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窓辺の王

作者: ekaki

約2年ぶりの投稿です。

久しぶりに書いた作品なので、以前にも増してグダグダになったような…?

兎にも角にも、読んで下さる方がいれば、それだけで十分。嬉しい限りです。

 「これはこれは王様、このような所で何をなさっておいでで?」

「…清水?」

突然現れた俺を見て、二条は怪訝そうな顔をして聞き返した。

 今はもう物置と化した、旧校舎の三階、一番右の教室。

目の前の旧校舎が邪魔で空が全く見えない新校舎とは違い、旧校舎からはグラウンドも、広がる大空も見る事が出来る。

そんな旧校舎の中でも、角部屋と言う事もあり、この部屋は一番良い景色が見られる場所だった。

「何をしに来たんだ?」

「おいおい、こんなとこで授業サボって空眺めてる人間の言う事か、そりゃあ。」

俺が呆れた顔をすると、“それもそうだな。”と、二条はまた空を眺めだした。

「…あ〜、二条さ、いつもここいるよな。星空とかなら分かるけど、普通の空を眺めるのってそんなに楽しいか?」

言葉を必死に探しつつ、ここに来る前に自販機で買ったカフェオレを飲みながら、二条が腰掛ける机の隣に並んで立つ。俺の問いには答えず、黙って空を見続ける二条に、俺も少し空を見上げてみたが、すぐに飽きて二条の顔を盗み見る。

するといつの間にやら、二条も俺の顔を見ていた。

いきなりバッチリ目と目が合って…少しドキリとした。

俺の目を見ているようで、実はもっと深い部分を見透かされているような感覚。…ちょっとだけ、時間が止まった気がした。


 眠くて仕様がない、金曜の六限。おまけに教科が物理と来たものだから、サボりたくもなるよな。

そんな言い訳にもなっていない事を考えながら、未開封のカフェオレを手に、渡り廊下を歩く。

今日は天気が良い。屋上にでも行くかな、とぼんやりと思っている時に、こちらもぼんやりと視界に入った、例のアイツの存在。

旧校舎三階、奥の社会科資料室。…二条。

度々姿を消しては、あの教室に姿を表す、変わり者と噂のクラスメートの女の子。

授業をサボるくせに成績良好、一部の男子に人気があって、クラスで浮いている訳でもなく、明るくも暗くもないクラスメートの女の子。

そんな二条と、無性に会話をしてみたくなった。

二条とは何回か話をしていたが、ちょっと変な奴だなと思う位で、特に気にした事は無い。

しかし、あの教室の窓辺に座り、無表情に空を見上げる二条を見た時、自分の心の中に、確かに二条が現れた。

ズドン、という擬音と共に、まるで偉そうにふんぞり返る王様の如く、俺の中に二条が陣取った。

自分でもよく分からない、謎の衝動。

それに駆られ、俺は二条の居る教室に向かった。

“空を見上げる変人の王様”なんて、なんか笑えるな。

そんな事を思いながら。


 「…あ〜、二条サン。俺さ、別にアンタと睨めっこしに来た訳じゃないんだけど…。」

数秒間の睨めっこ。恥ずかしさやら予想外の緊張やらに耐えきれなくなった根性無しの俺。目を剃らすと、二条は無表情のまま視線を外に向け、ある箇所を指差した。

「空を見てる訳じゃない。見てるのは、アレ。」

「…は?アレとは…」

「アレだ。あの鳥。」

二条の指さす先。そこでは、一羽の鳥が大空を舞っていた。

大きな翼を自在に操り、大空を見事なまでに飛び回るその鳥は、群れを持つわけでもなく、ただ一羽でこの学校の上を支配している、そんな風に見えた。

「…なんだろな、鷹か?」

「分からない。だが…」

二条は鳥を見つめながら、ボソリと呟いた。

「…私はあの鳥に、憧れている。」

「…憧れ?」

意外だった。俺の中にある二条の人間像は、もっと現実主義で、憧れとか夢とか、そんなモンは下らないと考えている…そんな風に思っていたから。

「うん、憧れだ。」

いつも無表情な二条が、自嘲気味に、僅かに笑った。

「憧れ…ってのは、具体的に言うと、どんな?」

ちょっと突っ込みすぎかな、と思ったが、聞いてみたくなった。二条に、二条という人間に、二条が見ている世界に、純粋に興味が沸いた。

二条はもう例の無表情に戻っていて、チラリと俺の顔を見ると、すぐにまた視線を空に戻し、独り言のように語り始めた。


 あの鳥は、王様みたいだ。

ずっと一羽で飛んで、他を寄せ付けず、他に寄り付く事も無く、ただ一羽、この大空を駆け巡っている。

…アイツは、何を思いなから飛んでいるんだろうか。

もしかしたら、何も考えていないのかも知れない。

でも、私はアイツが“自分は特別だ”と考えているんじゃないかと思う。

自分はこの大空の王様だ。

だから誰も近寄らないし、誰にも近づかない…とな。

でもアイツは、自分が偉大だと思っている反面、自分が孤独な奴だとも感じているんじゃないだろうか。

…王様っていうのは、みんなの上に立つ存在だ。

だから王様はいつでも敬遠の対象だ。王様には、本当に心許せる存在なんていやしない。それはとても苦しい事で、辛い事だ。…それでも、アイツは飛んでいる。ただ一羽、寂しさ…孤独に耐えて、この大空で、私の中で、高く高く飛んでいる。私はそんなアイツの強さが好きだ。あの大空の王の、心の強さに憧れているんだ。…授業をサボる程に、な。


「…高校生にもなって言うことじゃないな。恥ずかしい。忘れてくれ。」

二条はちょっと俯いて、少し恥ずかしそうに笑った。

いつの間にか赤く染まり始めた空。あの鳥は、まだ飛んでいる。夕陽に照らされる二条の横顔が、心なしか少し寂しげに見えた。

「…俺がここに来た時、二条の事“王様”って呼んだろ?すげぇ下らねえけど、お前が王様に見えたんだ。“空を見上げる変人の王様”にさ。なんか知らねえけど。」

「…それは誉め言葉…なのか?」

二条は顔を上げると、ちょっと困惑したような表情で首を捻った。

「いや、その時は全然誉め言葉じゃなかった。でも、二条の話聞いて、ちょっと変わった。それはさ…っうわ!?」

六限の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。

「…続きは?なんなんだ?」

しかしそんな事は関係ないとばかりに、二条は興味津々に聞いてくる。こんな二条初めて。

一方俺はと言うと、突然の中断を余儀なくされた事で、続きを話すのが訳もなく恥ずかしくなっていた。

「…終わりっ!答えは自分で探せ!」

俺はそう言い放つと、空になったカフェオレの箱を握りしめ、逃げるように廊下に出た。

「な…なんだそれは!気になるぞ!」

しかし二条が追ってきて、両手を広げて行く手を塞ぐ。

「私だって話したんだ!清水も話すのが道理だろう!」

言い返す言葉が見当たらない。しかし言うのは恥ずかしい。

「わかった!言わない代わりにラーメン奢ってやるから!それで許せ!」

「ラーメン!?そんなもので私が買収されるとでも…いやまてラーメンか…ラーメンラーメン…」

二条がちょっと渋い顔で考え込む。ラーメン好きなのか。意外だ。

「…よし、わかった。ラーメンで勘弁してやろう。そうと決まったら早く教室に戻るぞ。」

と、二条はさっさと教室に向けて歩き始めた。俺もなんとか誤魔化せたとホッと胸をなで下ろしつつ、二条の後ろに付いて歩き始めた。


 “空を見上げる変人の王様”は、“窓辺の王”になった。

二条の世界を知る毎に、変わっていく俺の中の二条。

たった一時間。

その短い間に、二条は俺の中での自分の位置を確固たるものにした。それは“窓辺の王”。旧校舎三階、一番奥の部屋の窓辺にて、理想を見つめる王様だ。…二条があの鳥に憧れを抱いたように、俺も二条に憧れを、興味を抱いた。二条の世界をもっと知りたい。それを知って、自分も誰かの…二条の心に残るような“王様”になりたい。そう願うようになった。…恥ずかしいから、言わないけど。


「あっ!」

前を歩く二条が急に止まり、思い出したように声を上げた。

「なんだ、どうした。忘れ物か?」

「あぁいや、違う。清水に言い忘れていた事があるんだ。ラーメンの事なんだが…」

「ラーメン?まさかラーメン嫌いとか?なら別に他のでもいいけど、高校生に優しい値段にしてくれよな。」

立ち止まった二条の横に並ぶ。しかし二条がラーメン好きでも意外だが、ラーメンが嫌いな日本人がいるというのも意外だ。

「いや違う。ラーメンは好きだ。味噌が好きだ。だが…」

二条がちょっと照れくさそうに俺の顔を見た。こんな二条初めて。

「あまり熱いのは勘弁してくれ。なんだ、その…結構な猫舌なんだ。」

意外だった。

ご愛読、どうもありがとうございます。

前書きの通りかなり久しぶりに書いたので、以前にも増してかなりグダグダになっていたと思いますが…これでも一生懸命書いたんですよ(笑)

長い間を空けてしまいましたが、これからも頑張っていこうと思いますので、宜しくお願いします。

誤字脱字の報告、その他感想や執筆する上でのアドバイス等を頂けたら嬉しいです。

最後になりましたが、ご愛読、本当にありがとうございました。

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