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第6話 歌声もポンコツ

 店を出ると、隣のお淑やか美少女はポンコツモードに戻った。


「美味しかったねっ!」

「そうだな……」


 俺は白土に背を向けてため息を吐、あっ、ため息がとんこつ臭い。

 ラーメンをなんとか完食した。個人的な感想はズバリ、美味しい工業廃水。的を射ている。美味かったけど味のインパクトがすごすぎた。ベトベトンがギガインパクトで攻撃してきたのだ。どんな型だよ。

 濃厚とんこつ好きにはたまらない一杯なのだろう。その証拠に白土は満悦した笑みを浮かべる。


「また食べに行こうねっ」

「おう、行けたら行く」

「わーいっ。楽しみ!」

「うーん通じていない」


 ランチが終了。ここからが本格的なデートの始まり。ミッドガル並みのボリュームある時間を過ごして既に俺の気力タンクは空っぽだが。

 しかし白土は容赦なく俺を揺らして話しかけてくる。あなたの元気タンク何リットルサイズ?


「あのねあのね凌君っ」

「いちいち問いかけなくても聞こえているよ。次はどこに行くんだ?」


 さあお前のプランを言ってみろ。ショッピングか? 映画か?

 ニッコリと笑う白土は意気揚々と歩き始めた。


「ちゃんと決めてあるよっ。次のラーメン屋はここから歩いて……」


 戦慄(せんりつ)した。なんと、ラーメンだ。まさかの二軒目だった。ラーメン屋をハシゴ? リーマンの休日かな!?

 さすがに焦る。これじゃあデートじゃなくてラーメン巡りだ。


「ほ、他のにしようぜ」

「とんこつ以外ってこと?」


 ちげーよ馬鹿。ラーメンから離れてくれ。頼むから。なあ頼むって。

 このまま白土に任せたら胃の中で数多のラーメン汁をブレンドさせることになる。恋人っぽいことは何一つ出来やしない。俺が軌道修正しなくては。


「凌君とラーメン……幸せぇ~♪」


 視線を右へ左へシャトルラン。ラーメン以外ならなんでもいい。どこかデートの気分が味わえる場所は……あ、カラオケがある。


「白土、あそこに入ろう」

「ほへ? ラーメンは?」

「おじいちゃん、ラーメンはさっき食べたばかりでしょ」

「わたしはおじいちゃんじゃないよっ。まだ十六歳だもん。老けてないよ! 凌君は知らないの? おじいちゃんってもっとヨボヨボで白髪が多くて顔にシワが刻み込まれて歯がガタガ」

「オーケー俺が悪かった。そんなガッツリとおじいちゃんの定義を語らないでくれ」


 白土を連れてカラオケ店に入る。受付を済ませ、部屋に入って息をつく。まだとんこつ臭ぁい。

 俺はソファーにグッタリと沈み込み、白土は興味津々と室内を見回す。


「わ~、カラオケだっ。カップルってカラオケでデートするの?」

「ラーメン巡りや河川敷よりは遥かに定番だよ」


 まあ俺は彼女とカラオケに来たことがないし、彼女がいたこともねーけどなーあー。

 ……ん? 待てよ? ふと思った。今の状況って、男子なら一度は憧れる『女子と二人きりでカラオケ』というやつだ。ラーメンを回避する為に咄嗟に選んだが、もしや俺はとても良いチョイスをしたのではなかろうか。

 女子とカラオケ……あ、興奮してきた。校内でやる鬼ごっこくらい興奮してきた。オラワクワクすっぞ。


「ねえねえっ、これは何? カラフルな惑星がグルグル回っているよっ」


 俺のワクワクさんは気円斬で真っ二つにされた。女子と二人きりといっても、銀河ギリギリぶっちぎりの凄い奴ことポンコツ白土では興奮よりも不安が大差で勝つ。あーあ、こいつじゃなくて日暮だったら最高なのに。

 言っても仕方ない。ミラーボールに夢中な白土に声をかける。


「カラオケは初めてか?」

「うん、初めてだよっ。これがマイク?」


 白土は天井のミラーボールを見上げながらミラーボールみたいに目を輝かせた後、今度はマイクを持つ&興味を持つ。


「存分に歌っていいよ。やり方は教える」

「ホント? わーいっ」


 マイクの使い方や曲の入力の仕方を教えると、白土は童謡を選んだ。おもちゃのチャチャチャを熱唱するつもりらしい。別にいいけど。


「わ~……き、緊張するね」


 白土は両手でマイクを握る。画面と俺を交互に見て頬を紅潮させ、緊張しながらも楽しんでいるように見えた。あ、可愛い。マイクを持つ姿は国民的アイドルの域に達していた。


「がんばえー」

「うん、わたし頑張るっ」


 やっとデートらしくなってきた。では白土の歌声を聴……待てよ? こいつはお茶目や天然の枠では収まりきらない残念な奴だ。しかもカラオケは初めて。

 これまでの予想だにしない数多の言動から考えるに……ああ、嫌な予感はここ最近よく当たるんだよなあ。


「う、歌うねっ!」


 白土は息を整え、口を大きく開いた。






「……ん。……ょう君。凌君!」

「はっ!?」


 目が覚めた。……え、目が覚めた、だと……?


「もうっ。凌君ったら、わたしが歌った途端に眠っちゃうんだもん!」

「俺は寝ていた、の……?」


 開いた目は丘のように頬を膨らませる白土の顔を捉え、その奥ではカラフルな惑星がグルグルと回る。そこでようやく自分が仰向けでソファーに倒れていることに気づく。

 一体何が起きた。俺は白土の歌を聴こうとして、眠ってしまったのか?


「知らなかった。凌君って寝る時は白目を剥くんだねっ」

「あ、そういうこと」


 俺は寝ていない。気絶していた。白土のとんでもない歌声のせいで意識を失ったのだ。なんか耳の奥が痛いし、三半規管が「自分しばらく職場復帰は無理っす」と言っている。がんばえー三半規管。

 やはり嫌な予感は的中した。白土は音痴。歌もポンコツだった。あなたは見た目以外何もかもがポンコツなんだね……。


「むう、ちゃんと聴いてほしかったのにっ」

「悪かったよ」

「でも凌君の寝顔を見れたから満足っ」


 白土は拗ねたように口を尖らせていたが、頬を崩してとろける笑顔になった。俺も許そう。そして今後こいつとカラオケに来ることがあれば耳栓を持参しよう。さて、立ち上がるか。

 俺は体を起こそうとして、起こせなかった。そこでようやく気づく。


「……どうしてお前は俺の上に跨っているの?」


 起き上がれないのは三半規管が機能停止しているせいではなく、俺の上に白土が乗っかっているから。身動きが取れない。セコンドがいればタオルを投げ込んでいる程の見事なマウントポジションだ。

 白土は俺の上に跨ったまま上体を揺り動かし、とろけるチーズ状態の両頬を手で押さえて幸せそうにニヤついている。


「え、えへへぇ、凌君の上に跨るのが夢だったの」

「どんな願望をお持ちで? 今から何をするつもり?」


 いやらしい意味に聞こえるからやめろよ。この体勢、エッチな漫画だったらアレだぞ。アレがああなってアレがアレでアレだからな。


「凌君の上に座ってる……凌君を見放題、触り放題……凌君凌君凌君でひひぇえ~」

「あの、マジで何するつもり?」

「でも初デートだから我慢するよ!」

「話聞いてる? あとなんでマイクを持っているの?」

「もう一回歌うっ。今度はちゃんと聴いてねっ」

「いやお前こそ聞いて。え、ちょ、話を聞かないし制御も効かないの? やめて、頼むから。なあ頼むって。誰かタオル投げて、この状態この至近距離でお前の歌を聴かされたらヤバ、ああああああ!?」

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