表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の僧侶  作者: ヨシダール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/88

第二十五話 揺らぎ

──覚醒は、静かに解けた。


黒く逆立っていた髪が、ふわりと白く降りる。

殺気に満ちた赤い瞳も蒼く戻り、優しさを取り戻した。


「……ムサシさん……?」


ようやく意識を取り戻したクリスは、目の前に迫る気配に気づき、困惑の声を漏らす。


だが次の瞬間──


「おりゃあああああ!!」


猛獣のごとく吠えたムサシが、村政宗を振りかざして斬りかかってきた。


「え……な、なんで!?」


「ちょっと何してんのよ!!」


間一髪、アリシアが魔法を放つ。

爆裂の炎がムサシの頭上で炸裂し、その勢いに彼はよろめいた。


「ぐあっ……!」


ムサシは数歩後退し、ふとクリスの髪を見て……我に返った。


「……あ?」


「ムサシさん、いったい何が……?」


アリシアは強い怒気をこめて叫ぶ。


「あ?じゃないわよ!! あんた、クリスに斬りかかったじゃない! 正気なの!?」


ムサシは歯を食いしばり、吠えるように返す。


「あぁ!? こいつが、さっき黒髪になって俺に攻撃しかけたんだよ!!」


「えっ……?」


アリシアはその場に固まり、驚きのままにクリスへと視線を移す。


「クリス……本当なの?」


クリスは、口を閉ざしたまま目を伏せ、しばらく沈黙してから──


「……わかりません。ですが……ムサシさんは嘘はつかないかと」


「………」


ムサシは深く息を吐き、静かに語り出す。


「……あん時はな、黒いお前が魔物の股間を吹っ飛ばした直後、すぐに戻った。でも今のは違った。人食い箱を粉砕したあと、完全に俺を狙ってた。……こりゃあ、話が変わってくるぞ」


アリシアの顔から血の気が引いていく。


「……そんなことって……」


沈黙。


その沈黙の中で──クリスの心は、静かに崩れていた。


ドスコムーアのときも、ザルマデスのときも。

覚醒の記憶はなかったが、結果として仲間を守れたことに、どこか正当性を感じていた。


だが今回は──違った。


あのコジーロ村。

人のあたたかさと誇りに満ち、ムサシが守ってきた大切な場所。

あの村の人々が懸けた想いと絆を、ムサシという男は背負って仲間になってくれた。


そのムサシに、自分は剣を向けた──。


聖職者として、仲間として、人として。

何かが、心の奥底で音を立てて揺らぎ始めていた。


クリスは、震える膝でその場に崩れ落ちた。


「……すみません……っ」


頭を深く下げ、唇を噛み締めた。


「……本当に、申し訳ありません……っ……ムサシさん……アリシア様……」


肩を震わせ、涙がぽたぽたと地面に落ちていく。


アリシアは、その姿に胸が詰まった。


しばしの沈黙のあと──


「……何でそんなことになったのか、今はわからない」


その言葉は冷静に聞こえたが、アリシアの声はほんのわずかに震えていた。


「……仲間を攻撃するのは、何があっても許されない」


───呼吸。


そして、ぐっと拳を握りしめたアリシアは、涙を溜めながら叫ぶ。


「……だけど、私はクリスを信じたい!! 信じていたいの!! だって……クリスより信じられる人なんて、この世にいないもの!!」


クリスの目から、さらに涙があふれた。


「もしかしたらこの先も、同じようなことがあるかもしれない……でも、それでも……私はクリスが僧侶じゃなきゃ嫌なの!! クリスと一緒に、世界を救いたいの!! この旅を、最後まで一緒に乗り越えていきたいのよ!!」


その言葉は、何よりも救いだった。


クリスは顔を両手で覆い、声を上げて泣き出した。


ムサシはそんな彼をじっと見つめていたが、やがて静かに口を開いた。


「……顔を上げろ。もうわかった」


その声は、いつもの荒々しさを忘れた優しさを帯びていた。


「それに俺だって……お前を斬ろうとした。それは変わらねぇ。……すまなかった」


「……ムサシ、さん……っ」


泣き崩れるクリスに、ムサシは無言で手を差し出す。


「さあ、立て」


その手を、クリスは震えながらも握った。

そして、ぐっと力強く引き上げられる。


「……ぐすっ……ぐすっ……はいっ……!」


涙とともに、わずかな笑みがこぼれる。


──こうして、ひとつの動揺と涙の時は過ぎ去り、

三人は再び、冒険の足を進めていった。


あの階段の先に、何が待ち受けているのかも知らぬままに──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ