第二十四話 ダンジョン事変
「……やっぱり、私……盾が欲しい!!」
そんなアリシアの決意から一夜が明け、三人は変わらず平原を進んでいた。
「まあよ、そろそろどっか街でも見えてくるだろ。そこの防具屋で一番硬ぇのでも買えばいいじゃねぇか」
ムサシが肩を回しながら言う。
「ええ、そうなりそうね。ムサシが勝手に敵を斬りまくってくれるおかげで、ゴルもだいぶ貯まってきたし!」
アリシアは笑顔で手持ちの袋を軽く振る。
※ゴル……魔物を倒すと、その強さに応じて変化する通貨。モンスターを倒せば倒すほど懐が潤う仕組みである。
「そうですね。そろそろ足も疲れてきたことですし、どこか街が見えてくると嬉しいのですが……」
クリスも、やや弱った声で歩を進める。
その時だった。
「──待って! あそこにダンジョンがあるわ!!」
アリシアが地平線を指さす。
「ダンジョン……ですか? しかし今は、休息を優先するべきかと……」
と、クリスが言いかけた瞬間。
「盾の匂いがプンプンするわね! 行くわよーっ!!」
アリシアは勢いよく駆け出した。
「ア、アリシア様ぁ〜……!」
クリスは目を丸くして、慌てて後を追う。
「ダンジョンか、面白そうじゃねぇか!」
ムサシは虎のように地を蹴った。
こうして三人の、急きょ決定したダンジョン攻略が始まった──。
*
内部は広大かつ入り組んでおり、魔物も数多く潜んでいた。
ムサシはご馳走を前にした子供のように走り出し、魔物たちを次々と斬り倒していく。
「せいっ!」
ズシュン!
「はぁっ!」
バシュン!
「おらぁ!」
ズバシュン!!
その剣撃はあまりに速すぎて、敵は描写すら許されずに消滅していった。
そんな中──
アリシアは魔物退治には見向きもせず、ダンジョン探索という“冒険の醍醐味”を一心不乱に堪能していた。
「うわっ、毒沼!」
「アリシア様ぁっ!!」
慌てて駆け寄るクリス。
すかさず毒消し魔法を詠唱する。
──少しして。
「いったぁ〜! 棘床ってば!」
「アリシア様ぁぁっ!!」
またも駆け寄るクリス。
今度は回復魔法が発動。
──さらに数分後。
「きゃ〜〜っ!!」
「アリシア様〜〜〜っ!!」
落とし穴に落ちかけたアリシアの手を、クリスが非力な腕で必死に掴んでいた。
アリシアに翻弄され、どんどん疲弊していく聖職者。
そんな彼の悲鳴をよそに──
ムサシの剣撃ショーは続いていた。
「ふっ!」
ズシュン!
「てぃっ!」
バシュン!
「そりゃあ!」
ズバシュン!!
いよいよクリスの体力が底を突きかけた頃──
三人は、T字路の突き当たりにたどり着く。
右には最下層へと続く階段。
左には、視界の悪い曲がりくねった通路が伸びていた。
「階段がありますね。……降りましょう」
クリスが、疲れきった顔で言う。
「──あっちに絶対、宝箱があるわっ!!」
アリシアが勢いよく左へ向かってダッシュ。
「まだ斬ってねぇ魔物がいそうだな!」
ムサシも興奮気味に後を追う。
「お、お待ちください〜〜!!」
クリスは顔をしかめながら、ふらふらとついて行くしかなかった。
その先、通路の果てには──
「やっぱりあった! 宝箱よ!」
アリシアの瞳がきらきらと輝く。
「開けちゃうわよ〜っ!」
と、その瞬間。
ガバァッ!
「きゃ〜〜〜っ!!?」
アリシアが、宝箱に食われた。
クリスとムサシが駆けつけると、アリシアの下半身が宝箱からはみ出し、黄色のパンティがばっちり見えていた。
「た、助けて〜〜〜!!」
「……食われたか」
ムサシが静かに呟き、腰の村政宗に手をかける。
(どう切る……?)
パンツは目に入っていたが、見えてはいなかった。
──ズバンッ!
しかしその時。
黒い閃光が空を裂き、人食い宝箱に突き刺さった。
「なっ……!?」
閃光は瞬く間に数発放たれ、アリシアの身体を避けつつ、宝箱だけを粉砕した。
「お前……!!」
振り返ったムサシの視線の先には──
黒髪のクリスが立っていた。
無言のまま手を向けるクリス。
その顔は冷酷で、どこか聖職者とは思えぬ表情だった。
だが、その異様な気配にもムサシは臆せず──いや、むしろ燃えていた。
「……おもしれぇ!!」
ムサシは村政宗を振りかざし、突撃する。
その瞬間、黒いクリスが静かに囁いた。
「……ケシ・ト……」
詠唱の途中、アリシアの声が響いた。
「ありがとうムサシ! 助かったわ!!」
宝箱から這い出たアリシアは、勘違いも甚だしく叫んだ。
その言葉は、狂犬ムサシの耳には届かなかったが、黒いクリスの耳には届いた。
──次の瞬間。
クリスの髪は、ふわりと白に戻った。




