一日目 後半
「ようこそ、ってお前は誰なんだ?」
赤髪に少し紫の混じった髪質でメガネをかけている。あそこの方は少し控えめで、かなりスタイルがいい。メガネの向こうからくる熱い視線はとてもそんな心地よいものではなかった。
「ふむ、そうだな。私の名前はユーだ。気軽にユーと呼んでくれて構わない」
「あぁ、じゃあ遠慮なく。ユー、一つ質問していいか?」
「質問?一つどころか、君の疑問は全て答えるつもりさ」
「あ?そうなのか。じゃあ、初めにお前はどこから現れたんだ?」
まず最初に。聞いておきたいことがあった。このユーという女は一体どこから出現したのか。姿を現す前までそこに何もなかったはずだ。実際に見ていたのに、気づけなかったのだ。
「ふむ、そうだなぁ。説明するのが難しいが、外から入ってきたといったほうがいいかな」
「外?つまりこの空間はどこかの中っつうことか?」
「それは半分正解というところだな。他に聞きたいこととかあるか?」
「...ちょっと待て!まだそこで不明確なところがあるぞ」
半分正解。では残りの不正解の部分は何だというのだろうか。答え以外の答えを話さない。
補足がない。蛇足が無い。ただ淡々と質問にだけ答えている。そんな機械的な何かを俺は感じた。
「ふむ、君は何でも知りたいということか。なるほど」
「そうだ。だからさっきの半分正解っていうのはどういう...」
「わかった。ならば、話し合いをしようではないか」
「話し合い?」
「そう、話し合いだ。私と君とで一日に一個。君が持っている疑問について話し合うということをしよう」
「待て待て、どういうことだ。理解が追い付かない」
「なぜだ?難しいことなんて何も言っていないと思うが?」
「理解できないのはこの状況についてだ!」
「だからそれを一日一個、私に質問すればいいと言っているんだ。そうすれば直に君の疑問は全て解けるだろう。あ、ちなみにさっきの空間についての質問はノーカンでいいさ。最初はサービスしなければね」
無茶苦茶だ、この女は。こんな得体のしれない女と何日もこの何もない空間で過ごさなければいけないと思うと気が滅入る。俺には到底不可能だ。脱出する方法を探すか?
「君は、ここから脱出しようとかんがえているようだが...ここからは出られない」
「...は?」
「ある特定の条件下で、あることをしない限りはここから出られない。それは私も同じだけれど」
「は、はあ?」
意味が分からない。意味なんて分かりたくない。いや、そもそもだ。こいつの言葉を信用する根拠がどこにある。こいつがただ単に嘘をついている可能性だって大いにあり得るわけだ。ならば今は、落ち着くことが大切だ。
「ふー」
「落ち着いてるところ悪いが、私の言っていることを真実とするしか君は出来ないと思うのだが」
そんなことはわかっている。だが信用したくないのだ。この空間で、どうして簡単に人なんて信用できようか。多分女の言っていることが正しいのだろう。それが答え何だろう。
一分ほど俺は考えそして諦めた。
「...話し合いっていうのは、具体的にどれくらいの期間行う感じなんだ?」
「ふふっ、そうこなくては。別に期間を設定しているわけではないさ。君の疑問が解消されるとき、それが話し合いの終わりになるだけさ」
「なんで、俺たちはここで二人きりなんだ?」
「質問は一日一個だよ。話し合いのルールにあったじゃないか」
「疑問には全て答えるとも言っていたじゃないか!」
「それは一日何個もということではない。一日一個を繰り返していけば疑問には全て答えきれるだろう」
「...くそっ!」
頭がおかしいと思った。狂っていると思った。こんな状況で何を言っているんだ。俺の疑問を解消する?俺の質問に答える?こいつは何でこんなに冷静でいられるんだ?疑問が尽きない。
「その顔、疑問がつかないらしいね。まあ、追々話し合いについてはルールを決めていこうじゃないか」
その女はこちらを興味深そうに見ている。俺の選択を待っているかのように。
俺にはもう選択肢が残っていないような気がした。
何もないこの白い空間で、唯一何かが変わったこの時を手放してはいけない気がする。してはいけないと本能がそう言っている。ならば、俺は。
「...わかった。明日から話し合いをしてやる」
「ふむ、そうだな。明日からよろしく」
「...最後にこれは、独り言なんだがな。俺がお前を殺したら、外に出られるか?」
俺は冗談交じりで言った。だが少しの勇気を振り絞ったつもりだ。さっきまでずっと主導権を握られ続け、少し反撃したくなったのだ。だが女は。
「ふむ、そうだな。君の疑問が全て解消されれば、答えが分かるんじゃないかな?」
女はただ面白そうに笑うだけだった。