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最終話 ハッピーエンド

 エドワード公爵家主導で起きた反乱により王族ハーデン家は滅びた。

 長年続いたハーデン家による王政はエドワード家に移り、お義父様――オルス・エドワード様が代わって新国王となった。


 旧国王と旧王太子(フェリクス王子)は斬首刑に処され、残る旧王族は国外追放となった。

 因みに、旧国王と旧王太子(フェリクス王子)の斬首刑はひとえに新国王ことお義父様の私怨によるところが強いとの事。(リズ曰く)


 私はというと、あの後ルイスの操る迎えの馬車に半ば強引に乗せられ、子供みたいに泣き喚きながらヴィルドレット様の背中を馬車の中から見送った。

 

 そして、今――


「あっはっはっは!! そうか、そういう事だったのか!!いやはや、『前世』だの『生まれ変わり』だの、そんな小説のような事が現実にあったとは驚きだな! なぁ、ルイス」


「左様でございますね、陛下」


「と、言う事はアレもそういう事だったのか?ヴィルドレット。お前が熱心に作ってた魔女の彫像はつまり、好きな女の彫像を作ってたって事か? とんだど変態だな、お前」


「父上――いや、陛下! ハンナの前でそのような揶揄いはよして下さい」


 私の隣りでは王太子となったヴィルドレット様が慌てて私の方を振り向いて弁解を始める。


「ハンナ!!あの彫像はだな……えーと……」


 でも、良い言い訳が思い付かなかったらしい。


「死んでもう居ない想い人の事を彫像に見立る……なるほど、確かにど変態ですね」


 拳を手の平で叩き、お義父様の言う『ど変態』に私は納得の表情をする。


「殿下の魔女の彫像は確か、表情の違う別バージョンがあと、確か5体程でしたかね? 倉庫の方にあったかと」


「――ルイス!!」


 ……え? マジ? それはさすがに引く……因みに飾ってた私の彫像の表情は悪戯笑顔を浮かべているやつだった。


 ルイスの追撃にヴィルドレット様の顔は真っ赤に染まり、笑顔を引き攣らせる私には、弁解しようにも、あたふたと慌てるだけで、やっぱり良い言い訳が思い付かない様子。

 私に嫌われまいと必死だ。


 こんな感じで、ヴィルドレット様は最初の頃はとはまるで別人だ。私の事を心から愛してくれているのが分かる。


 今夜はヴィルドレット様と寝室を共にする約束を交わしている。私が姿を眩ませてから初めての夫婦の夜だ。




 ◎




「よし! 頑張れ私」


 寝台に腰掛け、目を閉じ深呼吸。


 そして頭の中で今の私を巡らせる。


 ――心の準備、多分オッケー。次、

 ――お風呂、オッケー。次、

 ――下着……オッケー。


 通称『桃』――可愛らしい花柄レースの桃色の下着(これ)は、結婚を夢見てた頃に、いつの日か、今私は幸せだと、胸を張って言えるようになった時に初めて身に着けようと心に決めて買った特別な一着。


 そう。これには『私は今幸せです』というヴィルドレット様へ向けた私なりのメッセージが込められている。


 我ながら重い愛だねぇ……。


 コンコン


 部屋の扉がノックされ、私は緊張しながらドアノブを引くと、そこには私以上に緊張した顔のヴィルドレット様が立っていた。


「……は、入ってもいいか?」


 ガチガチに固まり、視線は私を避けるようにキョロキョロ落ち着かない様子。


 私はコクリと頷き、ヴィルドレット様の手を取り部屋の中へと引き入れた。




 ◎




 あれから10年が過ぎた。


 国政がエドワード家に移ってからというもの、国は驚くほどの成長を遂げ、国民の暮らしも豊かになった。

 故に王家へ対する国民からの人気度はかなり高い。


 特にヴィルドレット様は相変わらずの人気ぶりだ。だけれど、そんなヴィルドレット様よりも私に対する人気は更に高く……ファンクラブまで出来てしまう程。


 私ももう30歳……さすがにファンクラブはやめてほしいものだ。


 そして、私とヴィルドレット様との間には2人の子供が産まれ、私は母として王太子妃として多忙だがとても幸せな毎日を送っている。


 でも、幾ら忙しい日々の中でも1年に1回、私とヴィルドレット様は揃って2日ほどの休暇を取り、2人だけでとある場所へと出掛ける。




 ◎




 人里離れたとある山奥――陽差しを遮るほどの鬱蒼とした森の中に佇む小さな一軒家。


「ねぇ。クロ」


「何だ?」


 私はここへ来た時だけはヴィルドレット様の事を『クロ』と呼ぶ。


「私、30にしては大人らしさが足りないと思うの。この前だってリズに、妃殿下は幾つになっても可愛らしいですね、なんて言われちゃって……」


「良い事じゃないか」


「うーん。髪、短くショートカットにしてみたらどうかな?少しは大人っぽくならないかな?」


「あー、それね。逆効果になるからやめておいた方がいいと思うぞ? まぁ、短いのもそれはそれで悪くはなかったがな」


「あれ?私、短くした事あったっけ?」


「忘れたのか?君が魔女だった頃、大人っぽくなりたいって言って短く切った事あっただろ?自分では大人っぽくなったつもりだったらしいけど、逆に幼くなってた。おまけに自分で切るもんだから後ろの毛先のバランスは不揃いでめちゃくちゃだった」


「え? そんな感想だったの!?」


「まぁな。 あの時の俺は何も言えなかったからな。そう思ってた。でも、俺はまた見たい気もするな。君のあの不揃いなショートカット」


「うーん、仕方ないな。じゃあ、クロの希望に応えてあげる。でも今度は美容師さんに切ってもらうから綺麗でお洒落なショートカットだから」


 こうして、この家で2人でいると懐しい気持ちになる。あの頃は私が一方的に喋るだけだったけれど、今はこうして会話が出来る。

 

 そう、あの時の私は辛かった。孤独感に押し潰されそうだった。

 クロはそんな私の気持ちを、もしかしたら知っていたのかもしれない。

 『人』に愛されたいと思っていた私の事をあの頃のクロはどんな気持ちで見ていたのだろう。


「ねぇクロ?」


「何だ?」


「ありがとうね、私を助けてくれて」


「あぁ」



 ――完

ご愛読ありがとうございました。


もし、この物語が面白かったと思って頂けたならば、星やブックマークで評価して頂ければ、今後の創作活動の励みになります。

よろしくお願いします。


また、今日か明日『女手一つで育て上げた娘が嫁に行き、あとはゆっくり余生を過ごそうと思っていたら、年下の公爵様に見初められました」という短編を投稿すします。そちらも是非よろしくお願いします。


本作は私にとっての初の10万文字到達作品でした。伸びようが呼ばまいが思い入れのある作品です。

最後となりますが、今後とも毒島かすみをよろしくお願いします。

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