第十五話 村長、口を開く
「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
リョーマの絶叫が、コジーロ家の居間に木霊する。
「……あんた……なんで……!? 昨日、確かに……!」」
その瞳には、驚愕と混乱、そして──ほんの少し、涙のにじみ。
「実は色々ありまして、この通り生きております。ご心配おかけして申し訳ございません、リョーマ君」
にっこりと微笑みながら頭を下げるクリスに、リョーマの混乱は加速するばかり。
「な、何が起きたらあれで死なずに済むんだよ……!えっ、じゃあ、あの化け物は!?」
「もういないわ」
アリシアが優しく微笑む。
「あなたが気を失っている間に、やっつけといたわよ。……心配だったよね。ごめんね、リョーマ君」
その表情は、本当に申し訳なさそうで──けれど、どこか母性的でもあった。
「……じゃあ、誰も……死んでないの?」
アリシアはぱぁっと満開の笑顔で頷いた。
「うん! みんな生きてる!」
「……そっか……よかったぁ……」
リョーマの目に溜まっていた涙が、ついにぽろりとこぼれ落ちた。
「またすぐ泣きやがって」
ムサシがぼそりと呟く。
「なんでさっさと教えてくれなかったんだよ!?」
リョーマがムサシに食ってかかる。
「なんでって、お前起きた瞬間、木刀持って走ったじゃねぇか。いつ話せってんだよ」
「ここで茶飲んでる今とかで良かっただろ!?」
「……大事な話をしてたんだよ」
「何の話だよっ!?」
「ガキのお前には、まだ早い」
「なんだよ……クソッ……! いつまでも子供扱いしやがって!!」
悔しさと怒りを抱えて、リョーマは踵を返し、そのまま部屋を飛び出そうとする──が。
ふと、居間の入り口で立ち止まり、クリスの方へ向き直ると、すっと膝をついた。
「昨日は助けてくれて……本当にありがとうございました!!」
頭を深く下げ、礼を述べたリョーマは、立ち上がってそのまま奥の部屋へと走り去っていった。
「……あなたよりよっぽど大人よ、あの子」
アリシアがジト目でムサシを見やる。パンティの色を暴露されたことへの復讐が始まろうとしている。
「……あぁ!?」
ムサシが眉を釣り上げた、そのとき──
それまで仏像のように沈黙を貫いていた村長コジーロが、静かに口を開いた。
「──私があの魔王の一角の弱点を知っていたのは、昔、魔王たちと散々戦ったからじゃ」
場の空気が、音を立てて変わった。
ムサシとアリシアが言い合っていた場が、一瞬にして凍りつく。
「……どういうことだ、親父?」
「言った通りじゃ」
「村長さん……あなた、昔、魔王と戦ったことがあるの……?」
「……ああ、そうじゃ。わしは、勇者デイビッドのパーティの剣士じゃったからな」
──その言葉を聞いた瞬間。
三人の背中を、寒気が走った。
空気が、変わる。
時間が、止まる。
「……え……?」
ぽつりと呟くクリス。
父・モーゼフが訪ねるようにと言った村長が、かつての勇者の仲間だったとは──
頭が、ついていかない。
そんな彼に、コジーロがふと目を向け、静かに問う。
「お前さん、モーゼフの息子じゃろう?」
「……はい」
その返答を聞いたコジーロは、どこか懐かしさと寂しさを含んだ笑みを浮かべた。
「──あいつとは、色々あってな。大魔王を封印して以来、一度も会っとらん。……今後、会うつもりもないがな」
その言葉が胸に突き刺さる。
クリスは、ようやく理解し始めた。
自分の父が、アリシアの父・勇者デイビッドと、共に戦った仲間だったという事実を。
そして、この村長もまた、伝説の一員だったことを。
しかし——
なぜ父が自分にそのことを隠していたのかは、わからなかった。
「ちょっと待ってください……ということは、村長は私の父の仲間で、モーゼフ様とも仲間で、ということは……モーゼフ様と私の父も仲間で……!」
アリシアもまた、混乱を隠せなかった。
「……頭が……ついていかない……!」
ムサシも、驚いてはいた。
だが──
「そうだったのか……親父が伝説の剣士だったとはなぁ。驚いたぜ」
「黙っていて悪かったな、ムサシ」
「いや、別に気にしねぇよ。親父が何者だろうが、親父は親父だ。関係ねぇ」
コジーロはふっと微笑み、ぽつりと答えた。
「……そうだな」
しんと静まり返るちゃぶ台の間に──
慎重に言葉を選ぶように、クリスが声を発した。
「……すみません。今、ようやく頭を整理しつつあるのですが……」
「父は、コジーロ様なら、この旅の力になってくれるはずと言っていました。……それは、どういうことなのでしょうか?」
コジーロは静かに目を閉じ、そして──
さらなる真実を語ろうとしていた。




