第二話 鑑定結果とそれから……
眠い。
今日も頑張ってPCを連打する日々……。GWは苦手だ……。休み長いし……。やることないし……。
新しく漫画でも買うか……。
シエルは至極落ち着いた様子で紙に鑑定結果を記していく。
この場の全員が『鑑定』スキルを持っているが、それでもシエルの『叡智』には敵わない。
勤勉の前では、努力や成果を丸裸にされる。
それは魔神であるカノンでさえ例外ではない。強いていっても、理解できない存在だけが鑑定できないようだが……。
『雪村渚 Lv.1
HP 1527/2100 MP 9000/9000
STR 210 ATK 520
VIT 420 DEF 530
INT 447 RES 530
AGI 780 LUK 121
『スキル』
【殺戮】
【暗殺】
〈称号〉
【殺戮者】
所有者及びその仲間に敵対行動を取った事のある相手に対し、ATKを三倍する。相手に一撃入れるたびに、効果が〇・〇一倍増加する。限界はないが、相手に十撃以上の攻撃を受けた際にその効果は途切れ、リセットされる。
スキル『殺戮』を獲得。
取得条件:生物を残忍な手で殺す。1000000/1000000体
【陰からの刺客】
この〈称号〉を持っている限り、相手に大罪系統のスキルが官邸に表示されなくなる。『叡智』は例外。敵から圧倒的に気づかれにくくなる。
不意打ちの威力が四倍。
スキル『暗殺』を獲得。
取得条件:敵意や殺意の類を一切持たずに生物を殺す。1500000/1500000
生物を不意打ちだけで殺す。2000000/2000000』
いの一番に受け取ったケテルが顔をしかめていた。
何が書いてあるのだろうか、と多少ワクワクしていた渚は、その表情を見て、何かよからぬ結果だったのだろうか、と不安になり始めた。
次に受け取ったのはカノン。
カノンは最初こそまあこんな物でしょみたいな顔をしていたが、後半になるにつれ顔がひきつり始め、最後には青ざめていた。
回ってくるのが遅く、それで見たものが青ざめたり天を仰ぐので、待ち兼ねた他の人たちから声が上がる。
「一体何が書いてあったのだ? というか、ケテル、貴様、また面倒な仕事増えたなとか思っただろ……」
「チッ、黙ッてろ。あれ見て平然としてる奴がいたら幹部にしてやるくらいだぞ……」
その言葉に、『傲慢』フロイゲルは全く……、と呟きながら、いまだ顔を青ざめさせてワナワナ震えているリーチェから紙を受け取って読み始めた。
「んー、ステータス値は通常じゃないか……。何々、スキル『殺戮』と『暗殺』。称号は【殺戮者】。えっと、取得条件が腐ってないか?」
フロイゲルがそういうと、周りでそれを聞いていた十人ほどが寄ってきて、寄ってたかって紙を覗き込んだ。
そこには………
『生物を残忍な手で殺す。1000000/1000000』
生物を百万殺すだけならば、この場の誰もができるだろうし、すでにできているだろう。
だが、これは〝残忍〟な手で殺すだ。この中で一番生きているリーチェでさえいまだに罪悪感を抱く。それに対し、いまだ十七歳のこの少年が、罪悪感を抱かず、そして人間でありながらすでに百万を超える生物を殺してきた、と。
さらにいえば、毎回毎回そんな風にしていれば、いつか死ぬ。
ちなみに、渚の中で残忍、というのは全くの不本意であり、むしろ自分は殺しているわけではなく、違う場所に無理やりその生物を送り込んでいる、という認識だ。
まあ敵意も殺意も抱かないわけである。さらにいえば、アリの巣は一つ潰すだけで数百万匹いる場合もある。多分その影響で【陰からの刺客】の百五十万をクリアしたのだろう。さらにいえば、アリは巣に隠れているので、中に火薬やアルコールを大量に打ち込んで、マッチでひをつけて殺しているので、ほぼ不意打ち。
二回ほど百万単位を引けば、それだけで【陰からの刺客】が取得できるわけだ。
だが、それはあくまでも向こうの世界での話で、こっちの世界ではそんな簡単に殺し尽くすことはできない。
例えばだが、できたとしよう。だが、結局いつかは死んでしまう。こっちの世界だと死亡率は向こうに比べて何千倍も上がる。
通り魔がいたとすれば、遭遇率は三十%を余裕で超えるだろう。
それほど差がある。
「……………、そんな……、そんなひどいことを……なぜ……」
『慈悲』である紫が崩れ落ちる。
それに関しては誰も何も思わないらしいが、各々が様々な反応を見せている。
傲慢不遜な態度を崩さないまま、片眉を吊り上げることで驚愕を表すフロイゲル。
興味がない、という様子で枕に抱きつくレムゥ。
カノンに敵対しないならどうでもいい、という様子の甘雨。
驚愕を顔に出すのを我慢する、というゲームをするフィエル。
驚愕をしていながら、どうでもいい、と割り切った。
割り切るしかないほどに、驚愕しすぎた。
「……………、コイツ、処分しねェか……。絶対ェ面倒ォなことになるぞ……」
「だめ……」
「…………、ガードがお堅いことで……」
物騒なことを言い出したケテル の前に立ち、渚を庇うように手を広げるカノン。
カノンがいいなら別にいいらしく、『憤怒』にしては珍しく、食い下がった。
「渚は……どうするの……?」
カノンが上目遣いで渚にそう聞いた。
「うーん、でもいくところないし……」
「じゃあ、ここ、住む……? 渚なら、幹部扱いでも、遜色ない」
渚は顎に手を当て、思案する。
正直いって、本当にいく当てがない。下手に出ていけば、始末される可能性がある。あのケテル、という白髪の少年は、本気だった。本気で、許可を出されれば渚を殺しにきた。
「そうするよ……。どうせ、出て行ったら始末するんでしょ……」
「当たり前ェだろォが。ウチの情報持ッて帰られても困るンでな」
至極当然、とケテルは真顔というか真剣というかの表情で返してきた。
どうやらこっちの方がすの口調みたいだ。どうも言葉に詰まりというか、倦怠感が少ない。敬語は苦手なようだ。
「私が預かるわ。まずはここら辺に慣れてもらいたいですし、市街地全域調査と探索ついでに色々教えればいいですし……」
「そう……、じゃ、じゃあ、リーチェにお願いするね……」
「お任せください」
渚は〝禁忌の大魔女〟と呼ばれる世界有数の魔女のもとに行くことになった。
§
渚は、リーチェに預けられることとなり、まずはリーチェ宅周辺の街を案内してもらうことになった。
「ナギサ、でしたよね」
「え? あ、はい」
「大丈夫ですよ、『謙譲』はあなたではないので」
「えっと……」
正直いってしまうと、リーチェがいっても説得力がない。
どう考えても敬語で喋っているリーチェがいうと、逆に敬語で喋ってね、と言われている気分になってしまう。
「ああ、私の口調ですか? 癖です」
「ならボクもクセだよ」
「…………、性格が捻じ曲がってるわね……」
『純潔』というが、リーチェには夫でもいるのだろうか、と思ってしまう渚。
今まさに敬語ではない喋り方をしたのだが、それに関してはガン無視してしまっている。
「案内、っていったけど、メインは貴方の強化よ。レベリングね。カノン様に名前をあげといて、それが弱いなんて許せないわ」
クセなのだろうか、銀髪をクリクリしながら、勝手に注文したクレープを待つリーチェ。
「まずは貴方の適性を測るわ。魔術適性、魔法適性……、私ができるのはこれくらい。武術に関しては自分で極める以外道はないわ。例外もあるけど……」
やけに含みのある言葉を残し、リーチェは受け取り口の方に歩いて行った。
まだできました、とも言われていないのに、だ。
少しして、リーチェは両手にクレープを持って戻ってきた。
「ま、まずはここの文化になれなさい。そうじゃないと、朝ごはんの用意が面倒になるわ」
「え? まさか朝ごはんクレープなわけ……」
「そんなわけないわよ。常識を持ちなさい……」
呆れ気味にクレープに食らいつくリーチェ。
「ん〜♪ やっぱり糖分摂取はクレープに限るわ」
美味しそうに頬張り、すぐに食べ切ってしまった。
口元についたクリームを舌でペロリと舐めとり、まだ終わらないのとばかりに渚に視線を遣す。
「早くしないと、私が食べちゃうわよ?」
「と言われましても……」
その時であった。
町の奥の方から悲鳴が聞こえた。それを聞き逃すリーチェではない。リーチェ宅周辺、といったが、ここはリーチェが管理する、リーチェの領土だ。そこでの犯罪全てを取り仕切るのはリーチェ。例え魔神であろうと、手出しは許されない。口出しは許されるのだが……。
「手をつかみなさい。行くわよ。まあ、貴方の実力をこれで測るとしましょう」
悲鳴があった付近にリーチェが転移した。
転移魔術、という魔術だ。魔法とは違い、こちらは魔力を使用せず、魔力送料で移動できる距離が決まる、というものであった。
「あ、リーチェ様!」
衛兵らしい格好をした男が近づいてきた。
「何があったのかしら?」
「どうやら……」
衛兵曰く、人間界からの刺客らしく、数人の男女が重症とのことだった。
攻撃も特殊で、並の回復魔法では回復できず、現在混乱状況にあるとのこと……。
「はあ……、またなのね……」
「え、ええ。またです……」
リーチェが自嘲まじりにため息を吐く。
どうやら、自分の領土を完璧に管理できない自分を嘲笑っているようだった。が、それは渚だから分かったらしく、衛兵が青ざめている。
「た、直ちに捜索を開始しますので……!」
「ああ、いいわ」
リーチェが片手をひらひらとして、そういった。
「かしこまりまし……え?」
「だから、やらなくていいわ。別に試してないわよ。今回は、ナギサ一人に任せるわ。どこまでできるか知りたいもの」
「は、はあ……? して、こちらの方、人族ではないですか……?」
衛兵が、恐る恐るという様子で聞いた。
それに対し、リーチェは怒るでも笑うでもなく、ただ平然と……
「それが?」
と答えた。
「し、失礼いたしました。では……」
「ええ、ありがとうね。あとは……」
リーチェが片手を横に振る。
その先にいるのは、寝かせられ、並べられた重傷者たちだった。
リーチェが片手を横に振るのと同時に、その重傷者たちの周りに淡い緑色の光と粒子が現れ、そして消えた。
消えたときには、重傷者全員の傷が塞がっていた。渚は、これが『純潔』か、と妙な納得をしていた。
「ああ、それとナギサ、今のうちに痕跡を探しててもらえる? 私は応援を呼ぶから……」
リーチェはそういい、路地裏の方に歩いて行った。
次回からは魔界での生活が完全にスタート。
ですが、まずは事件処理から……。がんばれ、渚。
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