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第二十九話 反乱の決意(ヴィルドレット視点)

 『破滅の魔女、公開処刑』が公示されてから一夜明けた。執行は今日の夕刻。

 にわかには信じ難い発表に世論の反応も様々だ。人気低迷をひた走る王家の国民に対するパフォーマンスと言う者もいれば、発表内容を鵜呑みにする者もいる。いずれにしても国民、いや、世界からのこの公開処刑に対する関心度は高い。


 俺はというと、説得力のある情報が一つも無い事からほとんどこの話はデタラメだと思っている。しかし、心境は穏やかではない。

 当たり前だ、どんなに信憑性の薄い話でも『魔女の蘇り』と『魔女の処刑』が同時に取り沙汰されているのだ。


 魔女の命が天秤に掛けられている以上、真相を確かめる必要があるが、信憑性の薄いそれを真に受けている暇は今の俺に無い。


 何よりの最優先はそう。ハンナの捜索だ。

 着の身着のまま行方不明になった妻を放って嘘か誠か分からない話に時間を費やすわけにはいかないのだ。

 今、スカーレット家とエドワード家はハンナの捜索に全力を上げている。そんな時に夫である俺が「破滅の魔女を救出したい」などと言えるはずがない。


 でも、もしその話が万が一本当だとしたら……どうしてもそう思わずにはいられない。


「父上、破滅の魔女の公開処刑の事ですが――」


「それがどうした?」


 顔色を窺いながら切り出したその話に父の目がこちらをジロリと睨みつけた。更に父のこめかみ付近には膨らんだ血管が浮かび上がる。

 夫である俺がハンナに全く関係ない話題を振った事に心底苛立っているようだ。


「……お前、妻が姿を消したというのに随分と余裕があるようだな。ハンナのような若い娘が一人で行方が分からない。この事がどうゆう事か分かってて、そんなくだらない話に関心を示しているならば、お前は万死に値するぞ」


「い、いえ。申し訳有りません」


「そんな話にうつつを抜かせている暇があるなら、少しでもハンナの捜索に頭を働かせろ!」


 父の怒鳴り声が響いた丁度その時、ハンナの行方を調べていたルイスが慌てた様子でやって来た。


「旦那様、お坊ちゃま!!」


「ルイス! ハンナの行方が分かったか!?」


 ルイスは小さく頷いた。しかし、その青ざめた表情から読み取るに決して良い知らせじゃない。頭をよぎるのは、


 拉致、監禁、強姦、通り魔、魔獣被害、事故諸々……


 悪いイメージが次から次に浮かぶ。


 俺はルイスの両肩を揺らしながら続きを煽る。


「ルイス! ハンナは何処にいる! 早く言え!」


「王城です……」


「「……は?」」


 ルイスの答えに父と俺は唖然。


「どういう事なんだ!?」


 父が続きを促す。


「情報屋にて買った情報によると、ハンナお嬢様の正体はあの破滅の魔女という事らしく……」


「それで、捕えたと?」


 俺の問いにルイスが頷いた。


 ――ダンッ!!


「ふざけるな!!」


 父の怒鳴り声と机を拳で叩いた音が響く。


 魔女が蘇ったという事はやはりデタラメだったようだが、その代わり、何故かハンナが魔女として置き換えられているらしい。

 

「一体、何故ハンナが魔女という話になっているんだ!?」


「そこまでは、分かりません。ただ、お嬢様に魔女の疑いを掛けたのは聖女アリスとの事です」


 なるほど、そういう事か。

 ルイスの今の追加情報でようやく点と点が線で繋がった。


 おそらくはこういう事だろう。

 聖女アリスは俺への求婚が特にしつこい人物だった。当然ハンナに対して聖女アリスが向ける敵対心は大きいに違いない。

 更に、聖女アリスのプライドの高さと残虐性は常軌を逸している。

 つまりは、聖女アリスによる謀略という事だ。

 自分の邪魔になる人物は徹底的に排除するのがアリス流。そして、その手段に死刑を用いるのはいつもの事。 

 シンシアが処刑された際の一連の流れも今回と同じパターンだった。


 また、聖女アリスは大聖女イリアスの生まれ変わりという説もあるらしい。もし、それが本当ならばシンシアの仇であって、同時に魔女の仇でもあり、そして今、ハンナの命も狙われている。


 これ以上あの女を生かせてはおけない。


「父上」


 声掛けに視線だけで反応する父に俺は目で訴えかける。そして、見交わした後に無言のまま頷き合う。


「「――――」」


 今、俺たち父子は視線だけで重大な決断を下した。

 

 視線を外し、ルイスに振り向いた父が声を上げた。


「ルイス!現時点での反乱軍の数は!?」


「約一万といったところでしょうか」


「そうか」


 ハンナを助け出す為に今から根回しや考えを巡らせていては死刑執行の夕刻に間に合わない。

 故に、俺たち父子は既に水面下で動いていた国家反乱を今すぐ引き起こし、国家転覆に動きだすしかハンナを助け出す方法は無いと結論付けたわけだ。


 とはいえ、それを成し遂げられるのに一万の軍勢では正直、心許ない。


 曇る表情の俺に父が言う。


「腹を括れ、ヴィルドレット。大丈夫だ。何せこっちには天下無双の剣聖がいる。幾ら軍勢で劣ってもお前の武がそれを補ってくれるはずだ。そうだろう?」


 逆にあっちには最強魔術師の聖女がいて、更には王立魔術団もいるというのにまったく父は簡単に言ってくれる。

 しかし、ハンナの命が脅かされている以上、父の言う通り、夫の俺は腹を括るしかない。

 この戦いは間違いなく命懸けになる。


「えぇ。もちろんです。久しぶりに本気で暴れらる事に今からもうワクワクしています」


 死に対しての恐ろしさはない。あるのは妻を必ず助けるという決意と、聖女アリスへ対する強烈な殺意。それらを胸に秘めながら俺は戦の準備に取り掛かった。


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