第十八話 破邪の秘剣
ムサシとリョーマの一本勝負が終わった後も、稽古場の余韻はすぐには消えなかった。
「ふたりとも……立派になって……」
母ナゴミは涙をぬぐいながら、誇らしげに微笑む。
その隣で、ナゴミの友人ももらい泣きしつつ鼻をかむ。
郵便配達員は配達のことなどとうに忘れ、ベンチに座りながら「この村に生まれてよかった……」と感動に浸っている。
リョーマと遊びに来ただけの近所の子どもたちは、目を輝かせてリョーマに駆け寄った。
「リョーマ! 俺たちにも剣、教えてくれよ!」
「俺たちも……一緒に村を守るんだ!」
思いがけない言葉に、リョーマはきょとんとし、すぐに顔をほころばせた。
それを少し離れた場所から、ムサシは静かに見つめていた。
その表情には、どこか安心したような、それでいて誇らしげな影が差していた。
「……さて。俺は部屋に戻って、支度でもすっかね」
そう言って歩き出すムサシは、すれ違いざまに父コジーロに問いかけた。
「親父。この後、例の“連携技”をこいつらに教えるんだろ?」
「うむ、そのつもりじゃ。……じゃが、お前は見ていかんのか?」
「……自分が使えねぇ技になんざ、興味ねぇよ。いずれすぐにわかることだしな」
ムサシは背中でそう告げると、アリシアとクリスの方を振り向いた。
「おいお前ら。しっかり習得しろよ」
「もちろんよ!」
アリシアはぱっと顔を輝かせる。
その横で、クリスもまた真っ直ぐな目で頷いた。
「はい、必ず」
そうして──二人の修行が始まった。
*
「今から教えるのは、勇者と僧侶の連携技……その名も“モド・ラナク”じゃ」
コジーロがゆっくりと口を開く。
「モド・ラナク……」
アリシアとクリスが同時につぶやいた。
「この技は、勇者の剣に僧侶の信仰をぶつけることで、剣に破邪の力を宿す秘剣じゃ。
……習得できるかどうかは──クリス君、君の“神への信仰”にかかっておる」
「……僕の、信仰ですか」
クリスはつぶやいた。
だがその顔に、不安は一切なかった。
むしろ、当然のような静けさがそこにあった。
「そうじゃ。君は、自分の信仰が“本物”だと言えるか?」
「──はい」
その答えに、一片の迷いもなかった。
コジーロは、どこか懐かしさの混じった眼差しでクリスを見つめる。
──かつての仲間、モーゼフの面影を、その姿に重ねながら。
「……そうか。では、教えよう」
「お願いします」
「よろしくお願いします!」
「まず、アリシア様。
世界を救う覚悟を胸に、天に向かって剣を掲げなさい」
「……はい!」
アリシアは静かに目を閉じ、
まだ見ぬ未来の平和な世界を思い描いた。
心に宿る希望を、剣に乗せて──高らかに掲げる。
「はああぁっ!!」
アリシアの剣が陽の光を受け、煌めく。
「よし。では、クリス君。
アリシア様の剣に破邪の力が宿るよう──
神に向かって、全身全霊で祈りなさい」
その言葉は、クリスにとって何の意味も持たなかった。
なぜなら彼の祈りが“全身全霊でなかったこと”など──
生まれてこの方、一度たりともなかったからだ。
クリスは、ただいつも通りに、
静かに、誠実に、心からの祈りを捧げた。
(主よ……勇者アリシアの剣に、邪を打ち破る力を与えたまえ)
そっと、アリシアの剣に手を向ける。
──その瞬間。
剣は、まるで太陽のように眩く、黄金の光を放った。
「クリス……!! やったわ!!」
「はい!」
「これが……モド・ラナク……!」
「……ほぅ……」
コジーロが思わず息を漏らした。
「まさか、ここまでとはのう……」
こうして、勇者と僧侶は──
破邪の秘剣“モド・ラナク”を見事、習得したのであった。




