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魔人兄妹の隠遁生活  作者: 月見夜メル
プロローグ
1/165

魔人兄妹は休息する

 長い年月を経て光沢の失せた大理石の壁や床の表面を、黒い波紋が撫でて行く。波紋が通り過ぎた部分からは埃やカビが取り除かれ、細かいキズも次々に塞がって行った。


「取り敢えず、一晩明かすだけならこれで十分か?」


「……本格的に住むには、色々足りないね」


 壁に向けて波動を放っていた手のひらを下ろしながら、ボロボロの黒い外套で頭の先から膝の辺りまでを覆い隠した青年と少女が疲れ混じりの声を発する。


 青年は長身で痩せ型であり、少女の方は華奢で青年より頭1つ分程背が低い。双方ともに肉付きが足りておらず、栄養状態があまり良くないのが外套の上からでも見て取れた。


「その辺は明日考えよう。今は休息を優先するべきだ。俺も、お前も」


「はい、にぃ様」


 2人は同時に外套を取り払って輝きを取り戻した大理石の床に広げ、その上に横たわった。外套の下からは白い手術衣と、同じくらい白い髪、そして何処か不自然さを感じさせる、造られたような美貌が現れる。


「今夜は……安心して眠れるかな」


「眠れるさ、というかそうでないと困る。俺たちはいい加減に疲労を取り除かなきゃいけない。主に精神の方の」


 ほっそりした少女の体を抱き寄せながら、青年はこの部屋――迷宮と化した古代遺跡の奥にある1室にたどり着くまでのことを思い返す。


 盗賊や森に棲む獣と、()()()()()()()。それらを警戒しながらの野宿は、とても気の休まるものではなかった。この部屋も完全に安全とは言い難いが、少なくとも人里からも街道からも離れたこの遺跡を根城にしている盗賊はいないし、迷宮に巣食う生物もどういうわけか部屋には近付いて来ない。2人にとっては、警戒すべき対象が減るだけでもかなりありがたかった。


 追手の方は遺跡にまで踏み込んで来るかもしれないが、数々のトラップと凶暴な生物が蔓延る迷宮内でこの部屋を見つけ出すことがまず至難の業だし、万が一接近を許してしまった場合にも備えていくつも“仕込み”は終えていた。


 ひとまず今夜はゆっくり休むことが出来るはずだ、と青年は考えていた。


「……そうね、にぃ様。私も……疲れたわ」


「ああ、しっかり体を休めるといい」


「ん……」


胸に額を押し付けて来る少女を抱く腕に力を込めながら、青年も押し寄せる眠気に身を任せた。

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