第百話 世界の希望
世界は今——
希望に包まれていた。
勇者一行は、天空都市アル・クラーナを目指して歩を進める中で、ダンジョンや洞窟を見つけては探索し、わいわいと騒ぎながら次々と制覇していった。
戦闘を重ねレベルが上がるにつれ、ダンジョンだろうが、洞窟だろうが、塔だろうが、道中の雑魚はもちろん、最深部に控えるボスでさえ──
基本的に、"モド・ラナク・オール"の力を帯びたムサシの斬撃一発で終了するようになっていった。
冒険の中で開けた宝箱は数知れず。
新たな装備も加わり、パーティの戦力はさらに増していった。
勇者アリシアは、履くだけで素早さが上がる「颯のブーツ」を手に入れ、
瞬足の盾役としてパーティに絶対的な安定感をもたらした。
剣士ムサシは、腕に装着すると力が増す「剛腕リング」を入手。
脳筋の斬撃は、もはや神話の領域へと到達した。
賢者バーバラは、あらゆる魔法の効果を高める「叡智のティアラ」を頭に飾り、
攻撃、補助、回復の魔法全てを自在に操る“奥義の要"として更なる成長を遂げた。
そして僧侶クリスは、自らに状態異常を防ぐ結界を張る「光のベルト」を腰に巻き、
パーティの状態管理と回復を担う者として、完成された。
(もちろん、アリシアの”あれ”が見えた時のチート覚醒も健在である)
──だが、その装備たちがフルに力を発揮する機会は、あまりにも少なかった。
なぜなら、先にも述べた通り、基本的にムサシがワンパンで終わらせてしまうからである。しかもバフなしで。
バフをかけると、前方数百メートル先まで斬ってしまうため、倫理的にも危険だとクリスが判断したのであった。
一部のゴースト系など、斬撃が通らない敵も存在した。
だがその場合も、バーバラによるえげつない攻撃魔法と、アリシアの魔法剣及び不死鳥の盾「ヒノキチ」による魔法吸収&反撃ビームで無双し、結果は楽勝で終わった。
万が一、敵の猛攻でパーティに損害が出ても──
クリスが即座に癒し、バーバラすら回復魔法を使える。
鉄壁の布陣に、隙はなかった。
魔物たちから見れば、それはもはや──
「四魔王が肩を組んで笑いながら世界を滅ぼしに来ている」
かのような恐怖だった。
世界は、かつてない静寂に包まれていた。
魔物たちは、二十年前に大魔王が封印された時以上に震え上がり、身を潜めていた。
そして、勇者一行の名は──既に、世界中に轟いていた。
どの村、どの街、どの国に入っても、彼らは盛大にもてなされた。
人々はもう、大魔王を恐れてはいなかった。
史上最強のカルテットが、この世に存在していると知っているからだ。
*
──コジーロの村、村長宅・居間。
「父ちゃん!さっき旅人の人が話してるの聞いたんだけどさ……兄貴達……すげぇみたいだな!!」
リョーマが目を輝かせて叫んだ。
「ほっほっほ!鼻が高いのぉ!」
コジーロが笑い、湯呑みを掲げる。
「ナゴミ、茶をくれ!」
「は〜い。」
ナゴミは湯を注ぎながら微笑む。
(ムサシ……風邪引いたりしてないと良いけど……)
*
──アヴァロット城・玉座の間。
「お母様。バーバラ達は、既に世界の救世主と崇められているようですね」
テリオスが笑顔で報告する。
「ふふっ、そのようね……」
モルガンは笑みを浮かべ、拳を握りしめる。
「もはや、二十年前の勇者パーティとは、比較にならない強さに違いないわ。今度こそ、世界を救える……!」
(バーバラ……頑張りなさい……!!)
*
──アリエヘン王国・城下町の教会。
「……イヴリン……私たちのクリスが、今度こそ世界を、救ってくれそうだ……」
モーゼフは静かに呟き、跪いた。
(主よ………我が息子クリスとその仲間達に、更なる祝福を与えたまえ……)
*
──アリエヘン王国・城下町の孤児院。
「お母さんお母さん!アリシアお姉ちゃんが、悪い奴らをやっつけてるの!?」
「そうよ!もうすぐ一番悪い奴やっつけて、ここに帰ってくるわよ!!」
「姉ちゃんすげーな!!俺も姉ちゃんみたいな強い男になりてー!!」
「姉ちゃんは女の子でしょ!ふふっ、まったく。さ、お昼ご飯の時間よ!お部屋片付けなさい!」
「は〜い!!」
(アリシア……みんなで待ってるからね!!)
テレサは、窓から空を見上げながら、そっと祈った。
*
──魔王城・玉座の間。
闇が淀み、空間そのものが歪む。
そこに座していたのは、大魔王ジャダム。
「……どう見る、デュラムよ?」
傍らに立つのは、最後の四魔王──デュラム。
「……さぁな」
「なぜ、さっさと片付けに行かぬ?」
「……どうせやるなら、十分に育った相手とやりたいのでな。ここに来る時こそが、奴らの到達点だろう」
「……くっくっく……この戦闘馬鹿めが……好きにするが良い」
デュラムは無言で踵を返し、玉座の間から立ち去った。
そして──
ジャダムの口元が、ねっとりと歪んで吊り上がる。
この世のものとは思えぬ邪悪な笑み。
「………もうすぐだ………もうすぐ会えるぞ………我が孫………黒の僧侶、クリスよ………」
その名を口にした瞬間、玉座の間に、禍々しい瘴気が吹き荒れた。
「我らが共に世界を支配する日は近い……くっくっくっく………はっはっはっはっは………!!」




