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ゆきのいぬ  作者: 烏川 ハル


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3/3

後編

   

 思い出にひたっていた弘恵ちゃんは、

「ワン! ワン、ワン!」

 ユッキーが嬉しそうに吠えるので、顔を上げました。

 すると、前から歩いてきたのは……。

「幸人くん!」

 たった今、弘恵ちゃんが思い描いていた幼馴染です。

 彼からもらった手袋を意識して、ギュッと手に力が入ります。

 急に寒くなったわけではないですが、さらに顔が赤くなりました。

「おはよう、弘恵ちゃん!」

 元気に挨拶する幸人くんは、なぜか台車を押しています。こんな雪景色の日に、いったい何をしているのでしょう?

 よく見ると、その台車の上に載っていたのは……。

「雪だるま……?」


「そう! 俺が作ったのさ! すごいだろ?」

「でも、これ……」

 すれ違う手前で足を止めて、二人は話し始めました。

「……雪だるまっていう形じゃないわよね?」

「まあな。そこが自慢だぜ!」

 普通、雪だるまといえば、丸い雪の塊を二つ重ねた形です。ダルマ型なので『雪だるま』と呼ばれるわけです。

 でも幸人くんのは、ダルマ型ではありません。横に長めの胴体の、真ん中ではなく前の方に、ちょこんと頭がのっています。さらに、雪で四つ脚も作られていました。もちろん雪の脚では重さを支えられないので、立った状態ではなく、おすわりの姿勢になっています。

「もしかして、犬のつもり?」

「そう! これなら、アレルギーの母さんも大丈夫だからな!」

 確かに、雪で作った『犬』ならば、その心配はありません。しかも、台車に載せれば、こうして『犬』と散歩することも可能です。

 今までペットを飼えなくて、犬の散歩なんて夢のまた夢だった幸人くん。だから彼は今、本当に幸せなのでしょう。

 幸人くんの表情を見て、弘恵ちゃんはそう感じたのでした。彼の本当の気持ちを知らずに。


「ワン! ワンワン!」

「ほら、ユッキーも喜んでるぜ。俺が作った雪の犬、本物だと思ってるのかな?」

「そこまで馬鹿じゃないわ、うちのユッキーは」

 二人の間で跳ね回るユッキーを見て、弘恵ちゃんも幸人くんも頬が緩みます。

「ほら、私たち二人に拾われたのは知ってるからね。二人が一緒で、二人に構ってもらえると、いつも以上に嬉しいんじゃないかしら?」

 ある意味、ユッキーは二人の子供みたいなもの。そんな恥ずかしいこともチラッと考えながら、弘恵ちゃんは、犬の気持ちを想像したのですが……。


 実際のところ。

「二人の気持ち、僕でもわかるくらいだよ! 早く告白しちゃいなよ! じれったいなあ、もう!」

 と伝えたくて、茶色のコーギー犬は、ワンワン鳴いているのでした。




(「ゆきのいぬ」完)

   

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