一日目
「...んあ?」
突然周りが眩しくなり、男は重い瞼を持ち上げた。目をこすりながら上体を起こした男は周りの光景を見た瞬間、眠気ははじけ飛んだ。ただ男が感じたのは驚きではない。途轍もない困惑だった。
「な、なんだここ?」
周りに広がるのは途方のない白。それが男を迎えていた。
男は困惑した表情で立ち上がり、白い空間を少し歩いた。それは男なりの理解のための手段だったのかもしれない。だが男は唐突に。
「...とりあえず、移動するか」
走り出した。なるべく早く、速く。男はその場を移動した。
「つっても、冷静に考えてこんな場所日本にないよな」
白い世界。どこから光がさしているかわからない。なにせどこにも影が存在しないんだから。男の影すらも存在しない。ならどこから男の目に光が届いているんだろうか。
「端まで行けば、なんかあるだろ」
結果。無理だった。数キロ走ったというところで悟った。この空間には果てがないと。何処まで行っても変わらない風景。男の心を折るにはそれで十分だった。
男はようやく観念して何かを考えることにした。
「この空間って何だ?」
一体、ここはどこなんだろうか。そもそも俺は生きているのか?呼吸はしているし脈もある。これを生きていないといってしまっては、逆に生きているとは何なのかということになってしまう。
「そもそもここに来る意味が分からない」
俺がここに来る前だって何もしていないはずだ。ましてや犯罪など犯すはずもない。タバコだって吸った記憶はないし。仕事だって真面目に...。
「ん?俺がここに来る前って何してた?」
男はここに来て新たな真実に気付く。自分は記憶喪失状態であると。
「けど、名前は憶えてる。住所も覚えてる、けど家がどんな感じかはわからない」
記憶といっても断片的な記憶しか失っていないらしい。だが仕事や身近な関係、そんな生活の些細な部分が消えている。そんな中で男は一つの仮説を立てた。
「これドッキリなんじゃね?」
なんとなくで言ってみたもののそれらしい回答が返ってくることもなかった。
「そもそも、なんで俺はこんな空間で一人なんだよ」
せめてもう一人誰かがいれば。三人寄らずとも、知恵は出しあえるだろう。
「...へえ」
男の背後から声が聞こえた。
「君はこの空間をそういう風に解釈するのか。なるほどなるほど、普通だが悪くはない」
男は声のする方へ振り向く。
声が聞こえるまで全く分からなかった。存在が認知できなかった。音がしなかった。何もない場所からその女性は現れた。地面から浮いたボールに乗って女は興味深そうに俺を観察している、っぽい。
白衣に身を包み、メガネの奥からこちらを見据えるその瞳には、恐怖と魅惑が同時に混在しているようだった。
その女は淡々と言葉をつげる
「ようこそ、二人だけの世界へ」