第4話 さあ、魔王城へ出発!(もしかして怒ってます?)☆
「おい!(怒)」
あれ? もしかして怒ってます?
「なんでしょう」
「ん、ドウいうことか(怒)」
「説明してもらおうじゃないか(怒・怒)」
「ん、するのだ!(怒・怒・怒)」
もしかしなくても、激怒メーター絶賛急上昇中。
「説明って、どっちの」
あの件だったら嫌だなあ。何て言ってとぼけよう。
「どっちって、何言ってんだ。魔王の招待の件に決まってるじゃねーか! 寝惚けてんのか(怒・怒・怒・怒)」
あ、それね。良かった。だったら……
「説明も何も、ただなんとなく」
「またかい!」
「ん、罠かもしれないのだ」
「それはないと思いますよ」
「なぜわかる」
「ん、なぜわかるのだ」
「いやー、何となくそうかな~って。ま、大丈夫でしょ。いざとなったら出たとこ勝負。今までもそうやって切り抜けてきたじゃないですか」
「「はあ?」」
実は、こっちも説明がけっこう面倒だ。
魔王が 絶対悪 かどうかからして怪しいと思うのだが、そこをどう説明しても「無駄、無駄、無駄ぁー」なのは、ついさっきも証明済みだもの。
またあの不毛な議論に戻るのだけはゴメンだ。ぶるぶるぶる。
ただ、罠ではないということは確実に言える。
だって、わざわざ食事に招待だなんてクサい小芝居をうつ理由がないもの。
私たちが魔王城に迫ってるのは先方は承知なわけで、ならば知らんふりして防御を固め、自分たちの有利な場所と状況に私たちを誘い込めば済む。
その場所と状況が、食卓や、そこへ向かう途中とは考えにくい。
猫一匹でさえ空間使いであることからして、様々な恐ろしい能力を持った配下が多数いると予想するべきだろう。
だとすれば、食事に招待なんて、いかにもこちらの警戒心を煽る状況を設定するだけ馬鹿馬鹿しい。もっとさりげない、かつ有効な襲撃の方法を考えるはずだ。
食事の席なら油断するだろうなんて甘い判断をするはずもないし、料理に毒や何かを仕込もうっていうのも、こちらが鑑定能力や状態異常の耐性や無効持ちだったりすれば無意味だ。
仮にも魔王なら、そんなに相手を見くびった愚かな手段は取らないはずだ。
結論。招待に応じようというのは、決して私が食い意地が張っているということではないのだ、と、ここは強く言っておきたい。ん、誰に? もちろん皆に。
(おい、いいのか)
いいよ。
(不安はないのか)
別にぃ。
そっちこそ、何だか不安げ。
古い知り合いなんでしょ。
騙し討ちとかする人じゃないって、わかってるんじゃないの?
(まあ、それはそうなのだが、ガイアが料理というのがちょっとな……)
そこですよ!
食事に招待とか、私の興味や行動を調べて、知った上でのお誘いでしょう?
魔王の料理かあ。きっと私以上に、失われた古代のレシピとか調べ上げて、見たこともない美味しい料理が出てくるんだよねえ。楽しみだなあ。
「では行きましょう。魔王の料理をご馳走になりましょう。しゅっぱーつ!」
「あ、おい! ちょっと待て……」
「ん……」
(うーむ……)
「てくてく。てくてく」
甘かった。
思ったよりも距離がある。
飛翔魔法で、すいー、楽勝ぉのつもりだったのだが、今から魔王とご対面って時にとんでもない、何が起こるかわからない、大事をとってMPの温存だっていう二人の慎重論に負けて、歩いて行くことになったのだ。
こんなんで体力を消耗してしまえば本末転倒だと思うんだが。
ていうか、MPって何だよ。ゲームかよ。魔力って言おうよ。
全くぅ、最近、二人とも古代情報に毒され過ぎじゃないか?
悲しいよ。こういうところから言葉って乱れていくんだよ。
(似たような愚痴を何千年も昔、旧文明時代の 頭の固い口うるさいジジイ がよく言っていたぞ)
うるさい! 遺跡の探検、しばらく休もうかなあ。でもそうするとレシピが手に入らないからなあ。
「てくてく。てくてく」
ああ、お腹空いたなあ。色々あって今日は朝ごはん食べてないもの。
「とぼとぼ。とぼとぼ」
「さっきから地味にうるさいぞ。黙って歩けないのか」
「歩けません。てくてく。とぼとぼ」
「疑問文じゃねーよ、感嘆文だ。少しは黙って歩いてみろって言ってんだ」
「ん。こういう時は放置。それより周り見る」
「ああ、そうだな。意外だ。ここには平和がある」
「ワタシもそう思う。笑顔が多い」
てくてく。てくてく。
ふふ、そうなのだよ。君たち、今頃気付いたかね。
ふはは。私は冷静な観察によって、とうの昔に認識していたのだ。
ふわーっはっはっは! 先刻の、あの丘の上からでさえ、地平線まで続く美しく整理された耕地、北の果ての寒冷地とは思えない豊かな実りが一望できたではないか。
そしてまた、初秋の日差しの下、額に汗して笑顔で働く者たちを見よ。
あれが邪悪な魔族か?
確かに微弱な魔力は感じ取れるが、家族や隣人皆で収穫を喜ぶその姿は、およそヒト族と変わらないではないか。
てくてく。てくてく。
「角、無いんだな。てっきり、みんな山羊みたいな角生やしてると思ってたんだが」
「ん。角のある魔族、いないことはないけど、少ない。それに、全く魔力のない者も結構いる。あれは多分、ヒト族」
「魔族とヒト族が共存してるのか?」
「そうみたい。魔力を抑えることはできても、全く隠してしまうことはできないから、わかる。あっちでもこっちでも、魔族とヒト族が協力して収穫してる」
「ねえねえ、お腹空かない?」(わ・た・し・談)
「何人か俺らに会釈してるみたいだぞ。あれはヒト族、それとも魔族か」
「両方。手を振ってる子供もいる。こっちからも振ってあげよう」
「聞いちゃいねー。おっ!! 左斜め前方30度のあの姿は、あ、あれは午前のおやつを食べているのではないかね。君たち、お願い。私にも少し食べさせてくれたまい……」
「うるさい、勇者だろう! この大事の前のたった1回の朝食抜きぐらい、少しは我慢しろ」
「するのだ」
「ぶーぶー。てくてく。とぼとぼ」
あーあ、勇者だろうが何だろうが、朝食抜きでこんなに歩かされるなんて、カンベンしてよぉー。
疲れたぁ!
それにしてもお腹空いたぁ!
ぶーぶー。
てくてく。
とぼとぼ……
(はぁ……)
とか何とかで、城門まで辿り着いたのは結局お昼近かった。
見上げてみると相当の高さのある石造りの立派な城壁だ。
日中だからか、長年の風格を感じさせる巨大な門扉は開け放ったままで、門守さんはといえば、ごく普通の、まんまヒト族に見える軽装の兵士だった。
招待状を見せると、「伺っております。どうぞどうぞ(おお、公務員(?)にしては腰が低いねえ)」なんて軽く通してくれたので、ちょっと拍子抜けした。
ここまで、ほぼ問題なし。
で、この「ほぼ」って言うのは、実はあまり思い出したくないんだけど、城門前の行列に並んでいる時に、定番通り雑魚たちに絡まれることがあったからだ。
たぶん私たちの、いかにも冒険者ですって格好が気に障ったんだろう。
もしかすると過去に冒険者にまつわるトラウマとかあったりして。
で、その雑魚っていうのがさぁ ――――