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第二十話 400年前の真相(アリス視点)

 私の前世は栄光に満ち溢れたとても素晴らしい人生だった。

 人々は私の事を大聖女と呼び、私の成し遂げた偉業を褒め称え、平伏した。


 私の欲しいものは全て手に入った。富や名声、そして、良い男。


 そんな私の栄光の前世だけど、それは如何にしてもたらされたと思う?


 うん。そう――破滅の魔女こと、シャルナちゃん! あの子が私の踏み台になってくれたから!


 お陰で私の人生は誰よりも幸せなものとなった。

 

 あ。 そういえば、『破滅の魔女』ってそもそも誰が最初に言ったか知ってる?


 そう。 私。

 私がシャルナの存在を世に広めた張本人。この世界を滅ぼそうとしている魔女だとね。


 そういう私も元はシャルナと同じ女神様から使命を賜りし使徒だった。


 その時に私に課せられた使命は、己の使命を一向に果たそうとしないシャルナの代わりだった。


 え?もしかして今のでバレちゃった?


 そう。その通り。 かつて破滅の魔女が3つの国を滅ぼしたというそれって――、実は私の仕業なの。


 戦争国家だったその3か国は世界を戦争の渦に陥とし入れる最大の要因だった為、それらが滅びた後は世界には平穏がもたらされた。

 しかし、国を丸ごと破壊するという事、それも3か国。いくら平和がもたらされたとはいえ、あまりに暴力的で非人道的なその行為を褒め讃える世情は無かった。

 そして、たった一人で3か国を滅ぼしたというその圧倒的魔法力は人々の恐怖心を煽る事となった。


 見事に神託に従ってみせた私へ女神様は褒美として一つ願いを聞き入れてくれると言ってくれた。

 無論、使徒である私の望みは人間になる事だ。


 こうして私は女神からの恩恵を受け、念願の人間になった。

 そして、私は魔術を広めながら名声を高め、やがて私は大聖女と呼ばれるようになった。


 憧れだった人間界での成り上がっていく様は実に愉快で、私に優越感と満足感を与え、無上の快感が私の心を震わせた。


 しかしその快感も慣れてくると物足りなくなった。


 もっと欲しい……


 もっと、もっと、もっと人間界で私は称賛されたい。

 その為に私は人間界にとっての『悪』を作り出した。私にとっての踏み台だ。


 私はシャルナにその役割を充てがった。


 まず、私がやった国滅ぼしの所為をシャルナ、即ち『破滅の魔女』の所為だという事にし、その容姿的特徴としては左右異なる瞳色――『異色瞳(オッドアイ)』を挙げた。それが魔女の証だと。


 でも、実際にはそれも嘘。

 『異色瞳(オッドアイ)』は本来は女神の使徒だという証。

 即ち、元は私もシャルナと同じように『異色瞳(オッドアイ)』を持っていたという事だ。


 さて、そんな嘘で固められた私の言葉だったが、そこは聡明なる大聖女様のお言葉と、瞬く間に『破滅の魔女』の噂は世界中を駆け巡った。


 だが、私の言う事に確証は無く。半信半疑の者も多かった。

 そこで私は自ら作り上げた悪――『破滅の魔女』即ちシャルナの討伐へと赴いた。物証を得て世界に私の言葉が本当だったのだと、証明する為に。

 とはいえ対峙する相手もまた女神様の使徒。端的に言ってシャルナは強い。私とて、それなりの覚悟を決めて挑んだ。


 結果、予想通り私とシャルナの魔法戦は熾烈を極めたが、見事勝利は私の手の元へ納まった。

 

 そして私は『破滅の魔女』討伐の証としてシャルナの首を持ち帰り、人々の前でそれを晒し、実際に『異色瞳(オッドアイ)』を見せつけ、私の言葉に嘘が無かった事を証明した。まぁ、実際には嘘だらけだけど。


 こうして私は世界を救った英雄として『大聖女イリアス』の名は今尚色褪せる事なく語り継がれている。



 

 ◎




 陛下より聖女の称号を授かる時、剣聖の授与式も同時に行われた。


 剣聖に選出されたその御方は、稀有な黒髪に男の色香を漂わせ、それでいて凛とした顔立ちのうっとりするような爽やかな美形だった。

 体型はスラっとした細身の長身だが、鍛え抜かれた身体という事が騎士服の上からでも窺い知れた。


 その御方のその名をヴィルドレット・エドワード様と聞いた時、私はニヤリと笑みを浮かべた。


 王国一の美丈夫と謳われるその名を私が知らぬわけがない。


 その麗しい容姿で令嬢のみならず王女までも虜にさせながらも、生涯独身を公言して持ち掛けられる縁談のその全てを拒み、どんな名家の令嬢だろうが、どんな美貌を持とうが、誰も手に入れる事が叶わなかった稀代の色男。


 しかし、誰も手に入れられないものだからこそ余計に手に入れたくなってしまうのが人間の性。


 聖女であるこの私ならば?

 この、神に愛されているとしか思えない美貌を前にしても『生涯未婚』を貫く事が出来るかしら?


 貴族令嬢や王女といった愚女ならいざ知らず、私に見惚れない男などいるはずがない。

 私に手に入れられないものなどあろうはずが無い。


 私は意気揚々とヴィルドレット様に近づいた。


『お初にお目に掛かります剣聖ヴィルドレット様』


『……これは聖女アリス殿。平民から聖女へ成り上がるとはまさに華麗なる下剋上と、感嘆の念を禁じ得ないよ。平民の者達の希望の星だな』


『ふふふ。お褒めの言葉がお上手ですのね。 時に、剣聖ヴィルドレット様。この聖女アリスを妻に娶って頂けませんか? こうして剣聖と聖女が巡り合ったのです。神の御導きに従って……』


『いや、断る』


『――っ!? この私を、聖女を振るおつもりですか!?』


『だからこそだ。俺は君とは恋仲になりたくない』


『私が……聖女だから?』


『そうでなくても俺は誰とも恋仲にはならない。俺は生涯独身を貫くつもりだ』


 屈辱だった。この私の思うようにならない男がいたなんて、と。

 

 どうにもならい。ならば、どうにかするまで。

 ヴィルドレット様からの拒絶はむしろ私の恋心を激しく燃え上がらせた。


 私は改めてエドワード家へ縁談を申し込んだが、結果は同じだった。それでも諦めきれなかった私は執拗にヴィルドレットへ言い寄ったが結局私へ興味を示す事はなかった。


『俺の心はずっと決まった所にある。そこから動く事は決して無い』


 その言葉の意味が私には分からなかった。ただ、ヴィルドレット様を手に入れる事は私でも叶わないという事だけは分かった。


 こうして私はヴィルドレット様の見目麗しい姿に後ろ髪を引かれながらも、それは()()()手に入れられない存在だという事で自分の中で折り合いをつけ、そして諦めた。


 ……この私が、聖女の称号を持つこの私が、手に入れられなかった……それだというのに――


『――絶対に結婚しないと思っていた、あのヴィルドレットが結婚したんだ』

『――ハンナ・スカーレットという男爵令嬢らしいが』


 ……ハンナ・スカーレットあんたは絶対に許さない。この私が滅ぼしてあげる。



 

「アリス聞いてくれ!! ついにこの僕が王太子に選ばれたんだ!」


 勢いよく開けられた部屋の扉からフェリクス様の晴れやかな表情が入ってきた。


「凄いですわフェリクス様」


「そして君は王太子妃だ!」


「まぁ」


 上機嫌なフェリクス様に追従するように私も『王太子妃』の単語に目を見開いて反応した。

 しかし、その反応もうわべだけだ。


 私の興味はもはやこの男には無い。


 私が一番欲しかった男を私以外の女が手に入れた事実に私の腹の中はどす黒く悍ましい嫉みで満ちていた。

 

「そういえば、わたくし達のお披露目パーティーには是非とも、新婚でいらっしゃるエドワード公爵家のヴィルドレット公子御夫妻も招待したいと思っているのですが」


「エドワード家は筆頭公爵家だ。心配しなくても、もちろん招待者リストの中にあるよ。なんだアリス、君はヴィルドレットと顔見知りだったのかい?」


 フェリクス様は顔をぴくりと引き攣らせた。


「えぇ。もちろんですわ。聖女であるわたくしと剣聖であるヴィルドレット様の間柄が遠々しいわけがありませんわ」


 私に心酔しているフェリクス様はその表情を忌々しく歪めたのだった。

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