オークとケンタちゃん(適当)
とある世界。
「うぅむ、このままでは我が国も滅びを迎えてしまう。新たに勇者を呼ぶしか無いのか...」
王は一人呟く。
「王様、私は万全の状態でございます。」
片膝をついてそう発したのは人類最後の国の主力である勇者クロトだ。そして、王の孫でもある。
「クロト、すまんな。毎度勇者召喚を手伝ってもらって。」
「いえ、これも人類軍生存のため。私に出来ることならなんでもお任せ下さい。」
王は玉座を離れ、召喚の間へと足を進める。
「では、魔力の注入を頼む。」
クロトは頷き、王は新たに書いた魔方陣の前に両手を翳す。
王とクロトの回りに青い霧のようなものが漂いはじめ、次の瞬間、魔方陣は強烈な光を放った。
「...クロト?まさか!!」
光が収まった時、そこには灰色の魔力を失った魔方陣と王ただ一人がポツンと残され、クロトの姿は何処にも確認出来なかった。
「転移対象を間違えた...。これは一大事じゃぞ!」
一方、クロトはというと...
「ここはいったい?王様?」
クロトは召喚されるはずだった勇者の転移元である現代日本へ来てしまっていた。
そこへ
「ワン!」
犬だ。なんの変哲もない、可愛い犬である。しかしクロトは
「肉食系の魔物か、ならば」
クロトは剣を抜き、一閃。
犬は断末魔さえ上げること無く絶命。そこへ飼い主であろう女性が現れ
「きゃあああああ!」
「安心しろ、この魔物は既に死んでいる。」
「なんて事を...私のケンタちゃんが...」
クロトは目の前で泣いている女性の事が理解できなかった。
魔物が街に現れれば討伐するのが常識であった。それに、泣いていた女性は棒のような物を持って叫んで走ってきた。
「よくも、よくもケンタちゃんを殺したわね!!」
ケンタちゃんと呼ばれたものが自分の殺した魔物だと気づいたが
「魔物と一緒に暮らしているなんてどうかしている。まさかお前も魔物か」
確かに太ってはいるが「魔物」と言われれば明らかに馬鹿にされている。ぶちギレた女性は持っていた棒でクロトを殴りつけた。が、
「え」
「なんだその攻撃は。やはり魔物か、人語を話せる少し知能の高いだけで戦闘力はゴミ以下だな」
クロトに向かってきた棒を片手で掴み、奪い、へし折ると、自らが持っていた剣で女性を縦に両断。
犬同様に断末魔さえ上げること無く崩れていった。
「はぁ、みたことの無い景色、汚れた空気。そして全く感じられない魔力帯。まさかとは思うが、俺だけでも生き残らせる為にこちらへ飛ばしたのか?」
王の失態を勘違いで生存の意で捉えたクロトは、そうだと信じて辺りの探索へと出たのだった。