第二十三話 勇者の決意
「……やっぱり、私……盾が欲しい!!」
唐突な叫びだったが、アリシアの目は真剣そのものだった。
ムサシの加入によって、パーティの物理火力はすでに桁外れの領域へと達していた。それゆえ、彼女が以前から考えていた「役割の転向」──すなわち、前衛としての盾役への移行──だと、クリスはすぐに察した。
「確かに。僕も同感です」
クリスは、迷いなく頷いた。
「はあ? 盾? あんなもん持ったら剣振りづらくなるだけじゃねぇか」
ムサシが、いつもの調子で不満げに言う。
「ええ。だから私が持つのよ」
アリシアは静かに言い返した。
「……んん?」
「貴方の斬撃だけで、このパーティの物理火力は十分なの。ちょっと……悔しいけどね」
「そ、そうかよ……」
ムサシは、満更でもなさそうな顔で頭をかいた。
「ええ。だって、あれだけ魔物と遭遇したのに、私今日何もしてないもの。ね、クリス?」
「はい。アリシア様は何もしていません」
「ちょっと! 少しくらいフォローしてくれても良いのよ?」
アリシアは笑いながらツッコミを入れる。
「す、すみません……」
「で、お前が盾を持って、魔物からの攻撃を防ぐってか。けど、今日のとこは誰一人ケガしてねぇじゃねぇか」
ムサシが言うと、アリシアの表情が一転、真剣なものに変わった。
「……今日はね」
「……んだと?」
「貴方の斬撃は確かに異次元。本当に心強いわ。でも、これから先に立ちはだかる魔王たちは、決してそんなに甘くはないはずよ。特に──大魔王は、絶対」
ムサシは、言葉を飲んだ。
「コジーロさんが全盛期にその刀を持ってしても斬れなかった相手よ」
「……確かに、そうだな」
「だからこそ、これからは“耐久力”が必要なの。私たちの旅に、魔法使いが加わる日も近いかもしれない。でも彼らは基本的に防御力が低い。そして、クリスの回復と補助は絶対に欠かせない」
クリスが、そっと視線を落とす。
「だから、私が盾を持つの。このパーティの“壁”になるの。誰かが受け止めなきゃ、みんなの力は活かせない。だから、強力な盾を──手に入れなくちゃ!」
いつもは天真爛漫で天然気味なアリシアの、凛とした声音と眼差し。
ムサシは少し驚きながらも、そこに“勇者”としての覚悟を見た。
「……そうか。わかった」
それだけを言って、頷いた。
クリスもまた、アリシアの持つ太陽のように眩しい明るさでつい隠れがちな、静かで強い覚悟と聡明さに、深い尊敬を覚えながら静かに言う。
「僕も、それが最善だと思います」
アリシアは、ふたりの言葉にほっと安堵し、ぱっと笑顔を見せた。
「で、どこにあるのかな、強い盾って!」
その瞬間、真剣な空気が一気に吹き飛んだ。
「知るか! んなもん!!」
ムサシが思わずずっこける。
「ふふっ……一緒に探しましょう、アリシア様」
クリスは珍しく声を上げて笑いながら、優しくそう告げた。




