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第二十八話 相まみえるハンナとアリス(冒頭アリス視点)

 ――!!!


「この魔力は……再びのチャンス到来ね」


 覚えのある魔力を感じ取った私は興奮から心が躍った。



 私はこの世界の全ての魔力の所在を感知する事が出来る。これは前世の私こと大聖女イリアスの頃にシャルナちゃんの居所を探る際に私が編み出した感知魔法によるもの。

 そして、再び尻尾を見せてくれた私の『踏み台』。


 ――復活した『破滅の魔女』を再びこの私が討伐して世界から称賛を得る――


 まさにこれこそが私が思い描く最高のシナリオだ。しかし、ここで一つ大きな問題点が浮かび上がる。


「果たして今の私でシャルナちゃんに勝てるかしら……」


 私は今や『魔法使い』では無い。

 女神様の加護で特別に人間の体で魔法が操れたのは大聖女イリアスの時代だけ。アリスとして生まれ変わった時点で加護の恩恵は途切れている。

 いくら『聖女』の称号を持つ世界最強の『魔術師』の私でも『魔法使い』を相手には流石に分が悪い。


 かといってこのチャンスを逃す手はない。


 考えてみれば前世のような栄光を得るのに命賭けの要素が含むのは致し方ない事だ。

 それに、今の私は世界最強の魔術団と謳われる『王立魔術団』を意のままに動かせる立場にいる。


「強敵を仕留めてこその栄光よね。どういうわけか知らないけど昔のような強大な魔力でもないみたいだし」


 勝算は充分。

 手柄を誰かに横取られる前に私個人で動かせるだけの戦力を早急に集め、私は『破滅の魔女』の討伐に赴くのだった。


 ――待っててね、シャルナちゃん。また、私が殺してあげるから。そして、あなたの生首で私は再び成り上がるから。


 



 ◎





「……森の精霊さん達、またちょっとだけ力を分けてくれない?」


 魔法の杖を向けた先に火が灯り、悴んだ手の平を暖炉へ差し出す。

 

「ふぅ。あったか〜い」


 エドワード家やスカーレット家が所在する平地とは違い山奥のこの場所の朝夕はかなり冷え込む。私は朝の日課である食料調達を終えて丁度今帰ってきたところだ。


 ここへ来て3日が経ち、私は早くも自給自足の勘を取り戻しつつあった。


「なんせ、今までがお嬢様育ちだったからね。生活の落差に当分は苦労すると思ってたけど、案外そうでもなかったみたい。400年経っても、生まれ変わっても、経験ってちゃんと生きるものなのね」

 

 悴んだ手に感覚が戻ったところで「さてと――」と、一声入れてから台所へと向かう。

 今日獲れた食材は近くの川で釣った魚3匹だ。そして調理方法はシンプルに塩焼きだ。


「魚は塩焼き!これに限るよね!クロ――」


 壁際の一番目立つ位置に設けられた台座の上――私は黒塗りの箱に目を向ける。


 クロの遺骨が入った箱だ。再生魔法を施した時にこの箱も当時の形に戻ってくれたようだけど、当然、命までは戻らない。クロは骨のままだ。


 私は焼き上がった魚一匹を皿に乗せてクロの入った箱の前に置いた。


 そして私もその近くに腰を落とし、焼魚にかぶりつく。


「ん〜! 美味しいね、クロ」


 クロが魚を貪るようにして食べる姿を思い出しながら私は小さな幸せを噛み締める。

 寂しくないと言えばそれは嘘になるけど今の私にはクロの思い出だけで充分だ。

 私が捨てた居場所、特に私を無償の愛で包み込んでくれた父や母、それから兄や妹。私の家族に対する謝罪の念は大きい。

 突然姿を眩ませ、きっと今頃大騒ぎしているだろう。


「とんだ親不孝者ね、私って……」


 いや、考えるのはやめよう。後から後悔の念に駆られる事すらも覚悟の上で選んだ道だ。今更後ろ向きにはならない。邪念を振り払うように首を振り、強い覚悟を新たに結び直す。


 ――コンコン


 突然鳴り響く扉をノックする音。


 両肩が竦んで、あの時の記憶が蘇る。




 

 ◎





 400年前、私が死んだあの日――




 ――コンコン


 誰かが扉をノックする音が鳴り響く。


 あり得ない。

 こんな山奥の、ましてや魔女と恐れられる私を誰かが訪れてくる事など、そんな事今まで一度も無かった。


「そ、遭難者……かな……」


 ここは山岳地帯だ。広大な森林地帯は意図的に目印を付けながらでないと容易に遭難するだろう。


 道に迷って彷徨った末に、たまたまこの家を見つけて助けを求めてきのかもしれない。


 私はクロの遺骨が入った黒箱に目をやってから軽く頷き、恐る恐る扉に近づくと固唾を飲み込み扉越しに声を掛けてみた。


「……ど、ど、どちら様でしょうか?」


「――――」


 扉の向こうからの返事は無い。しかし明らかに感じる人の気配。

 もしかしたら、声が出せないほどに疲弊しているのかもしれない。

 私はゆっくりと扉を開けた。


 すると私の予想とは裏腹に、そこには長く美しい桃色髪が印象的な美女が立っていた。白い衣を身に纏い神々しいほどのオーラを放つ目の前の女性に私は思わず一歩後退ってしまう。


 そんな私の反応に桃色髪の女性はニコっ笑みを浮かべ口を開いた。


「初めましてシャルナちゃん。私はイリアスと申します。あなたを殺しに来たました」


 その後、私はイリアスと名乗ったこの女に魔法戦で敗れ、殺された。




 


 ◎





 そして、あの時と同じ様に鳴り響く扉を叩く音。嫌な予感しかしない。


 ――コンコン……


 まるで死に誘うかのような音に体が強張る。


 ――コンコン……


 これで3回目だ。恐い。しかし、今回こそ遭難者か?という、そんな考えも浮かぶ。

 

 考えれば、大聖女イリアスはもういない。そして、破滅の魔女もいない。

 今の私に命を狙われる要因は無い。私はガクガクと震える足に力を入れて立ち上がると恐る恐る扉へと向かう。


「……はい。どちら様でしょうか?」


 扉は開けずに扉越しに声を掛けたのだが、


「久しぶりね。魔女さん」


 あちら側から扉を開かれてしまった。黄金の髪色に白い衣を纏った美女。


「――あ、あなたは!!」


 私の顔を見た彼女はその美貌を悍ましい笑みに歪めた。


「……そう。そういう事だったの。まさか、破滅の魔女さんも人間に転生していたのね。私と同じように」


 目の前の相手は聖女アリス。しかし、私は今のこの一言に全てを察した。


「ま、まさか――」


「そう。その通りよシャルナちゃん。蘇った『破滅の魔女』を殺しに来ました」


「――っ!!」


 一歩、二歩と後退りする私に悍ましい笑みのまま一歩、二歩と迫ってくる聖女アリス。


「でも、困ったわね……『異色瞳(オッドアイ)』の無いその首を持ち帰ったところで何にもならない」


「な、何を言ってるの?」


「もう全てを察しているんじゃなくて? 私が、破滅の魔女討伐を成し遂げた英雄、大聖女イリアス。そして、その証明に役立ったのが魔女の証『異色瞳(オッドアイ)』。あなたの首を大衆の前に掲げた時に浴びた大喝采は今でも忘れられないわ」


「今の私は魔女じゃない。『異色瞳(オッドアイ)』も持ってない。私をどうするつもりなの?」


「そうなのよねぇ……確かに、私にとって誤算だわ。でもね、ハンナさん――」


 初めて今の私の名を口にした聖女アリス。悍ましい笑みに拍車が掛かり、憎しみが色付く。


「そんな小さな誤算なんかより、ヴィルドレット様の奥様の正体が破滅の魔女だったという嬉しい大誤算の方が私にとっては重要なの……あぁ、これでヴィルドレット様は私のものね……」


 アリスの今の顔に聖女らしさは微塵も無い。あるのは愛憎に狂った悪魔の様な笑顔。今の彼女にとって、エドワード家で暮らしているはずの私が何故ここにいるのか、などという疑問はもはやどうでもいいのだろう。


「……ハンナ・スカーレット……あなたがずっと憎かった……私の、ヴィルドレット様の隣りで幸せそうに笑うあなたが……今、ここであなたを殺すのはもったい無いわ。今度は大衆の面前で生首になりなさい。 捕えて!!」


 突然、黒い衣を纏った複数の人達が家の中に押し入り、あっという間に私は囲まれた。この状況を打開出来る程、今の私に力は無い。

 私は無抵抗のまま捕えられた。


「一応、魔力封じの魔具を付けておきなさい」

 

「はっ!」


 四肢の自由を奪われた私にアリスが笑いながら言った。


「愛する旦那様に見守られながら死ねる事に感謝してね」

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