後編
思い出に浸っていた弘恵ちゃんは、
「ワン! ワン、ワン!」
ユッキーが嬉しそうに吠えるので、顔を上げました。
すると、前から歩いてきたのは……。
「幸人くん!」
たった今、弘恵ちゃんが思い描いていた幼馴染です。
彼からもらった手袋を意識して、ギュッと手に力が入ります。
急に寒くなったわけではないですが、さらに顔が赤くなりました。
「おはよう、弘恵ちゃん!」
元気に挨拶する幸人くんは、なぜか台車を押しています。こんな雪景色の日に、いったい何をしているのでしょう?
よく見ると、その台車の上に載っていたのは……。
「雪だるま……?」
「そう! 俺が作ったのさ! すごいだろ?」
「でも、これ……」
すれ違う手前で足を止めて、二人は話し始めました。
「……雪だるまっていう形じゃないわよね?」
「まあな。そこが自慢だぜ!」
普通、雪だるまといえば、丸い雪の塊を二つ重ねた形です。ダルマ型なので『雪だるま』と呼ばれるわけです。
でも幸人くんのは、ダルマ型ではありません。横に長めの胴体の、真ん中ではなく前の方に、ちょこんと頭がのっています。さらに、雪で四つ脚も作られていました。もちろん雪の脚では重さを支えられないので、立った状態ではなく、おすわりの姿勢になっています。
「もしかして、犬のつもり?」
「そう! これなら、アレルギーの母さんも大丈夫だからな!」
確かに、雪で作った『犬』ならば、その心配はありません。しかも、台車に載せれば、こうして『犬』と散歩することも可能です。
今までペットを飼えなくて、犬の散歩なんて夢のまた夢だった幸人くん。だから彼は今、本当に幸せなのでしょう。
幸人くんの表情を見て、弘恵ちゃんはそう感じたのでした。彼の本当の気持ちを知らずに。
「ワン! ワンワン!」
「ほら、ユッキーも喜んでるぜ。俺が作った雪の犬、本物だと思ってるのかな?」
「そこまで馬鹿じゃないわ、うちのユッキーは」
二人の間で跳ね回るユッキーを見て、弘恵ちゃんも幸人くんも頬が緩みます。
「ほら、私たち二人に拾われたのは知ってるからね。二人が一緒で、二人に構ってもらえると、いつも以上に嬉しいんじゃないかしら?」
ある意味、ユッキーは二人の子供みたいなもの。そんな恥ずかしいこともチラッと考えながら、弘恵ちゃんは、犬の気持ちを想像したのですが……。
実際のところ。
「二人の気持ち、僕でもわかるくらいだよ! 早く告白しちゃいなよ! じれったいなあ、もう!」
と伝えたくて、茶色のコーギー犬は、ワンワン鳴いているのでした。
(「ゆきのいぬ」完)




