第十二話 今際の風
「ゴフッ……!」
クリスは血を吐き、貫かれたまま立ち尽くしている。
「クリス!!!」
アリシアが絶叫した。
「あぁ……あぁ……!」
リョーマは尻餅をつき、顔を引きつらせながら後退った。
そして、這うようにムサシの方へ近づき、しがみつく。
そのまま、リョーマはぐったりと気を失った。
「リョーマ!」
ムサシは思わず叫んだ。
だが──
目の前には、血に塗れたクリス、絶叫するアリシア、そして嘲笑う四魔王。
「クソったれが……!!」
ムサシは地面を拳で叩きつけた。
ドスコムーアは、愉快そうに低く笑った。
「まだ立てたのかよ、僧侶めぇ。勇者様を守ったか、立派なこったぁ!」
ドスコムーアはにたりと嗤う。
「まあ、すぐに勇者も殺してやるがなァ! はっはっは!」
クリスは血に濡れた口を、震えながら、ゆっくりと開く。
「アリシア様……申し訳、ございません………僕は……ゲフッ!……」
蒼い瞳から、光が消えていく。
「いや……いやよ……!」
アリシアは震える声で首を振る。
「クリス……お願い……いかないで……!」
クリスは、己の最期を悟り、静かに目を閉じた。
そして——
(主よ……僕は、ここまでです。いつも内にいてくださったこと、感謝致します。最後に……どうか、アリシア様を……この素晴らしい村を……この魔物からお守りください……!)
アリシアは泣き崩れ、
ムサシは悔しさに地面を殴りつけるしかなかった。
──その時だった。
突如、戦場に突風が吹き荒れた。
ゴウッ!
地面に膝をついていたアリシアのスカートが、ふわりと捲り上がる。
それはまるで、運命に導かれるかのように。
顕になった紫の布地が、クリスの目に飛び込む。
──────ビリリッ!!
クリスの脳に、雷鳴のような衝撃が走る。
白銀の髪が、闇に染まり、黒く逆立つ。
真紅の瞳が開き、冷たい殺気を帯びる。
「……ッ!?」
クリスを貫いていたドスコムーアの腕が、瞬時に消滅した。
そして──
クリスの身体に刻まれていた傷も、みるみるうちに癒えていく。
「な、何だ……!?」
ドスコムーアが怯えた声を上げた。
「ク、クリス……?」
「お前、それは……さっきの……!」
クリスはゆっくりと立ち上がり、
ドスコムーアに向き直った。
「なんだ貴様は……?」
ドスコムーアが後ずさる。
「髪の色が変わったくらいで、この俺様に──」
だが、その言葉は最後まで紡がれなかった。
クリスが、ただ一度、目を力ませた瞬間。
ドスコムーアの巨体が、ピクリとも動かなくなった。
「な、何が……!? ぐ……ぬ……!!」
ドスコムーアが必死に身体を動かそうとするが、まるで見えない鎖に縛られたように微動だにできない。
クリスは静かに手を上げた。
狙うは──ドスコムーアの股間。
「局所攻撃魔法──イカ・セルーゼ」
クリスの指先から、鋭く凝縮された螺旋の閃光が解き放たれる。
──ズバァァン!!
次の瞬間、ドスコムーアの股間に、綺麗な風穴が開いた。
「ぐわああああああああああぁぁぁぁっ!!!」
ドスコムーアは地面に膝をつき、痛みのあまりのたうち回った。
「イ”デェ……イ”デェよぉ……!!」
絶叫しながら、股間の穴から外側に向かってドスコムーアの身体は徐々に霧散していく。
「チクショぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
それが、四魔王ドスコムーアの最期の言葉だった。
——静寂。
クリスは、ゆっくりと手を下ろし、
黒く逆立っていた髪が、再び白く降りた。
我に返った彼は、ふらりと立ち尽くした。
遠くから、その様子を眺めていた村長コジーロが、ぽつりと呟く。
「……あれは、まさか……」




