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魔人兄妹の隠遁生活  作者: 月見夜メル
3章:暗躍の王都
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魔人兄は入浴する

 木で作られた浴室の引き戸を開くと、クロの視界は湯気のスクリーンに覆われた。


「広いな……」


 浴室は約16畳程の広さがあり、奥の壁際が湯船になっている。両側の壁には3基ずつシャワーが備えられていた。孤児院併設だったり、旅人を泊めたりすることもあって多人数での同時使用を想定した作りになっているらしい。


 クロは洗浄魔法を使い体の汚れを消し去ると、湯船に近づいて行った。


 その瞬間、にわかに水面が泡立ち、「ぶはあ!」という声を上げながら湯中から子どもが2人飛び出して来た。


「どうだ!俺の勝ちだろ!」


「いや~今のは同時だったよ~」


 それは先程クロが礼拝堂で出会った少年たちだった。どちらが長く潜っていられるかという勝負をしていたらしい。


「いいや今のは絶対俺の方が……って、旅人のにいちゃん!?」


「あ、ほんとだあ。シスターミラとのおはなし終わったんだね~」


「ああ、ついさっきな……」


 クロは足先で湯加減を確かめると、静かに湯船へと浸かった。子どもが入るということもあってか、湯の温度は控えめだった。


「いつの間に入って来たんだ……?ぜんぜん気付かなかったぜ……」


「お湯に潜って遊んでいたからじゃないか……?ちなみに今の勝負は引き分けだったぞ」


「うえ!?マジでぇ!?」


「ほら言ったじゃないか同時だったって~」


 間延びした声の少年、ガイが腕組みをしながらどや顔をする。


「すげぇな旅人のにいちゃん……そうだ!にいちゃんもやろうぜ!!長く潜れたら勝ちゲーム!!」


「構わないが、多分勝負にならないぞ?魔法抜きでも5分は潜れるからな」


「言ったなぁ!?じゃあ試してやるよ!!ガイ!!」


「りょ~かい……スタ~ト」


 ガイの合図で同時に湯船へ潜るクロとジュード。しばしの沈黙の後、ジュードが先に水面へ顔を出す。


「うげ、にいちゃんまだ潜ってるじゃん……」


「ジュードは1分オーバーくらいだったね~?」


「マジかよ……俺もかなり潜れた方だってのに……おぉい、にいちゃん!もういいぞ、俺の負けだよー!」


 それを合図にクロが水中から顔を出す。全く息が切れていない。魔人の肉体とは、こういう方面でも頑強だった。


「まだ余裕ありそうじゃねぇか……なぁにいちゃん。ホントに魔法使ってないのか?」


「使ってたら1時間は行ける」


「桁がちげぇ……」


 げんなりした様子のジュードにクロは微笑みを返す。普段イロハと接していることもあってか、初対面の少年たちを相手にしてもあまり緊張は感じていなかった。


「そういえば、俺はまだ名乗っていなかったな。俺はクロ。妹のイロハと一緒に旅をしている」


「島国の人なのか?にいちゃん」


「さあ?名付け親が島国好きだったんじゃないか?俺たちも後で行ってみようとは思ってる」


「でもあの国って行くのが大変らしいよ~?船が滅多に出てないらしいし……」


「それでも行く価値はあるだろうさ」


 主に自分たちの身の安全という意味で、という言葉は流石に口には出さなかった。島国への連絡が悪いというのはリサーチ済みである。行くには骨が折れるだろうが、それは追っ手も同じことだ。


「そっか……にいちゃんたち、ここを出たら島国に行っちまうのか……でも、しばらくはここにいるんだろ?」


「ああ、そのつもりだ」


「じゃあさ!」


 ジュードが急に立ち上がった。あまりの勢いに水しぶきが散って波が立つ。


「にいちゃんが暇な時でいいんだ!俺たちに稽古を付けてくれ!!」


「稽古?」


 クロはきょとんとした表情になった。


「僕たち、冒険者目指してるんだ~。だから、部屋を借りにきた旅人さんに戦い方を習ってるんだよ」


「春になれば俺たちも養成学校に入れるけどそれまで待ちきれないんだよ!お願いだにいちゃん!!」


 ジュードとガイの真剣な眼差しを見て、クロはギルドマスター・ゴドノフの言葉を思い出した。


『どうかその力を、人々のために役立てて欲しい』


 遅かれ早かれ、自分とイロハはいずれこの街を去る。それ以降はメダリアの住人の役に立てるという保証はない。だが、この街の未来を担う子供たちに自分が持っている技術を伝授できれば、それはそれでこの街への貢献となるのではないか?と、クロはそう考えた。


「……わかった。応じよう」


「よっしゃあ!サンキュー、にいちゃん!!」


 ジュードは湯を弾けさせながら快哉を叫んだ。


「僕たち、日中は中庭にいるから、おにいさんの都合がいい時に来てくれると嬉しいな」


「わかった」


 その後クロは、身体が十分暖まるまで、子供たちに話せる範囲で旅の話を語るのだった。

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