ムサシは大あくびをかみ殺しながら言い放つ。
──緊張感のかけらもない二人を尻目に、クリスはただ一人、空間に満ちる異様な気配に眉をひそめていた。
「……上から、来ます! 二人とも、下がって!」
その声と同時に──
ドォン!!
天井を突き破るような地響きと共に、巨大な魔物が降ってきた。
その姿は異形の巨人。四本の腕を持ち、その全てが──盾を携えていた。
「いたか! ほっとしたぜ!」
ムサシが嬉しそうに笑みを浮かべ、剣を構える。
「来たわね……!見て、あの盾の守護者感!もう盾確定よ!」
「……油断せずに行きましょう!」
クリスが気を引き締めたその瞬間──魔物が口を開いた。
「よくここまで来やがったな! あの宝箱が欲しいか? だがざん──」
「ええ!もちろんよ!くれるの?」
「おい、貰って帰るなんてゆるさねぇぞ?斬らせろよ?」
「やるわけねーだろクソガキどもが〜!!」
「──そりゃ何よりだ!」
ムサシがニヤリと笑い、神速の踏み込みを見せた。
ズシュン!!
下段の二本の腕が、ムサシの一撃によって一瞬で吹き飛ぶ。
「ぐぁっ!!」
間髪入れず、上段の腕にも剣が舞う。
バシュン!!
「がぁっ!!」
「──ラスボスも大差ねぇな!」
ムサシは魔物の脳天めがけて、とどめの一撃を振り下ろす。
だが──
ガキィィン!!
鋼鉄のような音が鳴り響いた。
さきほど斬り落としたはずの下段の腕が、いつの間にか再生していたのだ。
そして、その盾で魔物は──己の脳天を、完全防御していた。
「ちっ……再生持ちか」
ムサシは顔をしかめるどころか、口元を吊り上げて笑った。
「──んなら、股間だったよなぁ!」
彼は即座に下段の腕をもう一度ズバッと斬り落とす。
「もらったぁ!」
そしてそのまま、股間めがけて渾身の一撃──!
ガキィィィン!!
再生した上段の腕の盾が、ガッチリと防いだ。
「おもしれぇ!!」
ムサシは完全にスイッチが入った。斬撃はさらに加速していく。
「せいっ!」 ズシュン!
「はぁっ!」 ガキィン!
「おりゃ!」 バシュン!
「もらったぁっ!」 ガキィィン!
上を斬れば、下が防ぎ。
下を斬れば、上が守る。
股間を挟んで繰り広げられる、前代未聞の“スパーリング”に、アリシアとクリスは呆然としつつも──
「……クリス、いよいよ“あれ”を使う時が来たわね」
「……はい、アリシア様」
それは、コジーロから伝授された連携技──
再生阻害の秘剣"モド・ラナク"。
発動には、クリスの信仰が揺らぎなきものであることが、絶対条件だった。
アリシアは一瞬、迷う。
──先ほどの一件で、自分を制御できなかったクリスの姿が、頭をよぎったからだ。しかし──
「……クリス、大丈夫よ」
アリシアの言葉は、信頼の証。そして、祈りだった。
それを受けたクリスは、ゆっくりと頷き、穏やかな声で言った。
「……アリシア様。僕は、聖職者としてあるまじき行いをしました。罪深い人間かもしれません。けれど、それは僕自身への疑念であって──神への疑念ではありません」
その瞳には、曇りのない意志が宿っていた。
「僕がどれだけ自分を疑おうとも、神を疑うことは、決してありません。
どうか安心して、剣を掲げてください。アリシア様」
「……うん!」
アリシアはその言葉を胸に刻み、天へと剣を掲げる。
「はぁぁぁあ!!」
クリスは静かに目を閉じる。
(主よ──この世界の希望、勇者アリシアの剣に、破邪の力を与えたまえ)
開かれる蒼き瞳。
右手から放たれる清らかな光が、
アリシアの剣へと注ぎ込まれていく──!
「主の名のもとに──」
「世界に平和を──」
「「秘剣・モド・ラナク!!」」
アリシアの剣は、まるで太陽そのもののように輝き出した──!!




