第十三話 謎の僧侶
──静寂の中。
白銀の髪が、風にそよぐ。
「……ん? 僕は……」
クリスはゆっくりと瞬きをしながら、辺りを見渡した。
「生きてる……?」
ぼんやりとした思考が、少しずつ現実を取り戻していく。
記憶の断片が繋がりはじめ──
「そうだ、僕は……ドスコムーアに……!」
胸を押さえ、クリスは目を見開く。
「えっ?……傷が、塞がってる……。ドスコムーアは!?」
振り返った彼の視線の先には、座り込むアリシアとムサシの姿、そしてリョーマは横たわり、気を失っていた。
「アリシア様!! 皆さん!」
慌てて駆け寄り、クリスは傷ついたふたりに手をかざした。
「カロ・ナーレ!!」
やわらかな光が、アリシアとムサシの身体を包みこみ、癒していく。
アリシアは、呆然としながら声を漏らした。
「……クリス?」
「アリシア様、ご無事で何よりです!」
「…………」
「ムサシさんも、良かった……リョーマ君は、気を失っているようですね……」
ムサシは起き上がりながら、額の汗を拭った。
「お前……どうなってんだ?」
「……え?」
クリスは首をかしげる。
「……アリシア様、ドスコムーアは? まさか……倒したのですか?」
アリシアはしばし沈黙したあと、静かに口を開いた。
「クリス……あなた、自分が何をしたのか……覚えてないの?」
「……僕は、祈って……気づいたら、ここに……。傷も塞がっています……これは、やはり夢なのでしょうか……?」
そう言ってクリスは、自分の頬を思いっきりつねる。
「……っ!痛いっ!!」
「ちょ、ちょっと……」
アリシアは危うく吹き出しそうになりながらも、
「……いったいどういうこと……?」
と、困惑を隠せない。
ムサシは腕を組み、低く唸った。
(あれは……さっきのと同じだ。いったいどういうことだ?アリシアは何も知らねぇのか? ……だが、今はそんなことよりも……)
ムサシはリョーマの身体を肩に担ぎながら、クリスに向き直る。
「わけわかんねぇことばかりだが……おかげで、リョーマも俺たちも助かった。恩にきるぜ!」
その時──
「本当に……ありがとうございました!」
と、村長・コジーロが駆け寄ってきた。
「勇者様、僧侶の方……今はとにかくお疲れでしょう。どうか、うちでお休みくださいませ」
その言葉に、一同は頷き、コジーロの案内で村長宅へと向かった。
*
「よっこらせっ……っと」
ムサシはリョーマを布団に寝かせると、ふたりを振り返った。
「俺とリョーマはここで休む。お前らはその奥、俺の部屋を使え。風呂は下にあるから好きに使ってくれ」
「ありがとうございます。助かります」
「ありがと、ムサシ」
クリスとアリシアは頭を下げ、襖を開けて部屋へと入った。
*
二人は一階の風呂でシャワーを済ませると、着替えを整えて部屋に戻った。
「……さてと」
座布団に腰を下ろしながら、アリシアはゆっくり口を開いた。
「クリス……本当に、何も覚えてないの?」
「はい……気づいたら、ドスコムーアがいなくなっていて、皆さんが無事で……それだけです」
「……さっきのあなた、突然髪の色が真っ黒になって……恐ろしいビームで、ドスコムーアの急所を一撃で貫いたのよ?」
「…………は?」
「ザルマデスの時も……きっと同じだったに違いないわ」
クリスは、にわかには信じ難かったが、
「………確かに……それなら、辻褄が合いますね……」
アリシアは少し眉をひそめ、クリスの顔を覗き込んだ。
「……今、本当にどこも痛くないの?」
「はい。むしろ、全快しているくらいです」
「…………」
アリシアは一瞬絶句したあと、ふっと笑いをこらえきれずに吹き出した。
「……なによそれ……最強じゃない!!」
思わず座布団を叩いて笑い始めるアリシア。
クリスは苦笑しながら、頬をかいた。
──その三十秒後。
アリシアは、まるで燃え尽きたように、すぅすぅと寝息を立てていた。
「……お疲れさまでした、アリシア様」
クリスはそっと、布団を掛け直した。
部屋の外では、夜風が静かに吹いていた。
(……主よ。僕の中には、いったい何が……)




