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唐揚げ棒

作者: 雅樂 多祢

俺は見上げる構図が好きだ。理由は特にない。

 きっと上京してきた連中には理解できると思う。見上げる何かがある、たったそれだけのことで、街が、こんなにも、魅力的に映るってことが。

 別に田舎が嫌いって訳じゃ無い。田舎は田舎なりの魅力に溢れている。ただそうだな、田舎生まれの俺からしたら、都会に住む人たち以上に魅力を感じてしまうのだろう。都会なりの魅力ってヤツに。

 空気は淀んでて、道路には煙草の吸い殻、毎晩のようにパトカーのサイレンが鳴って、電車は毎週のように人身事故、スーパーの野菜は不味ければ、家賃は馬鹿みたい高いし、かといって日当たりが良い物件とは言えない。冷静に考えてみたらこんなにも劣悪環境。なのになんでこんな所を好き好んで住むんだろうな。俺の考えは、俺にも分からん。

 狭いアパートを出て三分、コンビニについた俺はいつも通り夕飯を買う。俺のマイブームはサラダスパゲッティと唐揚げ棒。レジを済ませ外に出た。見上げる空には何もない。街の光が食い尽くした空は、虚無に近い。吸い込まれそうな黒。上京した夜はこの空に唖然としたんだっけ。三日も経てば人間大抵のことは慣れると言うけれど、そんな慣れてしまった自分がちょっとだけ寂しい。

 歩きながら食べる唐揚げ棒。この味は本来、俺の中では特別な日だけのものだった。

 俺の地元は福岡と熊本の県境に位置する陸の孤島。どこへ行くにも車を使うレベルの田舎で、幼い頃の俺の行動範囲には、常に限界があった。コンビニエンスストアは家から二キロ先に一軒だけ。それもそこは校区外。コンビニエンスとは名ばかりだと、今の俺ならそう思う。何か親の用事について行くときにごく稀に寄れる店、それが俺の中でのコンビニエンスストア。都会の人が遊園地とか水族館に行くレベルの夢のテーマパーク、コンビニエンスストア。だからだろうな、唐揚げ棒を食うと特別な味がする。え? 唐揚げ棒の味には慣れないのって? いやそれは何というか、慣れるとか慣れないの話じゃ無いって言うか、俺にとっての特別が唐揚げ棒というか、そんな感じ。言語化は難しい。都会生まれの人たちには理解すら難しいかも、だけど。

 食べきった串を袋に入れる。着いたアパートの二階、部屋の鍵を開けた。鍵を閉めドアチェーンをする。母曰く、ここまでしないともしもの時に危ないらしい。もしもの時、とは一体何時なのだろうと俺は思うが。

 田舎の大人は都会の事を危険だの怖いだの囃し立てる。自分たちはずっと箱庭みたいに閉鎖された環境下にいて、都会の事なんて全く知りはしないのに。愚かだよ。ほんと愚か。何も知らずにそこまで言える地元の人達も、唐揚げ棒一本を特別視する俺も。どうかしてる。

 満足とは言いがたい量の夕餉。コンビニから買ってきたサラダスパゲッティは酸味がきいていた。


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