時の番人クロス
現世とあの世の狭間にその男はいた。男の名はクロス。
「あーあ、今日もめんどくさいなぁ」
しかしこの男、実は無気力でやる気のない男であった。
「こら、クロス。仕事なんだからちゃんとしなさい!」
先輩は今日も俺を怒る。しかし俺は気にすることなく、あくびをした。
「でも先輩。こんなところに死者が迷いこむことなんてあるんですか?」
「まぁ、滅多にないけど、ここはちょっと変わった場所なのよね」
「へぇー」
俺はやる気なく返事をした。すると、先輩はため息をついた。
「あなた、そんなで大丈夫なの?」
「何がです?」
「少しはシャキッとしなさい! 私がここを離れている間、ちゃんと番をしてるのよ」
「はいはい、わかってますよ」
「本当でしょうね……」
先輩は俺をジロッと睨んだが、俺は気にしない。先輩が去った後、俺は扉の前に腰かけた。
「一体この扉の何が変わってるんだよ……」
俺は扉に近づいた。よく見てみると、小さく文字が書いてあった。
「なになに、黄泉がえりの扉?」
なんだそれ。それならここに来る奴ら、皆生き返ってしまうじゃないか。あー、だからこんなところに扉を作ったのか。そして、俺たちみたいなのに番をさせて、見極めろってことだな。
「あー、めんどくさいなぁ」
やめちゃおうかな、こんな仕事。俺がうなだれていると、前から声がした。
「あの、すみません」
俺が顔を上げると、目の前には中学生くらいの少女がいた。
「こらこら、ここは君みたいなのが来るところじゃないよ。すぐに引き返しなさい」
「あの、でもここに来ればよみがえることが出来るんですよね」
「なぜそれを?」
「ここに来る間、皆が口々に言ってました。だから探してここまで来たんです」
少女は必死だった。本当によみがえりたいらしい。
「ならば聞こう。なぜよみがえりたい?」
俺はマニュアル通りに聞いた。適当なことを言ったら、そのまま追い返してやろうと思ったからだ。
「会いたい人がいるんです」
「会いたい人?」
「その人は私にとてもよくしてくれた人なんです。だから、もう一度その人に会って言いたいことがあるんです」
「ほぅ……」
これなら通しても問題ないだろう。それに、先輩が戻ってくる前に片付けておきたいし。
「いいぞ、通るがよい」
「ありがとうございます!」
少女はお礼を言って扉の前に来た。
「そういえば、君の名前はなんというんだ?」
「え?」
名前などどうでもいいのに、その時は聞かなければと思ったのだ。
「つかさ。近藤 つかさです」
「わかった、つかさ。今から扉を開く。君が死ぬ少し前に戻るから、その後は自分で考えなさい」
「はい、わかりました」
そしてつかさは扉をくぐっていく。その表情は笑っていたが、俺は少し気になった。
少しして先輩が戻ってきた。
「あら、クロス。何か問題はなかった?」
「あー、1人ここを通しましたよ?」
すると、先輩の表情が変わった。あれ? 俺なんかまずいことした?
「なんてことしてくれたの! ここは誰も通したらいけないのよ!」
「え、だってここに来た奴を見極めるために俺たち番人がいるんですよね?」
俺の問いに先輩は首を横に振った。
「違うわ。私たちがいるのは、誰も通さないために番をしてるのよ……早く通した者を探さなくちゃ!」
「何か問題でもあるんですか?」
「黄泉がえりは基本的に禁じられているの! これがばれたら私たちただじゃ済まないわよ」
先輩に急かされて俺も現世へと向かった。
現世に着いた俺たちは、つかさを探した。
「あ、いた! あの横断歩道のところです」
そこにつかさは立っていた。手には何か持っているようだった。そして、横断歩道の向こうには女子中学生たちが話をしながら待っていた。
「確かあの子は会いたい人がいるって言ってましたよ?」
「あの子はいじめられていたの。あの向こうにいる女子にね。だからよからぬことを企んでいるに違いないわ」
「そんなこと一言も……」
「あなた、ちゃんと資料を見てないのね。さぁ、早く終わらせるわよ!」
先輩がそう言うのと同時に、信号が青になりつかさが走り出した。
「わああぁぁ!」
その手に持っていたのはカッターだった。
「これ以上仕事を増やさないでちょうだい!」
先輩がそう言うと、つかさに向かってバイクが突進してきた。ぶつかったつかさは、その後病院に運ばれた。一応軽傷だったらしい。
「まさか、こんなことになるなんて……」
「私もびっくりよ。まぁ、これにこりて仕事にやる気を出すことね」
「はい……」
それから俺は、上司にこっぴどく怒られ始末書を書かされた。相変わらず俺はやる気が出ない。それでも、またあの扉の番をしている。
「もうあんなことはこりごりだ。誰も来ないことを願うね……」
すると、向こうから誰かがやって来るのが見えた。俺は与えられたステッキを構えた。
「あーあ、めんどくさいな」
俺はまだまだ、この仕事をやめられそうにない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。