第14話 どっかーん!(アスラの創造魔法ついに発動)☆
私は両手を合わせ、そこに透明な思念の剣を作り上げた。
一気に魔力を送り込むと、刃の部分が魔王さんの光の球体にもまさる輝きを激しく発する。
聖剣なんて呼ばれる剣を装備してはいるけど、それではこれだけの魔力を纏うことは到底無理だ。
輝きだす前に粉々に砕けてしまう。
実は前に一度実験済みだ。
あーあ、あの剣は「バルムンク」とかいうカッコいい名前の貴重品だったんだけどなあ。
特に柄の部分の装飾が綺麗で気に入ってたのに。
(レプリカかもしれんがな)
ううっ! その辺は古代のロマンっていうことで、あまり深いツッコミは無しでお願いしたい。
なんて考えたのは思考加速による一瞬だから、誤解のないように。
決して、ゆっくりゆっくり、緩慢に戦っているわけではないのだよ。
(あまり言うと却って弁解くさく聞こえるぞ)
はい、失礼しました。
あら、すぐ目の前には今にも爆発して辺り一帯を飲み込みそうな巨大な熱と光の球体が……
で、私は両手で持った剣を一閃し、熱球体を消し去った。
(ほう、器用な真似が出来るようになったな)
うん、魔王さんが球に込めたエネルギーの性質が割と単純だったからね。
分析もすぐ終わったし、真逆の性質のエネルギーを作ることも簡単だった。
もっと複雑な構成だったら大変だったかも。
(わははは! ガイアは性格が単純なので、魔力の性質も単純という訳だな)
それでも余波で強い熱風が吹き、魔王さんの赤い髪と深紅のドレスの裾が揺れる。
難しい顔で目を細めてるぞ。埃とか何かの破片とか入ってなきゃいいけど。
「あの剣は、やはりルシフェル様」
とか、執事さんの声が聞こえるけど、今はどーでもいい。
「あのぉー、目はだいじょうぶですか?」
「あ、当たり前じゃ!」
あれ? 図星だったかな。
ま、それにはこれ以上は触れないでおいて
「何ともないならいいですけど、それはそうと、ここで提案があるんですが」
「提案だとお」
「はい。私が攻撃を一発、魔王さんがこれで二発で、ひとつ貸しってことで終わりにしませんか」
「たわけた事を! 何じゃ、貸しとか借りとか、知ったことか! 妾はまだ全く本気を出しておらぬ」
はぁ…… でもね、こっちもまだ全然本気は出していないんですけど。
ちょっとムカついてきたし。
では、さっきの魚料理の件が、まだ話の途中だったので
「じゃあ言いますけど、『カラシメンタイコ』って魚そのものじゃなくて、魚卵をトウガラシ液に漬けたものですよ」
「何い?」
「しかも、そのトウガラシ液は、ただの水じゃなくて、『カツオブシ』や『コンブ』とかいうものを使った『ダシ』にトウガラシ粉を混ぜて作るんです。それに、魚はマダラじゃなくてスケトウダラです」
「…………」
「もう一品の『シオカラ』は、イカをまるごと姿のまま使うものじゃなくて、皮を剝いて細く切ったイカの身と内臓を、あ、これを『ワタ』って言うらしいんですけど、それに適量の塩をまぶして混ぜて、まる一日ほど置いておけば出来上がり。
固くて食感が悪くなるから、『ゲソ』って呼ばれる部分、つまりイカの足は別の料理に使った方がいいですね。
あ、それから、『ユズ』か、無ければ他の柑橘類でもいいから、皮を細切りにして合わせても風味があって美味しいですよ」
「…………」
「で、これが最も重要なことなんですが、『メンタイコ』も『シオカラ』も炊いたコメに乗せて食べるものです」
「それで終わりか……」
「えっ?」
「今更知らぬわ! 既に終わった事をべらべらと!」
せっかく教えてあげてるのに、学習意欲に乏しいなあ。
そーいうことだから料理が上達しないんだよ。
魔王さんは目を伏せてほんの一瞬集中。
さっき以上に魔力が高まる。
まだやるのぉ? わからず屋さんだなあ。
くっそぉー、目の前の細面の顔が七面鳥に見えてきた。
で、私はとうとう言ってしまった。
「それから鳥料理!」
「まだ言うか!」
「私は鳥料理が嫌いだあ‼」
「何だと⁈」
「鶏だろうが七面鳥だろうが、真っ赤なトサカも顎の下に垂れた肉垂も、考えるだけで気持ち悪くなってくる。羽を毟った後のブツブツも醜悪だ。あんなもの、人間の食べる物じゃない!!!」
(お前の好き嫌いを言っても……)
「で、肉料理は」
「むん! はあぁっ!」
やっぱり聞いちゃいねー。
魔王さん、いっそう逆上。
地の底の遠くから重い振動が伝わってきて、それが次第に地面に迫ってくる。
ただの地震ではない。足元が少しずつ熱を持ってくるのを感じる。
これは
来ましたねえ。
さっきは魔力のエネルギー弾を無効化されたから、今度は自然の力に訴えよう、それも大地の力を暴発させようっていうわけか。
そこまでやるかあ?
よし、だったら私だって……
魔王さんの顔に凄艶な微笑が浮かぶと同時に、「どーん」と凄みのある重低音が地中から轟き、空気もざわめく。
辺り一帯が激しく揺れ、まともに立っているのも難しい。
床に何か所も亀裂が入り、それが更に大きく割れて蒸気が噴き出す。
わざわざ透視で確認しなくってもわかる。
マグマがどんどん上昇してきて、今にも一気に噴出しそうだ。
私は空中に僅かに浮遊すると、右手の手のひらを掲げた。
創造の魔法をちょっと真剣に発動。
異空間から取り入れた膨大なエネルギーを自己の魔力で誘導し、望む物質に変換するのだ。
極地から氷山を強制転移させる方法もあるが、あれは無生物なら正確な位置か、生物ならその意識や生命活動が感知できない限り不可能。
みんなの前で気が進まないけど,この際はやっぱりこれしかない。
そして頭上高くの空間が大きく揺らぎ、無数の巨大な氷塊が生まれる。
創造完了。
こいつらを噴火にぶつけてやる。
(おい! 何をしようとしているのだ? まさか、このあまたの氷山を大地の業火に)
プラスにはマイナス。
熱に対抗するには、やっぱり冷気でしょ。
単純に考えて、この手が一番。
(や、やめろ! そんな事をすれば)
「これで最期じゃ! 滅びよ!」
「それ行け。『どっかーん』!」
私が手を振り下ろすと同時に、大気との甲高い擦過音と共に降り注ぐように急降下した氷山の皆さんが、地割れから噴出しかかった灼熱の溶岩を直撃して
どっか―――——ん!!!
どっか――――ん!!!
どっかーん!!
どっかーん!!
どっかーん!
(以下略)
………… ごめんなさい。
水蒸気爆発は予想してませんでした。
しかもこんな大規模の。
やってしまった。
連続の衝撃と反響音。
とんでもない熱と爆風が去ると、目の前には……
何も無かった。
魔王城の要塞然とした建物全体がきれいさっぱり消失して、瓦礫も残らず、ここら一帯が大きなクレーターになってしまっていた。
「…………」
良かった。魔王さんは無事だ。
あっちの3人と一匹も。
「ぷはあ! 何だ、この衝撃と熱は。さすがの吾輩も今回は死ぬかと思ったのである。見ろ。爆風がまき上げた埃のせいで、自慢の漆黒の毛並みが灰色になってしまったではないか」
「この位の被害で済んだのなら上出来の部類ではありませんか。わたくしが思うに、幸い、お二人ともまだ全然手加減していらっしゃる」
「「え⁈」」
「当たり前です。本当にその気になられたなら、我々如きの防御障壁では、こんな近距離で耐えられる筈がない」
「これで本気じゃないって、ガチに戦えばどうなるんすか?」
「城どころではない、軽く街ごと消滅です」
「そんな力、アスラはワタシたちの前では見せたことがない」
「必要がなかったからです。そこまでの力で戦うべき相手が居なかっただけの事。しかし、これからは違う」
「吾輩、何だか楽しみになってきたのである」
「そうです。わたくしも」
勝手に盛り上がってるんじゃない、バカ!
(馬鹿はお前だ!)
えーっ、なんで私が。
馬鹿って言う人がバカなんだぞ。
(幼児のようなことを言うな! それに最初にバカと口にしたのはお前ではないか)
うー、でもそれは、あの人たちが無責任に「楽しみ」とか盛り上がってるからで。
(無責任はお前だ。何だ、この有様は)
でも、さっきはエネルギー弾を真逆のエネルギーで相殺できたのに。
(魔力の相殺とは違う。大量の高熱のマグマの上に巨大な氷山が落下すれば、地中に突っ込んだ部分が瞬時に蒸発し、密閉されたそれが水蒸気爆発を起こすのは当たり前だ!)
だって……
(しかもあれだけの無数の氷山が隕石のように降って来れば、その衝撃たるや、落下地点にある全てを崩壊させ、残るのはクレーターばかり。そんな事も予想できなかったのか)
だって魔王さんが噴火を……
(氷山など落とさずとも、マグマをごっそりそのまま異空間に転移させてしまえば済んだ事ではないか。そうすれば大穴は空くとしても、ここまでの危険はなかったであろう。くどくど、くどくど)
うーん、反論できないのが辛い。
よし!
私は意を決して言った。
「ガイアさん、ごめんなさい!」
「「「「え―――っ‼」」」」