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黒の僧侶  作者: ヨシダール


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第二十一話 別れの時

朝の光がコジーロ村に降り注ぐ。


どこまでも澄みきった青空は、まるで新たな門出を祝福しているかのようだった。


「……うん。今日はこれだな」


アリシアは、着替え部屋で身支度を整えながらそっと頷いた。


選んだのは、純白の下着。


“新たな旅立ちにふさわしい、清き決意の象徴”だった。



一方、ムサシの部屋では、クリスが静かに目を閉じていた。


(……主よ。このコジーロ村に、変わらぬ平穏と笑顔を。

そして、僕たちの新たなる旅路に、光を与えたまえ)



「よしっ!」


気合いを入れた声とともに、アリシアは部屋を出る。

やがて、支度を終えた三人は、コジーロの家の玄関に揃った。


そこへ、ひと振りの刀を手にしたコジーロが現れる。


「ムサシ、これを持っていきなさい」


静かにそう言って、刀を差し出す。


「この刀は……」


それは、二十年前の旅でコジーロ自身が振るった愛刀──

「村政宗」。


「わしが、かつて使っていたものじゃ。しっかりと打ち直してある。まだまだ現役じゃぞ」


ムサシは刀を手に取った。


鋭い切れ味を持つ名刀であるが、その真価は──


「……軽い」


そう、異常なまでの軽さにある。


しかし、ムサシにとってその刀は──重かった。


それは、父から託された事実の重みと、

自分がこれから背負うべき覚悟の重みだった。


「……受け取った」


短く、しかし揺るぎないその言葉に、コジーロは深く頷いた。


「……良し」


コジーロは静かに言った。


「家の者みなで、村の入り口まで見送りに行こう」


「ありがとうございます!嬉しいです!」


アリシアは元気に笑い、皆で村の道を歩き出した。


すれ違う村人たちは、皆に声をかけてくる。


「ありがとう、アリシア様!」

「クリス君、また来てね!」

「ムサシ、頼んだぞ!」

「村は任せろ!しっかりやってこい!」


温かい言葉が背中を押してくるたびに、旅立ちの実感が深まっていく。


──やがて、一行は村の門へとたどり着いた。


「うぅ……ムサシぃ……」


ナゴミが目に涙を浮かべながら、むせび泣く。


「お袋……そんなに泣くなって。ちゃんと帰ってくるからよ」


「ぐすっ……ムサシ……気をつけるんだよ……風邪ひかないようにね……うぅっ……」


母の涙に、アリシアも思わず目頭を押さえた。


そして、コジーロが一歩前へと出て、ゆっくりと息を吐く。


「……ではな、ムサシ。行ってこい」


「おう」


父と子の短い別れの言葉は、それだけで十分だった。


笑顔で別れようと決めていたリョーマは、胸いっぱいの寂しさをこらえながら、コジーロの真似をして声を張る。


「行ってこい!」


「ったく……最後まで生意気なガキだぜ!」


ムサシも、笑って返す。


そして——


「……じゃあな、リョーマ。行ってくる」


「……おう!!!」


リョーマは涙をこらえ、力強く応えた。

その目には、確かな誇りが宿っていた。


「アリシア様、クリス君……ムサシのこと、よろしくお願いします」


コジーロがそう頭を下げると、アリシアとクリスも深く頷いた。


「はい!皆さんもお元気で!」


「またいつの日かこの村を訪れる日を、楽しみにしています」


──こうして。


拍手と歓声、そして温かな言葉を背に受けながら。

三人は、コジーロ村を後にした。


その背中には、剣と祈りと、希望があった。



──その頃。


大魔王城。

漆黒の闇に包まれた玉座の間には、凍てつくような静けさが支配していた。


「ジャダム様!ご報告を!」


魔物のひとりが、慌ただしく膝をつく。


「ドスコムーアが……やられました!」


玉座にふんぞり返るのは、巨大な漆黒の影

——大魔王ジャダム。


「……ほう。ドスコムーアもやられたか。 思っていたより、骨がありそうだな……勇者め」


「それが……」


魔物が顔を上げる。


「報告によりますと、ドスコムーアを葬ったのは……勇者ではなく、仲間の僧侶とのことです!」


「……なに? 僧侶だと……?」


ジャダムの目が細められる。


「はい。何でも、突如として髪が白から黒へと変化し、

一瞥でドスコムーアを麻痺させたとのこと。

そして、恐るべき魔法により──」


「…………まさか……」


大魔王の声が、ひときわ低くなる。


「……いや……そうだ……」


「……ジャダム様?」


「もうよい。下がれ」


「はっ!」


魔物は恐れおののきながら、すぐさま姿を消した。


──玉座に、静寂が戻る。


ジャダムはゆっくりと立ち上がった。

その一歩ごとに、玉座の間の空間が歪み、壁にかけられた魔族の旗が呻き声を上げるように揺れた。

邪悪な気配が、まるで生き物のように足元から這い上がってくる。


「……くっくっく……やればできるではないか……イヴリンめ……ふはははは……」


その瞬間、城全体がわずかに震え、底知れぬ邪気が静かに世界へと広がり始めた──。

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