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タイムリミット 15秒。

 覚悟にも種類はある。

 苦しい死から生還するために、より苦しい世界を体験する。

 それも覚悟。


 男は自分を真空の世界に誘った。


 音は通らないためわからないが、その苦しみで男は叫んでいるのだろう。

 強く、強く眼を閉じて、大きく口を開いていた。

 真空の世界には空気がない。

 男の身体を覆う炎への酸素の供給が途絶え、完全に消えた。

 男の覚悟が僕たちの覚悟よりも少し強かったのかもしれない。


「すぅうううううううう」

 男が大きく息を吸い込み、こぶしを震わせた。

 僕とアトラクは少しずつ後ずさりする。

「やはり『システム』が相手になると違うな」

 アトラクが言う。

「なぁに、格上あいてに善戦出来たなら、やるだけやったってもんだ」

 僕は胸元を締め付けられる感覚に陥った。


「てめぇら、ぶっ殺してやらぁ!!」

 男は、目玉が飛び出る程の形相で素早く、こちらに手を向けた。

 僕とアトラクはお互いに手を掴もうとしたが、もう遅い。


 僕は、突風で男の方に飛ばされる。

 そして、転がった先は男の足元だった。


 真空が来る。

 そう思ったが、すぐに真空になると言うよりは、少しづつ周りの空気が減圧されていくことがわかった。

 そこにあるのは、死の恐怖。

 暗い部屋に閉じ込められた時のような、今すぐに逃げ出したくなる感覚に歯を食いしばる。


 タイムリミットは15秒。

 15秒で血中の酸素が無くなり、脳に酸素が送られなくなる。

 15秒で血中の酸素が無くなり、脳に酸素が送られなくなる。

 そこから二分以内に助けられなければ命はない。

 今、救助が来る確率は0に等しいだろう。


 息が苦しくなるのを感じた瞬間に、口を大きく開いた。

 こんな状況で肺の心配をしている場合じゃないが、諦めたくなかった。

 本来なら、ここでは目を閉じる所だが、僕は片目を開ける。

 ヒント……ヒントはないか?

 男の胸元のネックレスに目が行った。

 このネックレスが男の魔道具なのではないか?

 僕は悟った。

 どうにかして、このネックレスを破壊できれば能力は解除されるはずだ。

 幸いなことに、男はアトラクを警戒してこちらを見ていない。


 考えろ、膝に足がついて動けないこの状況で、この男を倒す手段を

 舌の上で唾液が蒸発するのを感じた。

 気化熱というのだろうか、蒸発した唾液が熱を奪い、舌が凍るように冷たくなる。

 この前、冷たい経験をした。

 ここに来る途中に紫炎から頬にジュースを当てられたあの感覚……

 僕は、ポーチからジュースの瓶とコルクを取り出した。

 もう、この空間が真空になったのかわからない。

 しかし、まだ減圧中ならこの手が使える。


 僕は瓶にコルクを詰め、男の胸元へ向けた。

 本当に小さな、「ポン」という音が鳴った気がした。

 瓶から発射されたコルクは、男の胸元のネックレスに当たり、それを砕いた。


 右目は乾燥の限界を向かえ、閉じる。

 僕はやることはやった。


「シュゥウウウウウウウウウウ」っと音が聞こえ始めた。

 苦しかった呼吸が、一気に楽になった。

 目を開くと、男が豆鉄砲を食らったかのような顔でこちらを見ていた。

 どうやら、男の魔道具を破壊するのに成功したらしい。


 僕は空き瓶を見つめた。

 紫炎には、いつも助けられていた。

 最初にあったときは、炎の男から助けられ、車輪の男から助けられ、鉛の弾からも守ってくれた。

 そして、この場所に居ないはずなのに、紫炎は僕を助けてくれた。


 急に炎の音が背後で鳴りだし、振り向くと、紫色の炎が地面で燃えていた。

「紫炎が、杖から落したものが、燃えている? 」


「くっそ、放せ!!」

 気付くと男は砂鉄で出来た手錠で自由を奪われていた。

「てめぇら、マジでぶっ殺してやる」

「まじでうるさいな」

「んんーーーーーーーーッ!!」

 アトラクは男の口に砂鉄を詰め込んだ。


「医務室に行こう、紫炎が心配だ」

 僕は立ち上がり、動きたくないと悲鳴を上げる脚に喝を入れた。


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