終末者
―第二話終末者―
俺は…街を彷徨っていた…俺を殺してくれる存在を探して。
永い年月を生きているせいか俺には記憶障害が現れ始めていた。覚えていたはずのこの街の名前すら今はもう思い出せない。
今あるのは旅の目的のみ。それを達する為なら何を犠牲にしてもいい。
「…………………」
街の裏道を彷徨っていると、建物の屋上から俺の目の前に何かが飛び降りて来た。
「てめぇ…誰だ…ずっと俺を追跡していた奴か…」
俺はこの街に来てずっと誰かに追跡されていると感じていた、俺の存在を知っている奴は五千年経っても少なからずいる。
そして俺は…俺の存在を知っていて俺に挑みに来たのであろう、その追跡者が現れるのを待っていた。
「やっぱり…バレてたよね…」
目の前に現れたのは両目を瞑った髪の短い白い髪の少女。
「…何で俺を追跡してやがった…俺の存在を知ってたのか…?」
背中に背負った剣に手をかけながら目の前の少女になぜ俺を追跡していたのか質問した。
「ヘヴィロテにあなたが…[不死身の戦士]がこの街に来ているって聞いたから…何で追いかけていたのかは追跡しろって言われたからだよ」
ヘヴィロテ…誰だそいつは?なぜ俺を追跡させやがった…
「それで…俺に何の用だ…」
目の前の少女は俺から少し離れて…それから振り返った。
「あなたを…勧誘しに来たの…まぁみんなに会った方が早いね。ヘヴィロテッ!私達を飛ばしてッ!」
目の前の少女が突然大声を出したかと思うと
分かった。では飛ばすぞ。
何もない場所から突然女の声がした。すると足元に魔法陣が出現し俺は違う場所へ飛ばさせた。
「…おい…ここはどこだ…」
飛ばされた俺は…どうやら洞窟のような場所に着いたらしい。洞窟の中には数人の人ではない連中がいた。
「ここは私達のアジト…まずはみんなを紹介するよ」
そしてその少女はその連中の方へ歩いていき
「この車椅子に座っている綺麗な女性が私達をここへ飛ばした[悪魔の頭脳]ヘヴィロテだよ」
「はじめましてだな…私はヘヴィロテ…[石化の]と[不死身の]をここは飛ばしたのはこの私だ、よろしく」
目つきの悪い車椅子のこの女がこいつに俺を追跡しろと言った奴か。
「次は彼…身体中に目がたくさんある人が[精神破壊]マインド」
「君が不死身の戦士…実に興味深イ…」
ギョロギョロと気色の悪い目がこちらを見てくる、精神破壊とは随分恐ろしい通り名だな。
「次は彼ね、体半分が邪神みたいな人が[異形の戦士]グリーク」
「異形のグリークっす!よろしくっすね!不死身の戦士さん!」
半分邪神の青年が陽気に喋りかけてくる…邪神はあいつを殺した種族だ…気にくわねぇな。
「次はこの双子ちゃん達、[大災害]男の子がヘル、女の子がメル…双子ちゃん達の隣にいるのが[怨嗟の呪詛]ザーク」
「よろしく…」「よろしくです…」
「死……死…死……死…死……」
「あそこにいる武将髭の大男とポニーテールの女の子が私達の中で最強の[腐蝕の太陽]ロッサと[滅びの唄]ロスト」
「不死身の戦士君…はじめまして私の名前はロッサです。よろしくお願いします」
「私は…ロスト…よろしく…不死身さん」
全員の紹介を終えると俺に振り返り…
「そして私は[石化の瞳]シャネリ」
「お前…目を瞑っているのに…何で全員の場所と見た目が分かってんだ…」
目を瞑った状態で少女は俺のいる所へゆっくりと歩いてきた
「空気の振動で人の形と場所はある程度は分かるんだ、あと匂いや音で…だからあなたを目が見えなくても追跡できたって訳」
「空気の振動ねぇ…で、こんな豪勢な連中が俺に何の用だ…勧誘とか言ってたが…俺と戦う気はなさそうだな」
俺の質問に答えてくれるのかシャネリと名乗った少女が車椅子に乗ったヘヴィロテを押してきた。
「[不死身の]お前に一つ質問する…ある国が謎の集団によって三十分程で滅んだという話を聞いた事はあるか?」
噂程度だが…聞いたことはある、数人の集団が世界最高峰の騎士団を持つ国をほんの数分で滅ぼしたという噂だった…だがそれを聞いたのは百年以上前だ。
「あぁ…百年以上前に少しだけな…」
「知っているのだな…その集団は、今はもう滅ぼされたと言われている……だが違う…」
だが違う?百年以上前の噂だぞ…百年以上生きる人間なんて……
「おい…まさか…お前ら……」
薄ら笑いを浮かべるヘヴィロテ…それからゆっくり続きを語りだした。
「その集団は今でも存在する…[不死身の]お前の目の前にな……改めて紹介をしよう我々は《終末者》…世界を滅びへ導く者達だ」
「そんな集団が…なぜ俺を勧誘しようと思ったんだ?」
ヘヴィロテはフフフッと軽く笑うと
「[不死身の戦士]お前は我々にとって最高の戦力になる…それに、我々の仲間になれば[不死身の]お前の目的も果たせるかもしれんぞ」
「はぁ?…何で初対面のお前が俺の目的を知ってやがる…」
俺はこいつと会うのは初めてだ…目的を知っているはずがねぇ…どうやって知りやがった…
するとヘヴィロテは人差し指で自分の頭を指差し
「さっきシャネリが言っただろう?[悪魔の頭脳]と…相手の考えを読む道具を作るなど造作もない」
「フンッ…そうかい…俺の目的が達せられるかもしれないっても言ったな…今度はそれを教えろ」
ヘヴィロテは「まったく質問が多いな」と言ったが、ここは俺の機嫌を取りたいのか教えてくれた。
「我々は世界を滅びへ導く際に必ず聖騎士と対する事になる…聖騎士の中にはロッサと同等の騎士などもいると聞いた…可能性の話だが不死者のお前を殺せる騎士もいるかもしれん」
「俺を…殺せる……騎士……」
こいつらの仲間になれば…俺は死ぬ事ができるのか?あいつの場所へ…リンネの場所へ行くことができるのか?
「さぁ、[不死身の]悪い話ではないはずだ。我々の仲間になるか、ならないか…決めるのはお前だ」
こいつらは世界を滅ぼす事が目的…俺は死ぬ事が目的…世界を滅ぼそうとすれば…俺は、死ぬ事ができるかもしれない。
なら答えは決まっている、例え正しい道から外れようと…あいつの場所へ行くためには手段は選ばない、非情にだってなってやる。
「いいぜ…なってやるよ、お前らの仲間に。目的を達する為に…世界を滅びへ導いてやる」
ヘヴィロテが薄ら笑いを浮かべて
「なら早速…[不死身の]、お前と世界に見せてやろう…我々の力を…存在を…」
クイックイッと指を動かし、ロッサとロストをヘヴィロテは呼んだ。
「[腐蝕の]と[滅びの]に仕事だ、[石化の]達がいた街を…そうだな、五分で滅ぼしてこい。[不死身の]はついて行って二人の力を見てくるといい」
「五分ですね…了解です」「…分かった…唄ってくる」
仕事を与えられたロッサとロストそして俺はここへ飛ばされた時と同じように足元に魔法陣が出現しそのまま飛ばされた。
正午を過ぎたばかりの平和な街…そこに立つ巨大な建物に飛ばされた俺達は今から滅びるその場所を見下ろしていた。
「では…始めましょうか、ロストは数マイル離れた場所へ行ってください。私はこの場所を[腐蝕太陽]で消し去りますので」
「分かった…またね、不死身さん…」
ロストは俺に軽く手を振ると、背中に片方しかない漆黒の翼を生やし別の場所へ飛んで行った。
「不死身の戦士君…私の力はあなたの身体にも影響を与えますが…始めますよ?」
「あぁ、別に構わない…」
俺が許可を出すと、ロッサは黒い靄を纏い空へ飛び上がり人差し指を街へ向け
「素敵な街ですね…ですが、さらに素敵な街へ私が変えてあげましょう…」
ロッサが語り終えるのと同時に、身体に纏っていた靄が一気に飛散した後、ロッサの人差し指に高熱を発しながら集まりだした。
「……腐蝕太陽」
そして不気味な太陽が形成され、ロッサはその太陽を街へ落とした。
ゆっくりと腐蝕太陽は落ちていき、近くの建物がジュクジュクと音を立てて腐蝕し溶かされ始める、そして…太陽が街へ着弾する…一瞬の静寂、そして次に訪れたのは…
ドオッオオオオオォォォォッ!!!
鼓膜をいとも容易く破る程の爆発音と高熱の爆風。熱には慣れていたはずの俺の身体にすら爆風だけで簡単に火傷を負わせた。
ジュクジュク…ジュクジュク
太陽の着弾地点は溶岩のように溶け、その周りにいた人達は完全に灰になり消え去っていた。
「ロストに数マイル離れろと言ったのはこういう事か…」
「あなたのような不死者はともかく…不死ではない彼女はこの熱には耐えられません。ですが彼女の能力も広範囲に影響を及ぼす力です。近くにいればお互いの力で私とロストは死んでしまいますよ」
そしてまた街に視線を向けると、運良く生き残っている人間を数人見つけた。
「…この中で生き残るとは…中々の強運だな」
「可哀想に…せめて、苦しまないように葬りたかったのですが…」
ロッサは黒い靄を纏ったままの状態で、生き残りの人間がいる場所へ降りて行った。
降りた場所には重度の火傷を負っているが運良く生き残った三人の家族と思われる人達がいた。
「うぅ…痛いよぉ…痛いよぉ……」
「たっ、助けてくださいッ!子供がッ!大火傷を負っているんですッ!お願いします助けてくださいッ」
火傷を負った家族が助けを求めロッサと俺にしがみ付いて来た。だがその子供はもう助からない事はすぐに分かった。
ロッサはその家族を見つめて、今度は小さな腐蝕太陽を出現させた。
「なっ、何をするつもりですか…?あなたは私達を助けに来たんじゃ…」
「なに…死を恐れることはありません…今あなた方が死のうと死ぬまいと、時間が経てば最後に死は訪れるのですから」
無慈悲なまでの言葉を目の前の家族にぶつけるロッサ、そして腐蝕太陽を目の前の家族へ近づけ最後に言い残すように一言呟いた
「あなた方が良き場所へ逝けることを祈っていますよ…」
腐蝕太陽で家族の命にとどめを刺し、ロッサは「丁度五分ですね…」と言いながら別の場所を視線を向けた。釣られて俺も視線を向けるとロストが帰って来ていた。
「相変わらず仕事の手際が良いですね…ロスト」
「私が唄えば、周りの人が死ぬ…それだけじゃない…」
一つの国を約五分で滅ぼした二人が、軽い雑談を交え始める。俺が地獄のようになった街を見つめていると「仕事は終わったな?ならアジトに戻すぞ」とヘヴィロテの声がし俺達はアジトへ戻って行った。
アジトに戻ると、薄ら笑いを浮かべたヘヴィロテが寄って来た。
「これが今度から[不死身の]がやる仕事だ」
「あぁ、よく分かったぜ。ただ滅ぼす、それだけだろ?」
さっきの家族が助けを求めて来た時、俺はもう何も感じなかった。その時点で俺はこいつらと同じ存在なんだと実感してしまった。
「フッ、我々と同じ目をしているな…では次からは[不死身の]にも本格的に[終末者]として参加してもらう、以上だ」
それだけを言い残し、ヘヴィロテは去って行った。
[終末者]の達はアジトの中にあるそれぞれの部屋へ戻って行った。
誰も居ない部屋の天井に向かって俺は…もう存在しないあいつに聞いていた
なぁ、リンネ…俺はこれで、良いよな?
お前の場所へ逝くために…約束の指輪を渡すために、俺は世界を滅ぼすよ。
だからさ、待っててくれよ…リンネ…
今回はグレイがこれから共に行動する、世界を滅びへ導く者達[終末者]達が出てきました。
[終末者]達の圧倒的な力は次話からも世界に猛威を振るいます。
次話をお楽しみに…