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第二十三話 デートプラン(ヴィルドレット視点)

 うん。 結局、一睡も出来なかった。


『今度ヴィルドレット様が休みの日に何処かへ2人で出掛けませんか?』


 そんな誘いをハンナから受け、今日は2人で領内の繁華街へ出掛ける事になっている。


 何と言うか、屋敷外で2人きりという事に、ものすごく緊張を覚えるが、それにしても……


「――へっくしょんっ!! ゔぅ〜。さっきからくしゃみが止まらん」


 ティッシュで鼻をかみ、それを丸めて2メートル程離れた所にあるゴミ箱へ、ポイっと――


「よし!!」


 どうでもいい小さな達成感に小さくガッツポーズを決めると、ソファに腰掛け、目を閉じる。


「さて、と……」


 そして、頭の中で今日のハンナとのデートプランを巡らせる。


「……ダメだ。 やっぱり、全く分からない」


 何事にも計画は必須だ。 『街へ出掛ける』と、一言に言ってもそれで、どうする?

 一体何処へ連れて行けばいい? どのように導けば彼女は喜んでくれるだろうか?


 それを昨晩からずーっと考えているが、名案には至らず朝を迎えてしまった。 

 魔獣討伐の作戦案は幾らでも容易に思いつくのだが、それがデートプランとなると自慢の発案力も全く歯が立たない。


 そもそも、俺はまだハンナの事をよく知らない。まずはターゲットの事を知らなければ立つ案も立たない。

 そう考えに至った俺は部屋を出た。


 向かった先は、ハンナの専属侍女であるリズのもと。


「お嬢様が喜ぶ事ですか?」


「あぁ。 今日、ハンナと繁華街の方まで出掛ける事になっていてだな……」


 リズはニヤっとハンナみたいな悪戯な笑みを浮かべる。


「デートですかぁ?」


「ま、まぁ、そんなところだ」


「それならば、お嬢様は食べる事が好きですので、昼食は街のレストランに行かれると良いでしょう。お嬢様はエドワード領の中心街へまだ行かれた事が無いと仰っておりましたので、お嬢様にとっても目新しくて良いと思いますよ?」


 確かに初顔合わせの時にも食べる事が好きだと言っていた事を思い出す。それと、この前の夜会でのハンナの食べっぷりも。

 確かにと、リズの提案に素直に納得する。


「そうか、わかった。ではハンナの好物については分かるか?」


 リズは自信あり気に人差し指を立てて言った。


「えぇ。 お嬢様の好物は無論、ぷりんです!」


 ……ハンナの好物はぷりんなのか。それは初耳だな。

 そういえば最近、ぷりん専門店が繁華街に出来たと近衛騎士団の俺の部下エドウィンが言っていた。


 美味しいと評判で、恋人と一緒に行った時はすごく喜んでくれたとか。


 となると、レストランで食事した後にぷりん専門店の流れか……


 ぷりん専門店とレストランとでは距離的にも近いし俺としても都合が良い。

 何せ、平静を保ちつつ自然な流れでぷりん専門店へ入店したいからな。


「よし。 分かった。ありがとう」


 展望が見えて来たところで、リズのもとを後にして、部屋へと戻り、自らの支度を済ませる。


 俺にとっての初デート。ハンナは今日一日を楽しでくれるだろうか?


 そんな期待と不安を胸に、あとはハンナの淑女教育が終わるのを待つだけだ。

 




 ◎





「さぁ、お嬢様出来ましたよ」


「わぁ! すっごく素敵!ありがとうエリス!」


 エリスによるヘアアレンジの施しが終わり、私は鏡に映る自分に満足の表情を浮かべた。


 可愛いらしい三つ編みが両サイドに走り、どちらかといえば長めの部類に入る私の髪は下ろさずにアップスタイルにされ、さらにその集められた髪を緩めに結うように束ねられているので、ふんわり感があってとても可愛いらしい。

 全体的にふんわりした印象で可愛いのだが、アップスタイルにしている事で大人っぽさも同時に演出されている。

 あまり好きでは無かった自分の茶色い髪色もこう見ると落ち着いた感じで、大人っぽさが際立っているようにも感じる。


「やはり、素材が良いと映えますね」


「そんな事ない!エリスの腕が良いのよ! 初めて自分の髪色が素敵だと感じたわ!」


 更にエリスはクローゼットから白いワンピースを手に取った。ノースリーブで、スカートの丈も心なしか短いような気がする。


「今日のお嬢様にはこれがよろしいかと」


 魔女だった前世の頃もそうだったが、日頃からあまり肌を露出した服装をしない為、思わず二の足を踏む。


「……わ、私に似合うかな?」


「もちろんですよ!!」


 不安を口にする私へ自信たっぷりのエリスが力強く断言し私を見つめる。私はエリスに押し切られる形で渋々頷いた。




 いざ、エリスに薦められたワンピースを身に纏い、姿鏡の前に立つと、露出した肌と純白のワンピースが相性良く清楚さと爽やかさを私に付与していて、心配していたスカート丈は膝が見える程度の位置でほっと胸を撫でおろす。それでも普段着ているスカート丈よりは短く、膝がスースーする感覚に違和感を覚える。


 ともあれ、鏡に映る自分に思いのほか似合っていて思わず顔が綻ぶ。そしてエリスは得意げな表情を浮かべる。


「うん。我ながら見事なコーディネートですね」


 エリスの見立てに感服した私は鏡に映る自分自身を見つめながら、そのままの心を口にする。


「……そうね。まるで新しい自分に出会ったみたいだわ」


 そう言いながら鏡の前で右に左に体を捻る。


「お嬢様のこのお姿を目にしたお坊ちゃまの顔が目に浮かびますわ」


 そう言ったエリスはまるで自分の娘を見るような目で鏡越しに私を見つめ、顔を綻ばせた。

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