第四話 冒険者ギルド
今日めちゃくちゃ更新したけど、雑になってきてる気がする。
やっぱり一日二日に一回の方がいいかもしれない。
リーチェが連れてきた、基渚とともに調査に赴いたのは、アルカディア王国、という国である。
治安はまあこの世界の国では有数だ。指折りとも言われており、魔神が見習いたいです、と息巻くほどにその治安は良かった。
何より、通行、関所がない。
王城の城壁にはあるが、そこには門番がいるだけで、そこで身分を証明出来る者が一人でもいれば、それだけで通行許可が下りる。甘い、といえばそれまでだが、それでも三千年を超える歴史を持つ、大国だ。
まあ貴族社会であるこの世界。貴族が権威を振り撒くなどこの国でも当たり前だが、それでもかなり抑えられている方だ。
それでも、下手に膨張してしまわないようにするだけでも、管理手一杯という状況らしく、どうしてものさばる貴族が出てしまうそうだ。
「身分証を提示してもらってもいいでしょうか?」
リーチェに門番が声をかける。
「ええ、いいわ」
リーチェは相変わらずの収納テクで、袖の中から身分証……冒険者カードを取り出し、提示する。
何が書いてあったのかはわからないが、門番がやたらペコペコするようになった。それを見ていた渚は、やはり魔神の精鋭なんだなぁ、と納得した。
「ふう、何回入っても緊張するものね……」
額の汗を手の甲で拭いながら、リーチェが言った。
どうやら、今まで何度も侵入したことがあったようだ。リーチェは今でこそ、『禁忌の大魔女』として魔神軍の精鋭になったが、元は魔神軍の斥候であった。その実力ゆえに精鋭にまで上り詰めたが、本人の意思でいまだに斥候をしているのだ。
「あと、街中ではチェリーね。わかった? 本名はダメよ」
人差し指を立て、リーチェは端的にそう述べる。
やはり、魔神軍の精鋭だからか、あまり名前が割れないようにしているのだろう。
同名なんて探せばいくらでもいるだろうに……、と渚は心の中で思ったが、『憤怒』と当たり前のように喧嘩していたリーチェを思い出し、怒らせてはいけないとばかりに心の中だけに留めておいた。
「そういえば、ナギサ、貴方にまだ戦闘技能を教えていなかったわね。丁度いいわ。教えてあげる。まあ、私の場合、魔法・魔術と槍術しか教えられないけど……」
リーチェは槍術も扱えるらしい。
「槍術は……、いいかな……」
「? そう。じゃあいいわ。ま、まずは貴方の身分証を発行しに行くわよ」
「どこに行くんですか?」
「え? 決まってるじゃない。実力至上主義。実力さえあれば全て良し」
リーチェは少しだけ先を行き、目の前に聳え立つ周りと比べ、多少高い建物を指差し、
「冒険者ギルドよ」
§
「すいません、あの、受付ってここでいいんですよね……?」
リーチェに言われた通り、渚は初め、弱そうな少年を演じていた。
冒険者は舐められれば終わり、とリーチェは言ったくせして、最初はは舐められて、喧嘩を売られる。その喧嘩を買って、勝利すれば舐められなくなる、といった。
というか、脅迫的にやれ、と迫ってきた。
リーチェは『純潔』であるが、それだけだ。
『罪徳』以外の感情を最も持つのが、リーチェなのだ。唯一感情系ではない称号を持つ。
ゆえに、最強とも呼べる。
ケテル、という壁があるが、あれは一種の例外、という扱いになっている。魔神であるカノンもそういう扱いだ。例外。
「ええ、ここであってますよ。では、書類に必要事項を記入しちゃってください!」
元気というかじゃじゃ馬というかな受付の女性に書類と鉛筆を渡され、ある程度虚偽や偽名を織り交ぜつつ、書いた。
リーチェ曰く、本名は絶対にアウト。名乗れば即切り捨て。他にも自分の過去の経歴を堂々と書くのはダメ。事実と虚実を織り交ぜて書けばいいそうだ。
「はいオッケー! じゃ、発行まで少し時間がかかるから、そこら辺で待っててね!」
渚は適当に腰掛けることにした。
そういえば、こっちの世界にきてからというもの、身体に関してあれこれ言われなくなった。昔は女装すれば完璧に女性だったので、文化祭の出し物では引っ張りだこ。元が女性のような体型……75%は女性だったと思う……だったので、初対面の男子から女子と間違えられて告白されたこともある。
髪を長くしたのが悪かったのだが……。
そんなボクに、数人の巨漢が数人寄ってくる。
パーティーなのだろう。
「オイオイ、ここはガキの遊び場じゃねーんだぞ、お嬢ちゃん」
ぴきり、と。
顔に青筋が浮かびそうになった。最近女性扱いをされていなかったからか、かなりイラッとくる。我慢だ。喧嘩を売られてもいない段階、ここで手を出せば面倒なことになる。
「お、こりゃまた上玉だな」
生憎、ボクは男子だ。
そういう同性愛傾向はない。容認はするが、される側には回らない。
男の一人が、ボクのおろしていた前髪を上に上げ、そう言ってきた。
無論、まだ我慢している。手を出されるような事態になれば、性犯罪という扱いで叩きのめす。
人を切り裂く、という快感を知ってしまったボクは、人を殺す、という行為に躊躇いがなくなった。どころか、進んで殺したいと思うほどに……。
男の一人が、ボクの脂肪は多分ないでしょうの胸に手を出してきた。
というか、気にしてみればさっきから体がやけにスースーするというか、すっきりしたというか、なんと言うか、こう、違和感がある。
「やめてもらえますか?」
視線に殺意をのせて、そう言い放つ。
「おー、怖いねー」
まったく意味がない。
冒険者は本当の意味で命を懸ける職業だ。殺意程度で同じていては、成り立たない。
「はいはい、そこまでそこまで。お前ら、初心者狩りはやめておけって言ったはずだぞ?」
何か偉そうな人がやってきたかと思うと、数人の巨漢たちは、急にへり下り始めた。
「す、すいません、ギルド長……」
「「「さーせんでした!」」」
冒険者ギルドは実力至上主義。
力があれば舐められないし、侮られないし、喧嘩も売られないし、むしろ尊敬される。
「さて、君の冒険者カードは私から渡させてもらうよ。こんな風なことになってしまったお詫びさ」
ちなみに、普通はギルド長直々に私に来ると言うことはないらしい。
国からの推薦やすでに功績あるものならば話は別だが、一般加入ではありえないそうだ。
「ありがとうございます……」
カードにはきちんと、偽名として書いた『神美』と書いてある。
と言うか、これって女性の名前だよな? なんでリーチェさんはこんな悪戯じみたことを……。
「神美、終わった?」
「あ、チェリーさん……。あの、身体に違和感があるんですが……」
「ああ、それなら、さっき女性にしておいたから、早めになれてね」
は? と。
驚くこともなく、呆れることもなく、ただただ素っ頓狂な声が飛び出ていた。
§
申し訳ない。
受付の人のところへ行き、記録されてしまった情報から男性、の部分を女性に変更してもらった。
こればかりはどうしようもない、と思い、すいません、と言って変えてもらった。
「チェリーさん、ふざけるのはやめてください」
「元の声が高かったから気づかなかったのね。と言うか、女子の方が需要あるわよ?」
一体どんな需要があるのかわからないが、すでになってしまったものは仕方がない、と割り切る。
今更なおせ、と言っても嫌だと言われて人蹴りされるのがオチだろう。
「それに、元々女子みたいな体型だったのが災いしたのね……」
「人を勝手に実験体にしないで頂きたいのですが……」
「いいじゃない、成功したんだし……」
あなたが良くてもこっちは良くないんですよ……。
そう言っても、どうせのらりくらりと回避されるんだろう。生きている時間が違いすぎるから、超えることができない。
精魂込めてじっくり作られた剣と量産された剣の差だ。
そんなふうに……このままだとボクっ娘一直線の……ボクとリーチェことチェリーが話し合っていると、ちらほらと話が聞こえる。
「おい、あれって特S級のチェリーさんじゃないか……?」
「だよな……」
「うそっ⁉ でも……言われてみればそうかも……」
などなど。
特S級とはなんだろうか、という疑問と同時に、そう噂話されるほどの知名度なのだろうか? チェリーさんは……。
「何かやらかしたんですか?」
「ん? 確か魔竜三頭殺しただけだったけど……」
…………魔竜ってなんですか?
ちなみに魔竜は魔神に与する龍のことだそう。魔神にもいくつかいるらしく、ボクのところの魔神はその中でもほぼトップの立ち位置にあるそうだ……。なんかやばいところに住んでるんだなぁ、と思いましたはい。
「そ、そうですか……」
「さて、それじゃ、AかB+まで早く上がってね。そうしないと、一緒のパーティーにはなれないから……」
そういい、何かのノートを渡してくれた。
「これは?」
「私がAまで上がるときに受けたクエストの数と質。それと同レベルのクエストを同数クリアすれば、Aになれるわ」
優しい。
というか、メモっておいたのだろうか? なぜこうもいいタイミングでそんな物が出てくるんですかね? さすがは熟練の精鋭斥候。用意のレベルが違う。
「それじゃ、私は戻ってるから、頑張ってね……。あ、Aになったらこれで合図してね」
なんか年単位で見られてるはずなのに、ものすごく数日単位で話してくる。
伊達に何千年以上生きているのだろう。もう一年が一日に感じてしまっているようだ。一週間かもしれないが……。
次回はケテルのちょっとした話です。