二日目
この白い世界で一日が経過した。こんな何もない空間でどうやって時間がわかるのかという疑問に関して俺は浅い答えを返すことになるだろう。ユーの腕時計だ。それで一日たったことを今さっき確認した。
ユーの提示してきた話し合い。これのせいで俺の行動は制限される。ユーから離れることは出来ないし、ユーに質問することもままならない。つまり話し合い以外で話しかけるのは危険がともなうということだ。世間話でもして、「昨日、何食べた?」とか聞いてしまったら終わりだ。終わりじゃないが終わりだ。
ここで最後気持ちの確認をしておくが、俺はこの空間から早く出たい。一刻も早く。
「さて、今日の質問は何にするのかな?」
ユーが唐突に話かけてきた。こっちから来ないからあっちから来たらしい。今日の質問はどうするか。まずは、外のことを聞くか?それとも俺自身のこと?ユーのこと?...いや、考えすぎるのもよくないか。今日、俺が一番不思議に思っていることを聞けばいいんだ。それが案外大事なことかもしれない。
「今日、俺は一睡もしなかった。それはお前が信用出来ないとか、寝具がないからとかではない。とにかく眠れなかったんだ。それにおなかもすかなかった。筋トレをしても汗をかくこともなかった。これは、どういうことなんだ?」
「ふむ、そこから入るか。その質問が今日の話し合いのテーマということでいいかな?」
「あぁ」
わざわざ確認するのか。なら夕飯とかの心配はしなくてよさそうだ。
「...君はこの世界に来て、まばたきをどれくらいした?」
「それは」
普通、分からないとか数えてるわけがないとかいうべきなんだろうが、そこに関して俺は違う答えが浮かんでいる。
していない。それが俺の答えだった。それが驚くべき、恐るべき、答えだった。
「君がまばたきをしていないのは、君のせいじゃないさ。この世界のルールが君をそうさせている」
「この世界のルール...」
「ああ、この世界のルール。意識は進み続けるが体は留まり続ける。そういうルールが存在するのさ」
「意味が分からない」
「今は分からないさ。だが直に分かる。この世界とはどんな場所で、どういった経緯で、どうして自分が連れてこられたのかその疑問の先に君の脱出が存在するだろう」
「これ以上話してくれないのか?」
「その疑問に答えることも出来ないが、私はこれ以上話す気はない。無論、日常会話なら話してもいいんだぞ?君が話すかどうかは置いとくとすると、だが」
俺の心を見透かしたような発言をしてくる。実際図星だ。俺はユーと話す気にはなれない。何故だか話したくない、信用できない。そんな気持ちが湧き出てくるんだ。
「ただそうだな、明日の疑問を前もって決めておくのはいいことかもしれない。この空間にも何か変化が必要だ」
「なら明日はこの世界のルールについてもっと教えてくれ」
「ふむ、そうだな。君の疑問は当然そこだろうね。明日が楽しみだ」
ユーはにやりと笑い、懐から出した本に目を落とす。これ以上話す気はないとそう俺に伝えているらしい。
こんな少しの話し合いで俺は本当に疑問をなくせるのか?
そんな儚い期待を抱きながら俺は何かをするわけでもなくユーを見つめ続けた。